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図書館

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図書館全般についての記事をまとめています。
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#図書館司書

本の書誌データをヒントに、人間の戸籍を「個籍」にしてみました

本の書誌データをヒントに、人間の戸籍を「個籍」にしてみました

じつは本にも「親子関係」があるものが存在しますたとえばこんな本です。

この場合『岩波講座 世界歴史』が「親」です。
書誌データはこのようになります(依拠する目録規則によって記述方法は異なりますので一例です)。

NII書誌ID(NCID):BC10314546
出版国コード:ja タイトル言語コード:jpn 本文言語コード:und
岩波講座世界歴史
荒川正晴 [ほか] 編集委員
岩波書店, 20

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検索の限界

検索の限界

職業柄、学生の利用者さんと接する機会が多いです。

最初は「いやあイマドキの若者なんだし、みんなネット検索なんて慣れてるだろうから、教えることなんて何もないんじゃないの」と思っていました。

ところがだんだん「若い世代の検索能力というのは、こちらが予想したほど高くないらしい」と思い始めます。

そして最近思うのは「そもそも検索という行為は、ある程度人生経験がある人のほうが有利なのではないか」という

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図書館のお仕事紹介:所在変更

図書館のお仕事紹介:所在変更

所在変更とは、つまり本のお引越しです。

具体的な作業としては、現物(本)の移動、住所(配架場所や請求記号といった所蔵データ)の変更、必要に応じて背ラベルなどの装備もお召し替え、となります。

所在変更の理由理由はいろいろあり得ますが、私の勤務先の場合、まずは配架スペースの確保が目的です。
なにしろすでにある本で棚がいっぱいなところへ新着本がどんどん来るわけですから、所在変更しないことには新しい本

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小口研磨という本への暴力

小口研磨という本への暴力

見出し画像を見ていただくと、縦方向に細かいスジが走っているのが見えますよね。
これが研磨された小口です。

書店で小口をキレイに見せる目的で行われるもののようですが、実はこれ、図書館としてはちょっと困るものでもあります。

小口研磨のデメリット資料の劣化を早める

そもそも、本にとって小口のヤケやシミというのは単なる経年変化であり、衛生上の問題もなく、カビや害虫、紙の酸化のようにただちに対処しなけ

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おなじ本?ちがう本?:図書館における「書誌の同定」というお仕事

おなじ本?ちがう本?:図書館における「書誌の同定」というお仕事

図書館では「これとこれは同じ本なのか」という判断を迫られる場面がけっこうあります。
「これとこれ」は本と本のこともありますが、多いのは書誌データと本、または書誌データと書誌データです。
いちばん関係あるのは目録担当者ですが、レファレンスや相互利用、選書、除籍などでも避けて通れません。この判断を誤ると、求める本と違う本を利用者に提供してしまったり、すでに所蔵していることに気づかず重複発注してしまった

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図書館のお仕事紹介(18)予算折衝

図書館のお仕事紹介(18)予算折衝

世の中のたいていのものと同じく、図書館も運営するにはお金が必要です。

ただ違うのは図書館には無料の原則というものがあり、どんなにがんばって入館者数や貸出冊数やレファレンス件数を増やしても、それで儲かるわけではありません。
(※館種によっては利用料を徴収するところもあります)

そこで、財源としての所属組織から予算を獲得する、というのが重要な仕事になります。

もちろん私のような下っ端が予算折衝に

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図書館のお仕事紹介(17)貸出・返却

図書館のお仕事紹介(17)貸出・返却

「図書館の仕事って、カウンターで貸出返却してるだけでしょ?誰にでもできるんじゃないの?」
これは図書館に対するありがち誤解ナンバーワンですが、それに対して反論すると「いや貸出返却は仕事全体のごく一部で、ほかにもレファレンスとか受入・分類・目録・装備とか蔵書点検とか除籍とか展示とか修理とか…」と長くなるので、それがこの「図書館のお仕事紹介」シリーズを始めた動機にもなっています。
しかし、シリーズ17

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図書館のお仕事紹介(16)福袋

図書館のお仕事紹介(16)福袋

福袋といえばお正月の風物詩ですが、最近では図書館でも「福袋企画」を取り入れているところがありますね。
図書館員が選んだ数冊を外から見えないような袋に入れて、封をしたまま借りてもらい、中身は開けてみてのお楽しみ、というわけです。

私の勤め先でも、数年前から福袋企画を続けています。

数年間やってみてわかったのは、福袋には人間のハートに火をつける何かがあるらしいということです。

今まで誰も借りなか

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「歴史」というキーワードで歴史の本を探すとどうなるか

「歴史」というキーワードで歴史の本を探すとどうなるか

図書館内には蔵書検索用のPCが何台かありますが、ときどき利用者が検索結果表示画面を開きっぱなしで行ってしまうことがあります。
見つけしだい画面をクリアしていますが、図書館員としては、利用者さんがどういうキーワードで検索したのか気になって、つい見てしまいますよね。

ある日、学生さんと思しき人が例によって画面を放置したまま本を取りに行ってしまったので、見ると「歴史」というキーワードで検索していました

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図書館司書の適正年収とは

図書館司書の適正年収とは

私は当事者として、図書館司書の賃金が上がったらいいなともちろん思っていますが、年収1千万くらいだったらいいのにとは思いません。

そんなことになったが最後、図書館司書から女性が排除されるのが目に見えているからです。

たぶん「本は重いので女子には無理」とか「土日祝日も出勤だし育児と両立しにくいから」とかむちゃくちゃな理屈をつけて女性の採用が控えられるようになり、司書課程も男子で埋め尽くされて女子は

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図書館のお仕事紹介(15)巡回

図書館のお仕事紹介(15)巡回

半端な時間にちょっと手が空いたな、というときは、館内を巡回することにしています。

警備上の巡回は警備員さんがしてくれているのですが、図書館員の巡回は別の目的があります。

「巡回している自分の姿を利用者に見せる」ことです。

「図書館員だけど質問ある?」みたいな顔で、ゲーム画面のモブキャラ的に館内をうろうろしつつ、書架の乱れを直したり、困っていそうな人にお声がけしたり、問い合わせを受けたりするわ

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図書館員はブルシットジョブではないが、上へ行くほどブルシットになる

図書館員はブルシットジョブではないが、上へ行くほどブルシットになる

「ブルシット・ジョブ」と呼ばれる無意味な仕事については、2020年に上記の本が出版されたとき大きな話題になりましたし、いろいろと議論もされたので、いまさら私が述べることもないのですが、自分の仕事に当てはめると、大きくうなずけるところがあります。

まず私の勤め先を組織階層順に表現するとこうなります。

A. えらい人(局長級。いわゆる事務方のトップ)

B. 中間管理職(課長級)

C. 正

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人生の先輩に仕事を教える

人生の先輩に仕事を教える

私もこの年齢になって、そろそろ後進の育成みたいなことに貢献したいと思っていたのですが。

ふと気が付くと、自分の職業人生で、自分より若い人に教える回数より年配者に教える回数のほうが圧倒的に多いのですね。

「大学卒業したて!司書資格取りたて!」というキラキラした瞳の志ある若者に、司書の仕事を伝えていければ…と夢見ていたのですが、現実はだいぶ違いました。
そもそも図書館で新卒採用などしていませんし、

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