マガジンのカバー画像

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう

27
連載小説のまとめです。 1話あたり2、3分で読めるようになってます。 ほのぼの家族の代わり映えしない日常の、ほんの少しずつの変化を描いていきます。
運営しているクリエイター

#短編小説

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<22>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<22>

閑話 僕と宮子が出会って、付き合い始めて13年が経ったんだな。
 結婚からは6年。綾が生まれてからは2年半。
 そして、晴太が今年生まれた。
 来年には綾も幼稚園に入る。
 夏には綾のおむつが取れた。順調順調。
 宮子はまだパートの再開はしなくていいか、と言っている。綾が幼稚園に入園してから再開するのだそうだ。
 僕はまだ育児休暇を終えて、在宅勤務と出勤を半々くらいで過ごしている。
 近くに住む父

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<21>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<21>

猫についていく 公園からの帰りに、猫を見つけた。
「あ、にゃあだ」
 綾は猫のことを「にゃあ」と呼ぶ。慌てて近づいても逃げられることを知っている彼女は、猫を刺激しないようにそっと近づいていく。なるべく視線を下げるようにして、屈んで、よちよちと歩き、声を出さないで。
 猫は敵意が無いことを分かっているのか、それともただ人懐こいだけなのか、綾が近づいても逃げることなく待っていた。
「にゃー」
 猫が鳴

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<20>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<20>

晴太のほっぺ 綾は暇さえあれば、晴太のほっぺたを突いている。
 とても気持ちがいいそうだ。
 そんなに力いっぱい、ではなく、優しく沈み込んでいく綾の指。
 晴太はそれを疎ましく思っているのか、面白く思っているのか、わずかに身じろぎする。
 僕と宮子はその様子を後ろから眺めていた。
 宮子がそっと綾と反対側に寝そべる。
 そして、綾とタイミングを合わせてほっぺたを突いた。
「う~、う~あ~~~」
 

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<19>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<19>

再び、日常 宮子も晴太も家に戻ってきた。
 ベビーベッドは綾のおさがり、おくるみとかは新調、哺乳瓶は使い回しだけど、乳首は買い直した。サイズ小さいのとか無かったからね。
 おむつも新生児用は買わないとだし、布団も綾がまだ小さいのを使っているから新しく買い足した。
 あ、おむつは早速おむつケーキ送ってくれた友人がいたので非常に助かりました。
 そんな感じで数日は準備や足りないものを揃えるのに忙しく、

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<18>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<18>

名前を呼ぶ「あかちゃん、かーいーね」
 綾はずっと眺めている。ほっぺたを突いてみたり、手足を触ってみたり、キスしてみたり。まるでペット扱いではあるけど、これはこれで可愛い。
「綾、赤ちゃんの名前は晴太くんだよ」
「せーた、くん?」
「そう、天気が晴れるに太いで晴太。晴れ晴れと図太く生きて欲しい、と思ってね」
 綾に由来を説明してみると、首を傾げた。まだ漢字の概念が無いもんな。
「決めたんだね、そっ

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<17>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<17>

おねえちゃん 分娩室に入った僕たちは、中の雰囲気に飲まれてしまった。
「はい、もう少し頑張って」
「ふんっーーー」
 もうすでにお産が始まっていたのだ。
 苦しそうに呻く宮子を見て、綾が慌てだした。
「ハハ、ハハ、だいじょーぶ?」
 僕があっけに取られている内に駆け出す綾、分娩台の傍に行き、何かを踏んだ。
「あーーーー!」
 思わず叫んだ僕に、医師たちが非難の目を向ける。
 同時に、分娩台が下がり

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<16>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<16>

産院での出来事 産院についた宮子は、いったん診察のために移動した。
 僕たちは待合室で待っている。なんとなく落ち着かない。綾は特にそうで、さっきからウロウロしている。
「綾、座りなさい」
「んー、ハハ、だいじょーぶかな」
「心配せんでもよか。綾の時も、ハハは頑張ったと」
「がんばったと?」
 たまに、綾は福岡弁が理解できずに聞き返す。
「ハハは頑張ってるから、大丈夫だよ、ってことだよ。綾の時も大丈

