さや

絵を描いています www.instagram.com/sayakaisozumi/

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記事一覧

8月5日

いまは、忘れていくことが一番こわい。 着替えも、食事も何もかもあんなに大変だった。それを忘れていくことがとてもおそろしい。 起床時間は変わらず、むしろ少し遅いく…

さや
1日前
13

喪主あいさつ_7月30日

本日は厳しい暑さの中、またお忙しい中 父 の葬儀にご参列くださり誠にありがとうございます 少しだけお時間をいただいて父の話をさせていただき 挨拶にかえさせていただ…

さや
9日前
14

100_7月25日

ここに一枚の写真がある。 壁にかけられた大きな絵の前にふたりが立つ。父もわたしも、それが誰かわからないくらい若い。そして笑っている。 これはわたしの初めての個展の…

さや
2週間前
20

男の顔

今朝は5時に起きて、とその人は語る。 アトリエ入りは6時、と別の人は言う。 やりたい努力を目一杯にやって、自分に厳しくおそらくはひとにもそうで、いかにも充実した日々…

さや
2か月前
25

西へ、東へ

なんでがんばらなかったんだろう。 長閑な眺めが少し街めいて、ここは豊橋。何年も前にホームに降り立ったことを思い出す。ホームで、とても会いたい人に会ったのだ。向こ…

さや
2か月前
19

夏至まで

ねえ、一日が長くない? いつも、クラスメイトとのおしゃべりは気持ちよく聞き流しているわたしも、この言葉には思わずえっと顔を上げた。 そうなのよ。何してる? と会話…

さや
2か月前
25

ひとりの練習

父も母もいない土曜日、ようやく布団を夏物に入れ替えた。暑いほどによく晴れたから、洗濯機も2回まわした。 これから母のところに面会にいく。午前中は父のところへ行っ…

さや
3か月前
31

やさしくなる

母がどんどん優しくなっていく。 わたしはそれを、日々かなしく見まもるしかない。 やさしい人には、優しく接する。ずっと怒ってばかりだったわたしは、苛立つことすらほと…

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3か月前
20

展覧会のお知らせ

いつも読んでくださりありがとうございます。 この頃はなかなか更新ができていませんが、つねにnoteのことは心にあります。 まもなく1年1ヶ月ぶりの個展です。 今回は初…

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5か月前
23

庭のこと

庭師さんが来てくれた。 今年はもう決まっちゃってて無理ですね、来年、と言っていたのに、キャンセルでも入ったものか、2023年もあと3日という日に来てくれた。 庭の手入…

さや
7か月前
70

揺れるな、ゆれるな、心。 ふとしたことで感情がすぐに揺さぶられてしまう。 なぜ私にはこうも自由がないのか、と、 人との何気ない会話をきっかけに一度そう思ってしまう…

さや
8か月前
27

11月22日

疲れすぎて、何か喋っていないとだめで、わたしは母を責め立て続ける。あらゆる方向から責める。なぜ私はこう口ばかりたつようになったのだろう。 父のベッドサイドに立っ…

さや
8か月前
38

10月20日ごろ

ヘルパーさんの手を借りないと、父をベッドからおろすことはできない。ヘルパーさんは夕刻に帰るから、それ以降の夕食はテーブルではなく、ベッドサイドに小さな机を置き、…

さや
9か月前
20

10月7日

これはビーグルか?いやダルメシアン。 101匹ワンちゃんのあの犬の置き物、それもかなり精悍な風貌のそれ二頭が、仮面をつけてポーズを決めている。例の黒く先端の尖った帽…

さや
9か月前
20

9月8日

何から書けばいいのだろう。 いま、私は医師の話を聞きに病院へ向かうところだ。19日前の日曜日に、母は都内の大学病院に入院した。前々日、否、そのさらに前の日から、母…

さや
9か月前
13

たしかまだ梅雨明け前だが、夕空には夏の終わりのような雲が浮かんでいる。こまごまとした鱗雲のような、澄んだ水底でさっと魚が砂を撒き立てた一瞬のような、ふわふわとし…

