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短編や掌編のオリジナル小説のまとめ場。2014~2015年頃の作品が中心です。
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トーンダウン・メテオノール #風景画杯

トーンダウン・メテオノール #風景画杯

文字数:23,907字

 沙口(さぐち)が大学生の頃から乗っている自転車を漕いでいると、田圃道を並走する電車が横を通過していく。電車のフロントにはキオ3244という識別番号が記してある。

 時間は朝の9時半を少し過ぎていた。家を出た時は曇りの天気だったが、だんだん小雨がパラついてきた。今日は曇り雨の天気になると新聞に書いてあったので、レインコートを羽織って自転車に乗っているが、やはり着て正解だ

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『疑似餌』

 #1200文字のスペースオペラ

『疑似餌』 #1200文字のスペースオペラ

 エイリアンは排除したが、宇宙船のクルーも全滅した。三人の中で生き残ったのはマックだけだ。

 マックは堅実な人生を送った。スラム街で生まれたマックだが、算数の問題はよくできたし、工作も得意だった。上の兄弟は八人いたが、大学院を出たのはマックだけだ。マックの肩には家族の生活がかかっている。ゴールドラッシュの職業といえば、宇宙飛行士だ。

 開発が進んだ結果、木星までのルート開拓が現実的になった。宇

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『怪対本部 序章 赤手事件』#パルプアドベントカレンダー2019

『怪対本部 序章 赤手事件』#パルプアドベントカレンダー2019

「これで出来上がりだ。最終的に全ては五芒星に帰結する。だから……あちこちにこれを描いたが、これを作れば晴れて完成なんだ。ついてきてくれてありがとう。正直心細かったんだ。こんなバカをするのは俺だけかと思ってた」

「なるほど。しかし疑問があるが、どうして今日なんだ? 別にクリスマスじゃなくても、仏滅だったり節分の日だって理由になり得る。時期なんていつだって妥当だろう」

「いってなかったか」
 彼は

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家が燃える

家が燃える

 火事は一階の台所で始まったが臭いや音はなく焦げ出す雰囲気のみが出現した。

 はじめに母親はフライパンを空焚きしておいたのを忘れてトイレに入った。隣の部屋には赤ん坊が歩行器の中にいて昨夜の夜泣きの跡が残っていた。母親はトイレで用を足したのだが急に暇つぶしに置いてあった小説の発売日がいつだったか気になり始めた。時事ネタが多いシリーズなので刊行ペースがどうしても知りたかった。寝不足で目が痛いので普段

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勝ち組たろう君

勝ち組たろう君

昨日、飼い猫のミケが美少女になった。こうなると僕はリアル勝ち組になり子孫繁栄とか大いに期待されて大変申し訳無いのだが、さすがに美少女が出現した時はいっぱいいっぱいになった。なにせ朝目覚めたら裸の少女がいたのだ。悪の組織から逃げ出してきたとか誰かの知り合いの妹の家出とかそっち系で考えてしまった。

 裸の少女に毛布を着せると起きた。「にゃあ」しかいわないから本格的にヤバいと思ってるとそのうち普通に

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放射性降下物集積地方

放射性降下物集積地方

 手をつないで少年と少女が土手を歩いている。防塵マスクで顔を覆っているがすでにボロボロで役目を果たしていない。スニーカーもリュックサックもボロボロだった。ガス汚染のニュースは昔に聞いたが検討する余裕はなかった。留まって殺されるよりガスで死ぬほうが良かった。

 男の子が川を――川にあるものを――見ると顔をこすった。涙が出た。少女も川を見たが、彼女は一瞥しただけで男の子の顔を強引に逸した。なおも川を

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よもつひらさか

よもつひらさか

 少年が水たまりを踏みつけると命の音がした。雨上がりの土地は温かく少年たちを迎え入れる。神社の隅には松が生え、狛犬が立ち並び、心電図が錆びた機械のように置かれている。動いては死んだように止まる様がおもしろい。たまに機械を蹴るとボールが横腹にぶつかった。友達二人が立っている。さっきまで一緒にどこかに乗っていた。バスだったか飛行機だったか。

「早くキャッチボールしようぜ。やんないならお前の頭をボール

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制限時間十分、リトライ不可

 眼を覚まして辺りを見回すと知らない風景が広がっていた。彼女の周りで夕暮れが落ちていく。何が起きたのか分からない。分からないまま彼女は塀垣から降りた。大きな家の側に自分はいたということになるが、なぜいたのだろうか? この人混みはなんなのか?

 視線が低すぎる。もっと身長が高かった筈だ。混乱しているが足は動く。主婦が乗る自転車が彼女の尻尾を踏みそうになり、悲鳴を上げた。驚きが強くて何を考えていたか

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遺書、起つ

遺書、起つ

 男は遺書を綴っていた。世の中に絶望していた。未練だらけではあったがそれ以上に生きている苦痛が耐え難かった。静かに文章を書き終えて静かに死ぬつもりだったが、気づいたらむせび泣いていた。文章も支離滅裂になっていた。

 どうにか書ききったがいったい何を書きたかったのかさっぱりわからない。最後の言葉がこれではいかにも情けない。どうせ最後なのだからと余計な意地が出ると、男は消しゴムで文章を消し始めた。手

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SSSSSSSSレア当選

SSSSSSSSレア当選

 電気を点けたら紫色の照明が灯った。見上げたまま消してもう一度点けると、今度はピンク色。手が震えた。更に消して、また点ける。濃密な緑色が部屋全体を満たした。背中に汗が出た。

「マジかよ」と俺はいった。覚えがあった。

 基本的に電気に色などない。その筈だが、この部屋に限っては例外だと、部屋を譲ってもらう時に友人が話していた。これは俺も又聞きなんだがなとビールの缶を飲みながら友人が語った。

「ど

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石投げ

石投げ

 少年が気づいたら賽の河原にいた。三途の川が見える。周りの子たちは泣きながら石を積んでいた。どこかから声が聞こえてきた。
「お前は親よりも先に死んだ。だから罰として永遠に石を積み続ける」そんな理不尽が、と少年は叫んだ。だが声は止み、圧力がかかっていた。仕方なく少年は石を積み始めた。
 はじめの頃は周りの声が煩かった。彼ら彼女らは泣きながら石を積み、一人で崩してメソメソしている。少年も聞いていると気

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