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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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2021年4月の記事一覧

夜の郵便配達「一周忌」2

夜の郵便配達「一周忌」2

3.

「え、何でだよ?」

「ミーの寿命なのよ」

僕は驚かなかった。ミーは16年生きた。寿命なのだ。寝たきりのミーを見ているのも辛かった。それでも死んだ妻の愛猫だから、死んでほしくはなかった。妻が死に、ミーも死んだら、この世にひとりぼっちになってしまう。僕にも妻にも親しい親戚もいないし、友人や知人もいない。

「寂しくなるわね…」リビングのソファに腰掛けた妻が胸に抱いたミーを撫でながら言った。

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選挙野郎!!切り貼りメモ(面白くありませんよ)

選挙野郎!!切り貼りメモ(面白くありませんよ)

「政治はお金がかかる」と政治家は言います。まあ嘘です。政党に所属せず、次の選挙で再選を狙わなければ秘書も不要だし、ダラダラと任期を終えれば、何もしないで支払われる歳費で貯蓄も可能です。

覚書

国費(税金)から給料が支払われるのは政策秘書(有資格)、公設第一、第二秘書の3人だけ。私設秘書は議員の自腹? 政党に属していれば政党交付金から支払える。私設秘書は主に議員の地元で雑務をこなす。再選を考えな

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夜の郵便配達「一周忌」1

夜の郵便配達「一周忌」1

1.

午前1時を過ぎていた。

妻が大事にしていた猫のミーが僕の顔を見つめている。

「どうした?」と言うと「ニャア」とひと鳴きして、自分の寝床から玄関に向ってヨロヨロと歩いて行く。

ミーは、1年前に死んだ妻が可愛がっていた猫だ。今年で15歳になるが、妻が死んでから元気がなくなった。妻が死んでから極度の鬱状態になっていた僕は、ミーを獣医に連れて行く気にもならなかった。そのうちに寝たきりの状態に

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「千代姫の呪い」

「千代姫の呪い」

幕末は徳川慶喜で始まり(将軍継嗣問題)、徳川慶喜で終わった(大政奉還から朝敵)と言っても過言ではありません。幕末という短い期間に、彼は260年も続いた徳川幕府を崩壊させてしまいました。

「幕末維新の美女紅涙録」(楠戸義昭・岩尾光代 共著)という本があります。

それによると、ペリー来航の前の嘉永元年(1848)に、水戸家から一橋家の当主として養子になったばかりの一橋慶喜と大納言一条忠香の娘・千代

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妖の間(あやかしのま)2

妖の間(あやかしのま)2

妖の間は、思った以上に広かった。寝室にあたる部屋とリビングにあたる部屋は大きな引き戸で仕切られるようになっているが、家族にはそんなものは不要だ。一体化されていると考えると20畳以上ある。

「わぁ、広いわねぇ。ほら見て、バルコニーがある。広くて景色もきれい」翔太と真理が、窓が開け放たれたバルコニーに向って走っていく。和風の旅館に洋風なバルコニーは似つかわしくないのだが、何故か和洋折衷風に異様な感じ

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妖の間(あやかしのま)

妖の間(あやかしのま)

佐藤健太郎(31歳)は、25歳の時に「翔理」という小さな飲み屋を妻の理恵(28歳)と夫婦で始めた。以後、約5年間、馴染み客も増え、それなりに経営を維持することができたが、昨年、新型コロナウイルスが世界中にまん延して、日本もその影響を受けて長期のロックダウン政策で収入は途絶えた。自家製の弁当を作って、テイクアウトも始めたが、小さな飲み屋の弁当の需要は少なかった。宣伝する費用もなかった。あっという間に

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千葉佐那のこと

千葉佐那のこと

僕は政治家とか大商人というのは基本的に嫌いです。人として徳がないからです。徳というのは「天分、社会的経験や道徳的訓練によって獲得し、善き人間の特質」のことです。

特に政治家には権力を笠に着て国民を疲弊させる人物が多いように思います。また、規模の大きな商人(つまり中堅・大企業)は、幕末ぐらいから政治に癒着して自分たちの損になるような政策をとらせないように圧力をかけるので嫌いです。これは衆参両議院の