さや
1年前
27
8月5日

8月5日

いまは、忘れていくことが一番こわい。
着替えも、食事も何もかもあんなに大変だった。それを忘れていくことがとてもおそろしい。

起床時間は変わらず、むしろ少し遅いくらいであるのに、朝食が早く整うようになった。洗濯機のスイッチを押すのもずいぶん早くなった。

ほんの数日前のことであるのに、父とともにある朝の時間が過去のことになっていく。
朝起きて、自分の身仕度を済ませて階下に降りると、持って降りてきた

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喪主あいさつ_7月30日

喪主あいさつ_7月30日

本日は厳しい暑さの中、またお忙しい中
父 の葬儀にご参列くださり誠にありがとうございます
少しだけお時間をいただいて父の話をさせていただき
挨拶にかえさせていただければと存じます

父は
若き日は祖父 の秘書として国会でのお仕事に情熱を傾け
後年は検定試験の実施や問題集の作成など社会教育の振興に尽力いたしました
秘書時代のことは、まだ私は幼く、母や周囲から伝え聞くのみですが、国会や選挙区でのあれこ

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100_7月25日

100_7月25日

ここに一枚の写真がある。
壁にかけられた大きな絵の前にふたりが立つ。父もわたしも、それが誰かわからないくらい若い。そして笑っている。
これはわたしの初めての個展の時の写真だ。画廊のマスターが撮ってくれたものだろうか。画廊支配人の浅川さんは、たしかその時はじめて父に会った。父が帰ったあとで

お父さんはまだ60前でしょう
ぼくは人の歳はわかるんだ

とわたしに言った。父にその話をすると、ずいぶんうれ

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男の顔

男の顔

今朝は5時に起きて、とその人は語る。
アトリエ入りは6時、と別の人は言う。
やりたい努力を目一杯にやって、自分に厳しくおそらくはひとにもそうで、いかにも充実した日々が、しごとが、その人たちの顔にはあらわれている。
その人たちには家族はいないのかというと、そんなことはない。伴侶がいて子どもがいて、知らないけれど親御さんもいる。でもその人たちの一日には、家族の着替えを手伝って、食事を作り、食べさせて服

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西へ、東へ

西へ、東へ

なんでがんばらなかったんだろう。

長閑な眺めが少し街めいて、ここは豊橋。何年も前にホームに降り立ったことを思い出す。ホームで、とても会いたい人に会ったのだ。向こうは西から、わたしは東から出向いて、その半ばに位置する豊橋で待ち合わせた。うれしくて、思わず互いに手を広げて駆け寄り、ハグした。確か暑くなり初めの頃だった。相手の仕事のことを考えると、やはり今ごろ、6月だったのかも知れない。
会いたくて会

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夏至まで

夏至まで

ねえ、一日が長くない?
いつも、クラスメイトとのおしゃべりは気持ちよく聞き流しているわたしも、この言葉には思わずえっと顔を上げた。
そうなのよ。何してる?
と会話は続く。
母より少しお若いくらいのマダムたちのやりとり。一日が長く、持て余すのだそうだ。何をして時間を潰してる?という問いであるらしい。そういうものか。いつかわたしにもそんな日がくるのだろうか。
私には一日は短い。やりたいことやるべきこと

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ひとりの練習

ひとりの練習

父も母もいない土曜日、ようやく布団を夏物に入れ替えた。暑いほどによく晴れたから、洗濯機も2回まわした。
これから母のところに面会にいく。午前中は父のところへ行っていた。せわしく二人の間を動いて、それでもわたしはうんざりもしていなければ、くたびれてもいない。むしろ身体はいきいきと動く。
父も母もいなくなってしまったら、わたしはどうなるのだろう。

せっかくひとりだというのに、家事ばかりしている。日曜

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やさしくなる

やさしくなる

母がどんどん優しくなっていく。
わたしはそれを、日々かなしく見まもるしかない。
やさしい人には、優しく接する。ずっと怒ってばかりだったわたしは、苛立つことすらほとんどなくなった。

11年ぶりに、大阪の地を踏んだ。
あれ以来だ。もう来ることもないと思っていた訳でもないし、すぐまた来るだろうとも思ってはいなかった。そんなことを考える隙間もないままに、11年は過ぎた。あの時と同じように、先生と呼ばれる

