図書館のお仕事紹介(17)貸出・返却
「図書館の仕事って、カウンターで貸出返却してるだけでしょ?誰にでもできるんじゃないの?」
これは図書館に対するありがち誤解ナンバーワンですが、それに対して反論すると「いや貸出返却は仕事全体のごく一部で、ほかにもレファレンスとか受入・分類・目録・装備とか蔵書点検とか除籍とか展示とか修理とか…」と長くなるので、それがこの「図書館のお仕事紹介」シリーズを始めた動機にもなっています。
しかし、シリーズ17回目にしてようやく「そういえば貸出返却についてまだ取り上げてなかったな」と気が付いたくらいなので、私自身も貸出返却を軽視していた部分があるのかもしれません。
とは言え、貸出返却にまつわるトラブルや気を付けないといけない点など、ちょっと考えただけでぞろぞろ出てくるので、これは侮れない業務です。
貸出返却カウンターとレファレンスカウンターの違い
貸出返却は利用者と直に接する機会のもっとも多い、いわば図書館サービスの最前線です。
私の職場では貸出返却とレファレンスの窓口を分けていません。
規模が小さくそこまで対応できないのと、利用者を窓口でたらい回しせずにワンストップで対応するのが望ましい、という方針のためです。
ただ大きな図書館では別にしていることも多いです。
専門職の司書はレファレンスしかやらず、貸出返却はバイトにやらせとけ、というところもあります(後述のようにこれはいろいろ問題もあるのですが…)。
私の経験から言うと、レファレンスを利用する人はわりに「意識が高い」ことが多く、話が通じやすいです。
ある程度図書館を使い慣れていて、ルールもわかっており、司書の専門性に対する信頼もあるので利用するのでしょう(それだけに期待を裏切れないプレッシャーもありますが…)。
以前すごく専門性の必要なレファレンスが舞い込み、スタッフの知識を総動員して無事解決できたのですが、その時の利用者さんに「助かりました~。実は私も以前図書館に勤めていたんですが、どうもレファレンスは苦手で…」と言われ、元・同業者かよ!となったこともあります。
それに対して貸出返却には、本当にいろいろな人が来ます。
図書館というものに来たのは今日が生まれて初めて、という人もいます。
貸出返却処理することを知らず、カウンターを素通りして持っていこうとする人や、自分で勝手に書架に返してしまう人もいます。
貸出返却にまつわるトラブルあれこれ
注:この記事はあくまで私の勤め先の事例に基づいており、トラブルへの対処やシステムの運用方法は各図書館により異なります。
ごねる利用者
「貸出冊数の上限を超えて貸してほしい」「期限を延長してほしい」「延滞していて貸出停止中だけど貸してほしい」「禁帯出資料を館外貸出してほしい」などと要求されることがあります。
基本、丁重にお断りすることになりますが、状況によっては対応可能な場合もあり、その際スタッフごとに判断が割れては困るので、事前にすり合わせも必要です。
なまじ人間がいると交渉の余地があると思われるのが難しいところです。
「借りてない」「もう返した」という主張
貸出返却時に延滞が発覚した場合、その場で督促も行っていますが、上記のような答えが返ってくることがあります。
これは一概に嘘だと決めつけるわけにはいきません。なんらかのエラーで違う本が貸出処理されてしまったり、返却処理漏れがあったり、という可能性はあるからです。
その場合は書架に本が戻っていないか見に行ったり、システムの履歴を確認したりして、こちらのミスが発覚すれば謝罪し、そうでなければ「おそれいりますが念のためもう一度お手元を確認していただけますでしょうか」とお願いします。
そうしたやりとりの数日後、その時は確かに無かったはずの本が書架にしれっと戻っていることがあり「もしかしてやっぱり自宅にあってこっそり返しに来たんじゃ…」という疑惑も感じますが、やはり証拠はないので決めつけることはできません。返ってくればよしとします。
本の破損、汚損
返却のときに「ごめんなさい!コーヒーこぼしちゃって…」といった申し出があったりもします。
基本的に弁済となりますが、軽微な修理で対応可能なものや経年劣化によるやむを得ない破損と思われるものは不問にしています(古い本だと背固めの接着剤が劣化してめくっただけでページが取れたりしますので)。その判断も微妙です。とくに水濡れの場合、どういう水なのかも気になります。きれいな水ならまだいいですが、汚水だと絶望的になりますし。
返却ポスト処理
カウンターではなく、返却ポストに返すこともできます。
以前は閉館時間中しか使えなかったのですが、コロナ禍で24時間返却可になったので、処理数も多くなりました。
便利な面もありますが、最大の問題は「自館の本以外のものが入っている」ことでしょう。
よその図書館の本、私物と思われる本、その他なんだかわからないものなどです。
カウンターならその場でご本人に確認できますが、ポストだと誰が入れたかわかりません。
他館資料の場合、その図書館に連絡してそちらから利用者に本が違う図書館に返されたことを知らせてもらい、取りに来てもらう、という流れになります。
近所の図書館だったりすると私が歩いて返しに行ったほうが早い気もしますが、向こうもお役所仕事で頑なに「本人の返却しか認めない」と言い張ったりすると、いつまでも取りに来ない本を預かるはめになります。
自動貸出・返却機
私の勤め先にはありませんが、最近は自動貸出機を導入しているところもあります。
24時間開館している図書館など、スタッフが常駐しているわけではなく自動貸出機だったりしますね。
機種によって違うでしょうが、基本的に
・利用者IDを読み取り
・本の資料IDを読み取り
・セキュリティが解除され、退館ゲートを通過
という仕組みでしょうか。
返却機は返却ポストの投入口に読み取り機能がついている感じですね。
利用者からすると、何の本を借りたか職員に見られるのが恥ずかしいという人もいるでしょうし、業者は「初期投資を差し引いても人件費削減で莫大なコストカット効果が!」と謳っていますね。
個人的には、確かに便利で、今後はそういう流れになっていくのかな…とも思うのですが、後述する理由で、これですべて解決、というわけでもないと感じます。
結局、誰にでもできる仕事なのか?
その答えは「単純な貸出返却なら誰にでもできるし、なんなら機械でもいい。ただし現実はそうではない」というところでしょうか。
貸出返却を単純作業として他の業務から切り離した場合、多くのものが取りこぼされていくのではないでしょうか。
もし全面的に機械化したら、おそらく「図書館を単なる無料貸出装置として自動貸出機を使うだけの利用者」と「レファレンスカウンターに来るごく一握りの意識の高い利用者」に二極分解すると思います。
人間が座っていると、貸出返却のついでにちょっとした問い合わせがありそれがレファレンスにつながっていきますし、図書館に対する不満や希望を吸い上げて改善につなげることもできます。
返却時スタッフに感想を言ってくれたり、一言二言雑談を交わすのを楽しみにしている人もいます(もちろん時間の制約もあり際限なくできるわけではないですが、可能な限り対応しています)。
たしかに「誰が何を借りたか」は重要な個人情報で、スタッフに守秘義務があるのは当然ですが、一方で専門知識のある司書が日々の業務で体感的に「こういう本をこういう人が借りている」という情報を収集でき、それをサービスの向上につなげることは有益です。
自動貸出機図書館では、おそらく現場で働いたことのないデータ屋さんが利用状況のデータをPC上で分析し、選書方針を決めるのではないでしょうか。
たかが貸出返却、と軽視されがちな業務ですが、それを誰がどのようにやるかで、図書館の未来も変わってくるかもしれません。
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