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SSSSSSSSレア当選

 電気を点けたら紫色の照明が灯った。見上げたまま消してもう一度点けると、今度はピンク色。手が震えた。更に消して、また点ける。濃密な緑色が部屋全体を満たした。背中に汗が出た。

「マジかよ」と俺はいった。覚えがあった。

 基本的に電気に色などない。その筈だが、この部屋に限っては例外だと、部屋を譲ってもらう時に友人が話していた。これは俺も又聞きなんだがなとビールの缶を飲みながら友人が語った。

「どうもこの部屋の電気は、極稀に色が変わる事があるらしい」

「色? なんか特別な材料でも使ってるのか」

「いや……そういう訳じゃないんだが。部屋の電気、これが何万回に一回、何億回に一回、特別な色に変わる事があると……そしてそれが起きると、物凄い事が起こるらしい」

「リアルガチャだな。それ誰から聞いた」

「ここの大家、すげえ年食ったバアサンだろう。ここを借りる時にそれを言ってたんだが、物凄い早口でな。俺も二、三回聞き直した」

「バアサンじゃ仕方ねえな」

 そうして話は終わった。

 しかし現実に色付きの照明があると臨場感が半端ない。狭い部屋だが、そこに煌々と毒々しい緑の光が満ちているというのは息苦しい。毒ガスでも撒かれた気分だ。

 しかし物凄い事か。何気なく考えてみて、昨日買った宝くじを思い出した。ダッシュで新聞受けに駆け込んで朝刊を開いた。違う。今日の運勢を見てみたが、毒にも薬にもならない事しか書いてない。部屋に戻って見回したが、他にはテレビしかない。点けてみると『速報』と銘打たれた画面の中でキャスターが大声で叫んでいた。カメラも揺れている。

 窓の外が暗くなっている事にようやく気づいた。外を覗く。

 のっぺりとしたパンケーキらしき物が空にあった。太陽や空を隠して浮かび、直径は百メートルを超えている。外で聞こえる叫び声。画面の女も同じくらい叫んでいる。パンケーキの底が開いて、蝿みたいなものが噴き出す。砲口のようなものが開いて、地上に向いた。部屋はガス色だ。

 俺は息を飲んでから電気の紐を引っ張る。もう一度。

 電気が消える。点く。

 赤色の照明が灯った。

 途端に蝿たちが戦闘機のショーみたいに虹色の煙をたなびかせながら飛翔した。砲口が二段階動くと大型車両がパラシュート付きで降りてきて、中から人形の生物が姿を表した。その後は歓迎パレードやらが行われて首相や大統領と握手するのをテレビを通じて俺は見た。点けっぱなしだった赤い光がライブハウスのように部屋中を満たして食っていたラーメンを凄まじい色に染め上げていた。

 電気を消した後、俺は荷物をまとめて部屋から逃げた。

《終わり》

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