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いいかげんで偽りのない僕のすべて

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#恋愛小説

【創作大賞参加作品】いいかげんで偽りのない僕のすべてのすべて 紹介と追記

【創作大賞参加作品】いいかげんで偽りのない僕のすべてのすべて 紹介と追記

創作大賞参加作品「いいかげんで偽りのない僕のすべて」
無事投稿を終えました。間に合ってよかったです。
10万字前後。量も時間も長かった。自分お疲れ様。
同じく応募された方々もお疲れ様でした。
これからゆっくり読ませて頂きます。

この話を読んで下さった方。これから読まれる方にこぼれ話を。

この作品を書くにあたってひとつ参考になった映画があります。
1963年作の「狂ったバカンス」というイタリア映

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑰ 最終話

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑰ 最終話

 在学中、僕と志田は百本近い映画を一緒に観た。そしてただ一度だけ関係を持った。どちらにとっても想定外の展開だった。
「ひかりのまち」というイギリス映画を観た後で、酔ってもいなければ、突然互いを好きになったわけでもなく、いわば映画の余韻がそうさせた衝動だった。感動作ではないが、セリフがとてもよく、マイケル・ナイマンの印象的な音楽も秀逸で、観終わったあとは誰かといたくなる。そんな気分に僕らもなった。

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑯

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑯

 週末からさっそく参加した。サークルは民間団体の職員を含めた総勢22名で活動しており、メンバーは同じぐらいの年齢がほとんど。気安い人達ばかりで、すぐ打ち解けられた。初音ちゃんが人気者だったので、新参者の僕も歓迎してもらえたのだ。
 車を持ってる僕はドライバーとして保護した子達を動物病院に連れていったり、里親になってくれる人の所に届けに行くのが主な仕事だった。相棒はいつも初音ちゃんだった。わだかまり

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑮

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑮

 親の目の届かない場所で、大学生という執行猶予に甘える。遊び惚けて自堕落しそうになる時、彼女の存在が僕を律してくれていた。次に会うときにだらしない自分にならぬようと襟を正す。いつも胸にあるロザリオ。僕に足りないのは彼女だと分かっていた。彼女が側にいれば僕はもっと優しくなれる。星野朱里という心臓部が整えば、温かく、血の通った、どくんと鼓動が弾ける言葉が生まれてくると信じていた。
 部屋に来た彼女と一

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑭

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑭

 桜が咲く前に僕は上京した。暮らし始めたのは1LDKの分譲マンション。
両親が買ったのだった。近くに広い公園のある8階建ての7階にある見晴らしのいい部屋だった。8畳の寝室に10畳のリビングダイニング。学生ふぜいが暮らすには贅沢過ぎる部屋だったが「安心で綺麗なところ」が条件の母には、築10年未満でオートロック付き、学校にもそう遠くなく、都内でも緑が豊かな環境が気に入ったようだった。当然賃貸だと思って

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑬

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑬

 母親が出掛け、あらかた食事も済ませた僕らは、定位置である窓辺のソファーでライルが眠ったのを見届けてから、いつものように彼女の部屋に移動した。
 新しい薔薇をベッドサイドに飾った彼女は「花を見てると気持ちが安らぐわ」と咲きかけのつぼみを見つめた。
「ごめんなさい。あんなことして」
 僕に背中を向けたまま言った。
「自分でもよく覚えてないの。あの日、どうしてあんなに薬を飲んでしまったのか。死にたかっ

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑫

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑫

「ーありがとう」
 初音ちゃんは受け取って頬に当てた。そしてゆっくり膝に手を置くと、僕の両親に頭を下げた。
「叔母ちゃんごめんね。叔父ちゃんもほんとにごめんなさい…。健太郎君に迷惑掛けるつもりなかったんだけど、巻き込んじゃって…。ほんとにほんとにごめんなさい…」
 父はずっと黙りこくっていた。母は額に手を当て「どうしてあたしに言ってくれなかったのよ」と大きく息を吐いた。
「健太郎は受験生なのよ。こ

