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140文字小説

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Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
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#誕生日

紺碧のサファイア (140文字小説)

紺碧のサファイア (140文字小説)

 これをください。

 泉の胸元で映えそうなブルーサファイア。

 誕生日に喜んでくれるだろうか。

 改札を出ると、泉から着信があった。

 僕は踵を返し、いまはつり革に釣られている。

 目的がない旅の終点は海だった。

 ─好きな人ができたの。

 残響する泉の声。

 紺碧の海に僕はサファイアを投げた。

前略、旦那さま (140文字小説)

前略、旦那さま (140文字小説)

 前略、文雄様。

 今日は奏太の七歳の誕生日です。

 はやいものです。

 貴方と別れて、五年が経ちます。

 奏太は、近ごろ貴方のことをよく訊ねます。

 その度、私は答えに窮します。

 天国より私達を見守ってください。

 追伸

 貴方とあの女は、まだ発見されておりません。

 私が隠した、山の中です。

思い出を語りましょう (140文字小説)

思い出を語りましょう (140文字小説)

 ねえ?覚えてる?

 三度目のデートを。

 あなたが照れくさそうに、つき合ってくれって言った日だよ。

 つき合って二年、私の誕生日にプロポーズしてくれたよ。

 覚えてないの?

 引戸がガラッと開き、女が怒鳴り込んできた。

「このストーカー!性懲りもなく彼の記憶を改竄しようとしてるわね!」

来年こそは、あなたと (140文字小説)

来年こそは、あなたと (140文字小説)

 ため息が鉛のように重い。

 今年のGWも会えなかった。

 感染症が憎い。

 彼は真面目だから、帰らない。

 ちょっとくらいと言いたいけど、嫌われるのが恐い。

 心の中にも距離が生まれて来そうだ。

 宅配便が届いた。

「誕生日おめでとう。来年こそ一緒に過ごそう」

 来年こそは。今は我慢するよ。

三十女とミルフィーユ (140文字小説)

三十女とミルフィーユ (140文字小説)

 三十になった。

 1Kの部屋で、一人ミルフィーユを頬張る。

 パイとクリームが幾層も積んでいる。

 重なる様は、まるで人生のよう。

 でも私は人生の甘味を知らない。

 恋が未経験だ。

 まわりはどんどんと結婚する。

 けれど、焦る感情はない。

 なるようになるさと、私は今日も気楽に一日を終える。

最後の晩餐? (Twitter140文字小説)

最後の晩餐? (Twitter140文字小説)

 帰宅すると妻が優しい。

 普段は悪口雑言の妻が。

 まさかと自室に駆け込む。

 ガンプラ達は無事だ。

 料理の失敗?

 だが普段より豪勢だ。

 暗澹たる状況に不安が募る。

 突如妻の手に包丁が。

 最後の晩餐なのか。

 俺は覚悟を決めた。

「誕生日おめでとう」

 ケーキがテーブルに。