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妖の間(あやかしのま)2
妖の間は、思った以上に広かった。寝室にあたる部屋とリビングにあたる部屋は大きな引き戸で仕切られるようになっているが、家族にはそんなものは不要だ。一体化されていると考えると20畳以上ある。
「わぁ、広いわねぇ。ほら見て、バルコニーがある。広くて景色もきれい」翔太と真理が、窓が開け放たれたバルコニーに向って走っていく。和風の旅館に洋風なバルコニーは似つかわしくないのだが、何故か和洋折衷風に異様な感じはなかった。
「待ちなさい。危ないから…」慌てて理恵がふたりを追いかけて捕まえてからふたりの手をとってバルコニーに出る。
「おっきな、お山が見える」
「キレイだねぇ」
部屋と同じほどに広いバルコニーは、旅館から突き出した格好になっており、厚みのある木材が敷かれたウッドデッキになっている。そこからは雲ひとつない青空が拡がっていた。手前に丹沢湖が水をたたえ、その遙か向こうには頂上に雪を抱いた富士山が見えた。
「ほんとにキレイだねぇ」理恵は、今までの疲れを忘れるかのように目の前に拡がる自然を満喫していた。
健太郎はその様子を見て(ごめんな、理恵、翔太、真理…)と心の中で呟いた。表情は暗かった。そのとき、理恵が振り返って健太郎の表情に怪訝そうな顔をしながら「どうしたの?」と言った。
「いや、何でもない。浴衣に着替えて、お風呂に行こうか?」
「そうだね。翔太、真理、浴衣に着替えるよ」理恵が翔太を捕まえて服を脱がせる。
「やめてよっ!チンチン見せちゃうぞっ」翔太がおどけていると理恵にパンツを剥がされた。
「ぎゃああっ!人殺しぃっ!」
「キャアハッハッハ」健太郎も真理の着替えを手伝う。
「ぎゃああ、痴漢がいるぞっ。真理ちゃんが襲われてるぅっ!」翔太が騒ぐ。
「この野郎っ!パパを痴漢扱いしやがったな、グワオウゥッ!!」健太郎が両手を前に突き出して翔太を捕まえて口を大きく開けて首に齧りつく真似をした。
「ぎゃあああっ!食われるっ!殺されるっ!」翔太が大げさに騒いで室内を逃げまどう。そのあとを真理も追いかける。「キャッハハッハハハ…」翔太と真理が部屋中を走り回るのを見て理恵は幸せそうな表情をしている。
「ほうら、あんたたち、いい加減にしなよっ!」そう言いながら理恵が笑っている。健太郎は理恵の屈託ない笑顔を久しぶりに見た。
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