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こまくさweb

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駒草出版のウェブマガジン、こまくさwebです。新刊、そして既刊の関連記事やためし読みのほか、オリジナル記事も展開予定です。
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「本と食と私」今月のテーマ:音楽―天空の音楽が聞こえる

「本と食と私」今月のテーマ:音楽―天空の音楽が聞こえる

天空の音楽が聞こえる

文:田中 佳祐

 音楽は人間のためのものだけではない。
 鳥はコミュニケーションのために歌うし、犬やネズミも音楽に合わせてダンスをすることができる。そして、想像上の生き物たちも音楽を好む。
 絵画に描かれる天使たちが、楽器を持って演奏している姿を見たことがあるだろう。では天使たちはどのような旋律を奏でているのだろうか?

 岡田温司の『天使とは何か』(中公新書 2016

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「本と食と私」今月のテーマ:音楽―無反省なケチャップと、僕

「本と食と私」今月のテーマ:音楽―無反省なケチャップと、僕

無反省なケチャップと、僕

文:竹田 信弥

 ケチャップはハインツと決めている。ケチャップだけはハインツにしてくれ、と家族にお願いしている。他の調味料でメーカーを決めているものはない。ハインツのケチャップは酸味が強くスパイシーで、それだけで存在感がある。それじゃ調味料としては使いづらそうではないか、と言われそうだが、いやいや、縁の下の力持ちのような調味料ばかりでは面白くない。食材をより輝かせつつ

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「本と食と私」今月のテーマ:乗り物―乗り物酔いとペンシルパズル

「本と食と私」今月のテーマ:乗り物―乗り物酔いとペンシルパズル

乗り物酔いとペンシルパズル

文:田中 佳祐

 私は乗り物酔いがひどくて、エンジンのついている乗り物は大抵苦手だ。乗り物の中で本を開こうものなら、一瞬にして酔ってしまう。バスや電車で本を読んでいる人を見るたびに、羨ましいなと思っている。
 そんな私が、長距離移動をするときに持っていく本がひとつだけある。「ペンシルパズル」の本だ。飛行機に乗る時に、この本を持ち込むのだ。当然のことながら飛行機でも気

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「本と食と私」今月のテーマ:乗り物―賢治を追い求めて~卒論旅行と想い出の食

「本と食と私」今月のテーマ:乗り物―賢治を追い求めて~卒論旅行と想い出の食

賢治を追い求めて~卒論旅行と想い出の食

文:竹田 信弥

 大学時代に、宮沢賢治を追いかける旅をしたことがある。
 卒業論文からの逃避だ。提出期限も差し迫った頃だった。テーマの宮沢賢治についての資料をたくさん読み、読めば読むほど、何を論じればいいのかわからなくなってしまった。このままでは卒業できないと、教授に相談したところ、アドバイスは、書けない時はゆかりの地に行ってみると作家の目を獲得できるこ

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「本と食と私」今月のテーマ:道具―お茶碗でコーヒーを

「本と食と私」今月のテーマ:道具―お茶碗でコーヒーを

お茶碗でコーヒーを

文:田中 佳祐

 フランス文学者の安藤元雄が『フランス詩の散歩道』という本を書いている。フランスの詩人たちの作品を原文と共に紹介した一冊である。
 私はこれを遠方に引っ越してしまった友人から貰った。本を開いて最初に出会うのは、ジャック・プレヴェールの作品だ。

 安藤は詩の解説で、こんな作品の楽しみ方を提案する。

 私にはこの詩を味わう前に気になることがあった。それは安藤

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「本と食と私」今月のテーマ:道具―僕と茶道と千利休

「本と食と私」今月のテーマ:道具―僕と茶道と千利休

僕と茶道と千利休

文:竹田 信弥

 『本覚坊遺文』(井上靖著 講談社 1981年)という本がある。

 謎とされている千利休の死の真相に史実と虚構をまぜて迫っていく井上靖の小説だ。千利休の弟子の本覚坊が、利休の死後、ゆかりのある人との会話を通して利休がなぜ秀吉に切腹を命じられたのか、そしてなぜそれを受け入れたのかの答えを探していく。本覚坊が己に語りかけるような形式であり、語り口が軽く読みやす

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「本と食と私」今月のテーマ:未来―未来人へお願い!

「本と食と私」今月のテーマ:未来―未来人へお願い!

未来人へお願い!