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選挙野郎!!衆議院議員選挙 漆

選挙野郎!!衆議院議員選挙 漆

その日は早朝から駅頭活動だった。駅頭は午前6時から8時までの間に駅の改札口に陣取ってミニ演説を行なうのだ。

選挙時ではなくても「地元密着」を重要視する議員なら月に1~2回は地元の駅で「おはようございます。今日も1日頑張って下さい」などと挨拶しながら自分の「広報チラシ」を配る。広報チラシには自分の毎月の政治活動報告が書かれている。

この広報チラシも自分たちで制作する。昔はガリ版刷りだったが、この

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生死生命論「続 過去に生きる男3」

生死生命論「続 過去に生きる男3」

「母ちゃん…」健介は、ずぶ濡れのまま用水路に立とうとしたが、水流でバランスを崩して、また倒れた。湧水は夏でも冷たい。

それを見て母が健介に手を差し伸べた「なんだ、お前、帰って来たのげ? 5年ぶりじゃないか」母の顔を見ると嬉しそうな表情だった。母が亡くなってから8年ぶりに見る母…。母の顔を見るなり涙が溢れた。母が驚いている。

「母ちゃん、ごめんよ」両手で顔を覆って幼児のように泣いた。

「何だ、

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生死生命論「続 過去に生きる男 2 」

生死生命論「続 過去に生きる男 2 」

「うわっ」探偵紳士のインパネスに覆われた健介は目の前が真っ暗になった。突然、足場が無くなって、そのままスーーーッと、もの凄い速度で地下に吸い込まれる感覚だった。全身の血液が上昇して脳に集まってくる。堪えきれずにそのまま気を失った。

遠くで誰かが僕に向って手を振っている。見たことがある風景がその人の後ろに広がっている。

「ああ、僕の故郷だ。ああ、あれは母だ。7年前に故郷で突然死してしまった母だ。

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釣魚大全「闇海Dark Sea 」1

釣魚大全「闇海Dark Sea 」1

「奥多摩管理釣り場」1.

「じゃお兄さん魚入れるよ」

釣り場の管理人は、石を積んで人工的に塞き止めた淵に、養魚池から養殖のニジマスとヤマメがたくさん入った魚網を持ってきて淵の中に突っ込んだ。すると魚たちは網から解放されて淵のあちこちに散らばって泳ぎ始めた。漸く養殖池から抜け出ることができたが、哀しいことに彼らは塞き止められた、この狭い淵からは出られないばかりか僕に釣られて死んでしまうのだ。

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生死生命論 「続 過去に生きる男」

生死生命論 「続 過去に生きる男」

佐藤健介は48歳、中堅出版社に勤めている。妻とは2年前に死別している。18歳になる一人娘の里奈がいる。その日は締め切り日で無事入稿を終えて帰宅する途中だった。最寄り駅の中央林間駅で田園都市線から小田急線に乗り換えるために歩いていた。田園都市線の改札から小田急線の改札までは50メートルほど。エスカレーターで階上に上がれば小さなショッピングモールがある。健介が小田急線の改札口に近づいたときに、ひとりの

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夢と現実の境界線

夢と現実の境界線

僕は、子どもの頃から、よく夢を見ます。それが高校生くらいになると夢を記録するようになりました。(僕にとって)残念ながら高校時代の夢記録は引っ越しの回数が増えるうちに紛失してしまいました。

夢は、実態のないものであり、潜在意識の現れやストレス負荷の解消によって見る…。あるいはデジャブ…? 若い頃、夢に現れる“被写体”たちは見知らぬ人物と風景であったりしました。もちろん主役は僕です。夢の中では僕以外

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「猫通り Cat Street」

「猫通り Cat Street」



その日、僕は無意識に歩いていた。無意識に歩くとは、もしかしたら歩いている気になっているだけのことかもしれない。それでも目の前の風景は走馬灯のように変化していく。僕は明らかに前方に進んでいるのだった。夢なのか? 夢じゃないよ。

そういえばT動物公園でも同じようなことがあった。意識がないのにまるで時代ごとすり替えられたように風景が変わるんだ。それは父親や母親による既視意識の遺伝であったり、自分自

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