生死生命論「続 過去に生きる男 2 」
「うわっ」探偵紳士のインパネスに覆われた健介は目の前が真っ暗になった。突然、足場が無くなって、そのままスーーーッと、もの凄い速度で地下に吸い込まれる感覚だった。全身の血液が上昇して脳に集まってくる。堪えきれずにそのまま気を失った。
遠くで誰かが僕に向って手を振っている。見たことがある風景がその人の後ろに広がっている。
「ああ、僕の故郷だ。ああ、あれは母だ。7年前に故郷で突然死してしまった母だ。僕が母をひとりきりにしていたから死んだのだ…ごめんね」健介は泣いた。これまで堪えていたものが一気に吹き出した。
実家の前で母は誰かを待っている。誰を待っているんだろう?
「あれは、あなたを待っているんですよ。今は8年前の8月12日かな? お盆帰省するあなたを待っているのでしょう」探偵紳士が言った。
驚いた。健介は探偵紳士のインパネスにくるまれて空を飛んでいた。いや、ふわふわと地上5メートルくらいの空中に浮遊していたのだ。
「うわっ!」健介は恐怖でじっとしていることができなかった。
「おっと、暴れてはいけません。バランスを崩したらあなたを落としてしまいます」
「あんたの言っていた時間を旅するとは本当のことだったのか? いや、夢かもしれない」健介は、頬をつねってみた。古くさい方法だ。
「痛い!」
「そりゃ痛いでしょう。これは夢ではありませんからね」探偵紳士が笑った。
「あ、一応断っておきますが、これは、あなたの能力で時間を遡ったのではありません。まず時間を遡れる現実を知ってほしかったんです。あなたが正確に能力を使えるようになるまで、わたしが補助します」
「正確に能力を使える?」
そりゃそうだ。時間旅行できるなんて信じていなかった。おそらく探偵紳士の能力で時間を遡ってきたのだろうと健介は納得した。
「あなたはまず時間を自由に移動できることを気づかなくてはなりません。ほら…」探偵紳士はインパネスから健介を解放した。もちろん、落下した。
健介は田んぼの脇の用水路に落ちた。山からの湧水であろう用水路の水は冷たかった。健介の全身を冷気が襲った。
「やはり夢ではなかった」
「何だ、お前帰ってきたのか?」
用水路の中に立ち上がると目の前に母がいた。
つづく
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