文:田中 佳祐

 小松左京は日本を代表するSF作家だ。彼の一番有名な作品に『日本沈没』(光文社カッパ・ノベルス 1973年)という小説があって、映画やドラマなどで何度もリメイクされている。
 小松左京は生涯で多くの小説や評論を書いており、現代に生きる私たちでも読みたくなるような名作がいくつもあるので複数の出版社から傑作選が出ている。
 その中で私が好きなものは、河出文庫から出

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「本と食と私」今月のテーマ:未来―たとえこの世界が滅んでも…

「本と食と私」今月のテーマ:未来―たとえこの世界が滅んでも…

たとえこの世界が滅んでも…

文:竹田 信弥

 「未来の食」と言われて、何を思い浮かべるだろうか。
 『ドラえもん』に出てくるような、空気中や海中にいる微生物を「ビフテキ」へと生成してくれる、理屈はわからないけど、とにかくすごい料理マシーンか。それとも映画『マトリックス』のベチャベチャのオートミールか。はたまた宇宙食のようなサプリやプロテインバーのような固形物か。

 未来の食がどうなっていく

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「本と食と私」今月のテーマ:動物―ドジョウと幻の柳川鍋

「本と食と私」今月のテーマ:動物―ドジョウと幻の柳川鍋

ドジョウと幻の柳川鍋

文:竹田 信弥

 野尻抱影の「悲しい山椒ノ魚」(『ちくま文学の森 12』収録)という小説がある。
 士官学校の寄宿舎に、山椒魚が迷い込む。生徒や先生たちは珍しい生き物に興味津々で集まってくる。
 協議の結果、学校で飼うことになり、用務係の人が飼育係に任命される。
山椒魚は学校の近くに流れる用水路の一部に金網を引いて飼うことになったが、網ができるまではタライに入れておくこと

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「本と食と私」今月のテーマ:動物―返ってきた空想

「本と食と私」今月のテーマ:動物―返ってきた空想

返ってきた空想

文:田中 佳祐

 『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』は、著者のK・スギャーマ博士が「魂の冒険」に出かけて見つけた奇妙な動物たちを記録した絵本だ。
 ノーダリニッチ島は世界のどこにあるのかも分からないが、この本を読む人々の心の中ではまるで思い出の地のように、その地の気候や漂う匂いすらもイメージできるだろう。また、どの動物たちもこれからの人生の中で、どこかで出会える

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「本と食と私」今月のテーマ:運動―僕が野球漫画で紛らわしているもの

「本と食と私」今月のテーマ:運動―僕が野球漫画で紛らわしているもの

僕が野球漫画で紛らわしているもの

文:竹田 信弥

 この半年間、スポーツ漫画や小説に手が出るようになっていた。理由はわかっている。昨年の9月に怪我をしたからだ。

 月に一度の草野球の日だった。8年ぶりに草野球チームに入った。運動不足を解消するためだ。趣味の集まりではあるものの、チームは地域のリーグに所属している。2つのリーグに別れて、約1年かけて総当たり戦を行い、順位を争う。4月からリーグ

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「本と食と私」今月のテーマ:運動―野菜炒めの味は完成したけれど

「本と食と私」今月のテーマ:運動―野菜炒めの味は完成したけれど

野菜炒めの味は完成したけれど

文:田中 佳祐

 大学生の頃、運動場で太極拳を習っていた。
 心理学の先生が前に立って、放課後の時間に学生たちに稽古をつけてくれたのだ。先生の授業は教職免許を取得するための特別な科目で、土曜日に開講されていたため、ほとんど人のいないグラウンドでゆらゆらと不格好に体を動かしていた。

 太極拳の稽古の後は、学食で食事をする。平日とは異なり、限られたメニューから選ば

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「本と食と私」今月のテーマ:別れたくないもの

「本と食と私」今月のテーマ:別れたくないもの

別れたくないもの

文:田中 佳祐

 死ぬほど美味いものと聞いて、何を思い浮かべるだろうか?
 私は甘いお菓子だ。
 美味いものはたくさんある。寿司もBBQもカニも美味い。しかし、それらは「また食べたいなあ」と思わせ、生きがいを与える食べ物なのだ。
 一方で、甘いお菓子を食べると「もう死んでもいい」と口にしてしまいそうになる。最後の晩餐を選べるのだとしたら、スイーツビュッフェでお願いしたい。

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「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―人生に残された料理の刻印

「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―人生に残された料理の刻印

人生に残された料理の刻印

文:田中 佳祐

 リチャード・ローティという哲学者の本『偶然性・アイロニー・連帯』を読んでいて、旅について思ったことがある。
 この本は個人の生と他者との関係性について書いた一冊だ。ローティは「自己の偶然性」という章で、フィリップ・ラーキンの詩の一部を引用している。

 私はこの本を読み、難しくて天井を見上げた時にイタリア旅行のことを思い出した。
 旅の目的は美術を見

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