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展覧会のお知らせ

展覧会のお知らせ

いつも読んでくださりありがとうございます。
この頃はなかなか更新ができていませんが、つねにnoteのことは心にあります。

まもなく1年1ヶ月ぶりの個展です。
今回は初めて銀座・京橋を離れ、早稲田にある煉瓦造りの建物、スコットホールのギャラリーで展示をします。
こどもの頃から親く仰ぎ見ていた建物に、自分の絵を並べて何が見えてくるのか、半ばひとごとのように想像しています。

日々は心波立つことが多く

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庭のこと

庭のこと

庭師さんが来てくれた。
今年はもう決まっちゃってて無理ですね、来年、と言っていたのに、キャンセルでも入ったものか、2023年もあと3日という日に来てくれた。
庭の手入れに来ていただくのは3度目だ。この方にお願いしてから、庭が広くなった。家の歴史とともに半世紀近くを経た、小さな庭。
なにしろきれいになる。木々は姿を整えて、落ち葉や雑草の降り積もった地面は履き清められ、どちらも嬉しそうに見える。その状

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波

揺れるな、ゆれるな、心。
ふとしたことで感情がすぐに揺さぶられてしまう。
なぜ私にはこうも自由がないのか、と、
人との何気ない会話をきっかけに一度そう思ってしまうともう駄目だ。自由がない?ならば今のわたしはどうなのだ、自由だからこそこうして一人でいる。今日の仕事は終わった。まだ親のご飯の仕度をするには間がある。であるのに、一度胸を突いた悲しみは深く疼いて、わたしは涙ぐまんばかりになっている。

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11月22日

11月22日

疲れすぎて、何か喋っていないとだめで、わたしは母を責め立て続ける。あらゆる方向から責める。なぜ私はこう口ばかりたつようになったのだろう。
父のベッドサイドに立ったまま、父の足の先に佇む母に向かって、私は半ば叫ぶように言う。

もう無理だ、お父さんをプロに託したい
私身体中が痛いんだよ
精神も壊れてしまうよ

と、父が
そうか、それはいかんな
と言った。

父は、もうこの頃はほとんど喋らない。時折、

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10月20日ごろ

10月20日ごろ

ヘルパーさんの手を借りないと、父をベッドからおろすことはできない。ヘルパーさんは夕刻に帰るから、それ以降の夕食はテーブルではなく、ベッドサイドに小さな机を置き、そこにお膳を据えて父に食べさせる。
私は椅子に腰掛けて、父はベッドを起こして、私たちは斜めに対峙しながら食事をする。
母が突然入院して父と二人暮らしとなった期間も、それは同じだった。
夜、父はお膳を挟んで私と向かい合いながら、時々わたしの背

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10月7日

10月7日

これはビーグルか?いやダルメシアン。
101匹ワンちゃんのあの犬の置き物、それもかなり精悍な風貌のそれ二頭が、仮面をつけてポーズを決めている。例の黒く先端の尖った帽子を被って、念入りなことにはオレンジ色のマントを着せられている。
ここは父のいる老人保健施設だ。今わたしは父の出迎えにここにやってきた。母が退院してきて24日目の今日、父も家に戻る。

初めてここにきた時には、夏祭りの飾り付けがしてあっ

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9月8日

9月8日

何から書けばいいのだろう。
いま、私は医師の話を聞きに病院へ向かうところだ。19日前の日曜日に、母は都内の大学病院に入院した。前々日、否、そのさらに前の日から、母の様子はおかしかった。ヘルパーさんに同行してもらって父を別の医大附属病院へ連れていき、暑さの中の帰り道、最寄り駅に着くと母は歩けないと言い出したのだ。
父を伴っての外出は、(いや私やヘルパーさんを伴っての父の外出、だが)いつも大変なストレ

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雲

たしかまだ梅雨明け前だが、夕空には夏の終わりのような雲が浮かんでいる。こまごまとした鱗雲のような、澄んだ水底でさっと魚が砂を撒き立てた一瞬のような、ふわふわとした雲だ。
わたしは畳んだ日傘をゆらゆらと振りながら、その空を眺めて駅までの道を歩く。
この雲と類似する自然現象は何か。

大学のとき、自然科学概論という授業をとっていた。先生は、うつり気な美大生たちを授業に集中させるべく、ややこしい解説はせ

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