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超短編戯曲・小説

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超短編戯曲・小説を不定期に書き綴ります。
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#インスタントフィクション

【猫と帽子の創作】我輩は猫である(300字)

【猫と帽子の創作】我輩は猫である(300字)

吾輩は猫である。名前はまだない。

ずいぶん経ったが、未だに名前はない。

気分転換に、色々試してみることにした。

人間はよくオシャレをする。

最近だと、眼鏡か帽子だろう。

真似をしてみよう。

人間は、吾輩たちの真似をよくする。

こちらも真似をしてもいいだろう。

まず眼鏡。

悪くない。

悪くないが、耳が上にあるせいか、耳に眼鏡をかけられない。

ずっと上を向いていなければいけない。

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【超短編小説】劇作家の苦悩(300字)

【超短編小説】劇作家の苦悩(300字)

劇作家は悩んでいた。

台本がまだ1ページもできていないのである。

逃げようか?

駄目だ。家のローンも残っている。

書くか?

それができればこんなに悩むことはない。

私を苦しめているものはなんだ?

昔はこんなに苦労しなくても書くことができた。

たとえ朝まで飲んでいても、次の稽古までには台本ができた。

そうだ、明日の稽古の読み合わせを延期すればいいではないか。

駄目だ。初日まで

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【超短編戯曲】秋休みくん リターンズ(300字)

【超短編戯曲】秋休みくん リターンズ(300字)

春休み「ああ、毎日まだ暑いのに、夏休みくんはどうして楽しそうなの?」

夏休み「それは、暑いからさ。」

冬休み「いいな、僕なんていつも寒い思いをしてるよ。」

夏休み「もっと季節をエンジョイしちゃいなよ、ウィンターヴァケーション。」

秋休み「休みがあるだけマシだよ。」

夏休み「君たち、そんなことで悩んでないで、もっと輝こうじゃないか。」

秋休み「どうして?」

夏休み「だって、太陽がまぶし

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【超短編戯曲】秋休みくん(300字)

【超短編戯曲】秋休みくん(300字)

春休み「もうすぐ冬休みだね。」

冬休み「楽しみだ。」

秋休み「あの前々から思ってたんですが、休みを少し分けていただけないでしょうか?」

冬休み「秋は過ごしやすいから。」

秋休み「そんなこと言ったら、春休みはどうなるんですか? 私に引けをとらないくらい過ごしやすいじゃないですか?」

春休み「確かに。」

秋休み「でしょ?」

春休み「夏休みくんはどう思う?」

夏休み「いいんじゃん、どっち

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【超短編戯曲】猫の手も借りたい(300字)

【超短編戯曲】猫の手も借りたい(300字)

助手「先生、ついに猫の手を借りる実験に成功しました。」

先生「実験が成功するとは、犬も歩けば棒に当たるだな。」

助手「そんな実験は犬も食わぬと言ってた、犬猿の仲の研究室の奴らいい気味だ。」

先生「そんなもの負け犬の遠吠え。」

助手「これで私も一犬前としてやっていけます。」

先生「この研究室の成果は私の手柄だ。犬が西向きゃ尾は東。尾を振る犬は叩かれずと言う、ここはひとつ。」

助手「私はこ

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【超短編小説】もっと高く(300字)

【超短編小説】もっと高く(300字)

男は街の権力者。

男は自分の土地に、街で一番高いビルを建てようとしていた。

金にものを言わせ、ついに街一番のビルは完成した。

満足気な男をよそに、街外れにはビルより高い山がそびえ立っていた。

男は面白くない。

さらに金にものを言わせ、その山より高いビルを建てようとした。

山より高いビルが完成したが、男はそのビルよりも高い所にある雲が気に食わなかった。

男はさらに金にものを言わせ、雲よ

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【超短編小説】ひとりになりたい(300字)

【超短編小説】ひとりになりたい(300字)

男はいつもの様に満員電車に揺られ、帰宅した。

男の家は四人家族で、昔使っていた書斎は子供部屋となり、自分の部屋は無くなっていた。

「ひとりになりたい。」

男は心からそう思った。

トイレに駆け込み鍵をかけてみたが、ポケットの携帯電話と、ノックの音が鳴り響いた。

男はどうしてもひとりになりたかった。

男は家を飛び出し、おもむろに地面に穴を掘り始めた。

携帯電話も投げ捨て、男は一心に穴を掘

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【超短編小説】27クラブ(300字)

【超短編小説】27クラブ(300字)

27クラブという言葉がある。

27歳で他界したミュージシャン達のこと。

ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン……。

27歳自称ミュージシャンの僕も、きっと彼らと同じ運命を辿ることになる。

天国でのセッションの時、英会話が必要なのではないか。

急に僕は思い立ったように英語の教科書を引っ張り出し、ページをめくり始めた。

その時ジャニス・ジョプリンは独特の声でこ

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【超短編小説】キロ(300字)

【超短編小説】キロ(300字)

人生には岐路がある。

あの時こうすれば良かったと後悔することもある。

男が一人、岐路に立っていた。男の心にだけ響く声が聞こえる。

「一度だけ、過去のあなたの道を変えることができます。」

男は半信半疑だったが、変える道について考えてみた。

変えるなら、まず学校の選択だ。今度は猛勉強して良い学校に入って、良い会社に入るのだ。

そうすれば妻も子供も今より楽な暮らしができる。

男は妻と子供の

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【超短編小説】カタツムリ(300字)

「ああ、もれる、もれる。」

男はいつもの様にトイレに駆け込み、便座に座って用を足した。

ほっとしたところで、ドアに一枚の張り紙を見つける。

「このトイレは自動爆発トイレです。便座を離れると自動的に爆発します。」

驚く男。

が、その時すでにウォシュレットの勢いが強すぎたため、立ち上がろうするのを必死で堪えていた。

何とか、ウォシュレットの電源を切る男。

「誰かの悪戯だろう。」

そう思

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【絵から小説】夕焼け小焼け(300字)

【絵から小説】夕焼け小焼け(300字)

夕焼けが好きだ。

でも気になるのは、小焼け。

小焼けって何だろう?

小焼けの存在は、誰も知らない。

夕焼けに聞いてみたところ、

「知らないな。いつも後ろにいるけど、俺もよくわからないんだよね。」

と、言った。

私は、小焼けを探して旅に出た。

まず「仲良しこよし」の仲良しを訪ねることにした。

仲良しは、自宅のマンションにいた。

不機嫌そうに出てきた、仲良しに尋ねてみた。

「その

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【絵から小説】わたしとワタシ(300字)

【絵から小説】わたしとワタシ(300字)

私は、二人いる。

わたしとワタシ。

どちらも私。

ロングヘアーが、わたし。

ショートボブが、ワタシ。

仲は良い。

喧嘩はしない。

一度だけどちらが、わたしかワタシかで喧嘩をしたことがある。

理由は、些細なことだった。

ワタシの方が、タワシに似ているということから。

結局は、わたしも、たわしに似ていることには変わらないということで、喧嘩は収まった。

喧嘩の後、わたしとワタシは一

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【超短編戯曲】本物のマリトッツォ

【超短編戯曲】本物のマリトッツォ

とある有名洋菓子店

子供「こんなのマリトッツォじゃない。」

親「こら、そんな事言わないの。」

店主「うちは超有名店なんだぞ。子供のくせに何がわかる。」

親「すみません。」

子供「だって、本物じゃないんだもん。」

男「その子の言う通りさ、これは本物のマリトッツォじゃない。」

店主「なんだと。」

女「やめなさいよ。」

男「本物のマリトッツォを食わせてやる。ついて来い。」

店主「よし

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