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<15>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<15>

長い一日の始まり そして、長い一日が始まった。

 その日は休日で、僕は予定日を迎えた宮子をいつでも搬送できるように、準備を整えていた。
 宮子も今日ばかりは安静にしていて、ソファに横になってテレビを見ている。
 綾はそのソファの下で宮子と一緒にテレビを見ていた。
「ハハ、ねこさんかーいーね」
「癒されるよねえ」
 ストーリーものだと続きが気になっちゃうから、と録画していた動物番組を視聴中だ。今は

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<14>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<14>

綾の冒険 目の前をアリが通り過ぎていく。
 綾はそれを不思議そうに眺めていた。
 なんでこんなに小さいものがいるんだろう?
 昨日よりも、一昨日よりも、世界は不思議に満ちていた。
 一昨日は咲き誇るピンクの花を見た。それはハラハラと樹上から舞い落ちてきて、綾の鼻先に止まった。
 昨日は大声で叫んでいる人を見た。何を言っているのか綾には分からなかったが、何かに怒っているのだけは分かった。なぜ、そんな

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<13>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<13>

二人の会話「今日の綾はどうだった?」
「あれ、帰って来ての第一声がそれ?」
「う……気になったから」
「あはは、元気だったよ。お姉ちゃんが公園に連れて行ってくれたの」
「そうなんだ。和美姉さんにはお礼言っとくよ」
「勇希くんの実家が近くなの、ホント助かる」
「そう言ってくれると嬉しいね。宮子もたまには実家に帰りたいだろ?」
「うーん、それはそうなんだけど、五月の連休からはしばらくこっちに滞在してく

もっとみる

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<12>

綾が得意なこと「チチ、チチ、これやろ」
 綾が何やら持ってきた。板みたいなものだった。
「何やるの?」
 昨日仕事が珍しく遅かったのでちょっと横になっていた。起き上がって綾の手元を見ると、やはり、パズルだった。
「これ、やりたい」
「どーぞ」
 一人で遊べるものだけど、綾は僕と一緒にやりたがる。出来上がった時に褒めてもらうためだ。
 今も僕の目の前でパズルを睨みつけるようにして取り組んでいる。いく

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<11>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<11>

僕がいないときの日常 普段、僕はプログラマーとして働いている。
 とはいっても世間で思われているほど帰りが遅くなることもなく、定時に近い時間には帰れているので非常にありがたい。
 では、僕がいない日中、宮子と綾が何をしているかという話をしよう。

 まだ幼稚園に入っていない綾は、普段は自宅で過ごしている。
「ハハ、お腹すいた」
「えー? 朝ごはん食べたばっかりだよ」
 綾の言葉に宮子が叫ぶ。
「だ

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<10>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<10>

チチと呼ばれて「チチ、だっこ」
「また? ちょっとは歩きなよ」
 そういいながらも抱っこする僕は甘いんだろうか。ニコニコと笑顔を見せる綾は僕の首に手を回しながらほっぺたをつねったりしている。
「ちょ、痛いよ」
「チチのほっぺ、いたーい」
 そう言って笑った。午後も遅くなり、髭が伸びてきたらしい。昼過ぎから綾の退屈地団駄が始まり、見かねて公園に遊びに来たのだった。
 まだ二歳の綾は、滑り台を上るのを

もっとみる
<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<9>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<9>

そして…… 今日、とうとう綾がつかまり立ちした。
 宮子とハイハイ競争をしていたおかげか、足腰も丈夫、体も良く動く。運動たっぷりなので離乳食もよく食べる。
 本当に産まれたのが昨日のような気がするのだけど、目の前の彼女はすでに立派な子供だ。
 一年早かったなぁ。
「綾ちゃん、お誕生日おめでとう!」
 まだロウソク吹き消すのはできないので、僕と宮子で代わりに。
 いつもより豪華な食事内容に、心なしか

もっとみる