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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<19>

再び、日常

 宮子も晴太も家に戻ってきた。
 ベビーベッドは綾のおさがり、おくるみとかは新調、哺乳瓶は使い回しだけど、乳首は買い直した。サイズ小さいのとか無かったからね。
 おむつも新生児用は買わないとだし、布団も綾がまだ小さいのを使っているから新しく買い足した。
 あ、おむつは早速おむつケーキ送ってくれた友人がいたので非常に助かりました。
 そんな感じで数日は準備や足りないものを揃えるのに忙しく、綾もお買い物についてきて赤ちゃんの道具を買うのが楽しいらしく、その点でおりこうさんで助かった。

 育児休暇も取っているので、今の僕は完全に専業主夫だ。
 ご飯や洗濯掃除などは基本的に僕がやることになっている。
 綾の面倒を見るのは半々、というか綾が気分次第で僕にも宮子にもかまって欲しがるので専任、というわけにはいかない。
 今は掃除しながら後ろについてくる綾と話をしている。
「チチ、ごはんなに?」
「お昼ご飯? 何か食べたいものがあるの?」
「ハンバーグ!」
「う、それはお昼には勘弁してもらいたいかなあ。お肉が食べたいの?」
「うー、はんばーぐぅ」
「んー、ハンバーグ作るとね、時間がかかるんだよ。あと大変」
「たいへん?」
「そう、できればお昼は簡単にしたいの。お肉焼くだけとかがチチはうれしいなー」
 綾は僕の顔を見て、自分のお腹を押さえる。しばらくうんうん唸っていたが、やがて顔を上げて「じゃあそれでいいよ」とニカッと笑顔を浮かべた。
「ありがとう、じゃあ掃除が終わったらすぐにご飯作るからね」
 手早く掃除を終わらせなくちゃ。

 お昼ご飯を三人で食べる。宮子の両親は先週末に帰った。さすがに自営業で長いこと空けるのは気になるし、二人目の孫の顔を見たら満足したらしい。
 ちょうど晴太は眠ったところで、二日ぶりに三人そろってご飯を食べ始めることができた。
「宮子、肩こったりしてない?」
「うえ? どうしたの?」
「この後しばらく時間が空いたからさ。肩でも揉んであげようかと思って」
 僕が両手をわきわきさせていると、宮子が笑った。
「突然だからびっくりした。別にいいよ、無理しなくても」
「無理はしてないよ。さっきから宮子、首を左右にひねってるからさ」
 言われるまで気付いてなかったらしい、宮子ははっとして自分の首を押さえる。
 それからしばらく考えた後に「じゃあお願いしようかな」と答えた。
「あやもやる!」
 便乗して綾が張り切る。それを見て僕も宮子も微笑んだ。
「じゃあお願いしようかな、綾にも」
「うん!」
 元気に返事をして、肉を頬張る。
 僕はたれをかけた肉をご飯の上に乗せ、ご飯を巻いて口に入れた。それを綾が見て真似しようとしている。
 美味しい昼ご飯が終われば、僕と綾が宮子の背に回って肩を揉んだ。綾は背中をトントンと叩き、僕が肩を揉んでいく。
「あー、きもちー。揉まれてみるとこってるのが分かるね」
「ずっと晴太を抱っこしてるからね」
「勇希くんもやってくれてるじゃない」
「宮子の方が時間的には多いからさ。僕はまだ綾と散歩に行ったりするけど」
「おさんぽ、ハハも行くの?」
 途中で綾が口を挿む。
「そうじゃないよ。もうちょっとしたら晴太も含めて一緒に行けるけどね」
「そっかー、せーたとおさんぽしたい。すべりだいするの」
 綾が散歩=遊べると思っている。
 それはそれで微笑ましいのだけど、勘違いは正しておかないとあとあと大変そうだ。
「綾、晴太はあと一年くらいしないと一緒に滑り台はできないよ」
「えー!? いちねんてどれくらい?」
「綾が年少さんになるくらい」
「えー!?」
 頬を膨らませて抗議されても……。僕が戸惑っていると、宮子が助け舟を出してくれる。
「じゃあ、晴太が大きくなるまでに綾がいっぱい遊びを覚えておかないとね。チチと公園に行って来たら?」
「うん! いってくる!」
 切り替えが早い。もう綾は背中を叩くことを忘れて、散歩の準備を始めてしまった。
「ふふ、いってらっしゃい」
「悪いね、もうちょっと肩揉んであげたかったのに」
「帰って来てからお願いします。楽しんできてね」
 楽しんでくるか、疲れて帰ってくるかはともかくとして、綾が「いくよー」と叫んでいる。苦笑して僕は宮子に手を振った。

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