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑪

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑪

 翌朝も初音ちゃんが先に居間にいた。僕は起きた瞬間から昨夜の態度を反省した。とにかく謝ろうと決めて、階段を上って廊下を歩くすがらに、どんな様子かを遠目に探りつつ近付いて行った。
「おはよう」
 なるたけ普通を装って向かいに座った。
「おはよう」
 初音ちゃんは目を合わせずに返し、台所で僕のご飯とみそ汁をよそって来てくれた。ありがとうと受け取り、会話もなく温かいみそ汁を飲んだ。僕はお喋りな方ではない

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑩

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑩

 週明けから初音ちゃんはひとりで出掛けるようになった。中学までの友達と会ってるらしく、帰宅した時はいつもテンションが高かった。時間を持て余してあちこち行っていて、水曜日には「健太郎君の学校のゴミ見てきたよ」と夕食を食べながら言った。
「あれがあのままなんてひどいね。臭いもすごかった。九月に学校行けるの?」
 初音ちゃんはあくまで無邪気だったが、実は我が家でこの話題はタブーだった。今や廃棄物は町の奇

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑨

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑨

 僕は彼女になんて言葉を掛けるつもりでここに来たんだろう。会って、なにをしてやれるというのだ?ごめんと叫んで抱きしめる。死なないでくれと懇願して、一生彼女の足代わりになる。そんなことをしてなにが変わる?誰が幸せになる?思うほどに扉が叩けなかった。
 しばらく佇んでいると、突然内側からドアが開いた。立っていたのは白衣を羽織った男性で、診察に来ていた医師だった。すぐ後ろに看護師の女性もいて、二人と同時

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑧

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑧

 夜は家族で焼き肉を食べに行った。初音ちゃんは相変わらずよく食べた。
肉はもちろん、白米に冷麺、ビビンバ、サムゲタンスープもたいらげ、デザートの杏仁豆腐とマンゴープリンも残さなかった。僕も少食ではない方だが、初音ちゃんを見てるだけでお腹いっぱいになった。
「いやあ、見ていて気持ちいいよ。おいしそうに、食べるねえ」
 父は珍しく笑いながら、初音ちゃんの底なしの食欲に感心していた。もうすごいねえ以外の

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑦

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑦

 次の朝、昨夜のことについてどちらも触れなかった。向かい合って朝食を取るときも無言のままだった。僕は顔すらまともに見られなかった。
 学校で夏期講習があるので七時半には支度を整えた。制服に着替えて玄関で靴を履いていると初音ちゃんが見送りに出てきた。
「いってらっしゃい」
 首を傾げて手を振った。声の掛け方は変わらなかった。
「行ってきます」
 僕は目配せも送らずに軽く振り向くに止めて出ていった。初

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 いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑥

 いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑥

 片付けをしてからパソコンで産婦人科を検索した。これまで全く意識したことなかったが、僕のいる町には中心部にある総合病院の産婦人科を入れたら、たったの二軒しかないと知って驚いた。どこもこんな感じなのかは分からないが、ちょっと衝撃だった。町から年々人口が減っているのは産婦人科がないせいなのか、産婦人科がないから増えないのか、多分どちらでもあるんだろうけど、少子化と言われて久しいのは環境がそうだからと納

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いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑤

いいかげんで偽りのない僕のすべて ⑤

 聞き慣れたエンジン音で目が覚めた。母親の運転するフィットが庭先のカーポートに停まったのが分かった。デイサービスの事務員をしている母親は毎日同じ時間に帰宅する。時計を見るとやはり六時半ジャストだった。寝室のドアは閉まったままで、ちょろりと覗くと初音ちゃんはまだミノムシみたいに丸まって寝ていた。髪を掻きながら玄関に迎え出た。母はまず僕の顔の怪我に驚き、いい男が台無しねと笑い「初音ちゃんは?」と聞いた

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