完結編! ついに発見!? 先祖はここからやって来た!【ファミリーヒストリー入門】
~前回までのあらすじ~
いい歳(27歳)して両親と会話をしない四ツ谷氏は、家族の絆を取り戻すため、否、永遠と思われる思春期を終わらせるため、知られざる先祖を探す旅に出るのであった。ついにルーツの地・隠岐島に上陸した我々は、現地調査を開始する。なかなか成果があげられないなか、気分転換にサイクリングをするが……。
案内人:北山
四ツ谷:墓地調査で成果がなかったのは残念だったね。ほかにはどんなことをするべき?
北山:土地台帳の調査も必須だけど、今回は休日で役所が休みだからパス。地元の図書館は資料が豊富だから、行っておいた方がいい。司書さんは調べもののプロだから、強力な助っ人になる。
四ツ谷:「隠岐の島町観光協会」に資料があるみたいだから、行ってみよう!
北山:やることはひとつ。親戚の名前を頭の中に叩き込んで、地方史から親戚を探し出す! 途方もない作業だから、近世以降の歴史だけみればOK! さあ、がんばるぞ!
~作業中~
四ツ谷:四ツ谷の四の字すら出てこないね……。
北山:近代以前の調査は、そう簡単にはいかないものだ。
教育委員会の人に郷土史家を紹介してもらう手もある。地元の歴史については、なんでも知ってるという人が、だいたいどの地域にもいるもんだ。
四ツ谷:とりあえず、窓口に聞いてみよう。
北山:すみませーん。
観光協会の人:郷土史家ですか……。ちょっと分からないですが、ちょうどそこにいるNがこのあたりの歴史には詳しいですよ。Nさん、ちょっと!
Nさん:どうしましたか?
四ツ谷:僕の先祖が隠岐出身で、そのことについて調べているんですが、「四ツ谷」という家をご存じですか?
Nさん:四ツ谷かあ。隠岐にはほとんどいないんじゃないかな。古い家じゃないのかもしれない。隠岐は北前船の物流で急速に発展したから、江戸時代に人口も激増したんだ。その時に来た一族かもしれない。隠岐の発展は本当にすさまじくて、辺境を期待して訪れたラフカディオ・ハーンは近代的な建物を見て幻滅したらしいよ。
四ツ谷:なるほど、一旗あげようと出雲あたりから出てきたのかもしれませんね。
Nさん:あとは隠岐は罪人の流刑地で有名だから、かなりの人数が流されてきた。罪人は普通は家族を持てないんだけど、隠岐では特例的に持てたらしい。だから、赦免となっても隠岐に残る罪人もいたらしい。その子孫も、間違いなく存在はするーー。
四ツ谷:おかげ様で、いろいろな可能性が出てきました。Nさん、お仕事中ありがとうございました。
四ツ谷:罪人の子孫か。子供や孫だったら嫌だろうけど、これくらい離れた先祖だったら、なんかワクワクするな。
北山:先祖がどんな人物であろうと、自分には何の関係ないからな。淡々と事実を受け入れるんだ。
さて、成果がないから、一瞬で資料調べが終わってしまった……。気分転換にサイクリングでもするか。ついでに町で四ツ谷家の痕跡を探そう。
高端:ようやく出かけられる……。
四ツ谷:二時間くらい自転車を漕いでるけど、見事になんにもないね。表札にも、墓石にも痕跡はない。もうこのまま隠岐を一周しそうな勢いだよ。
北山:現地調査で成果を出すのは難しいことなんだ。きっと、このトンネルを抜けたら海が見えるよ。
四ツ谷:そんなもんか。……っておい! このトンネル! 「四ツ谷洞門」だって!
北山:なんと……。日本人の苗字のほとんどは、地名から来ている。「隠岐」「四ツ谷」で引っかかる地名はなかったから、「四ツ谷」というのは、消え去ったこのあたりの小字(地名)なんだ……。
君の先祖は、ここからやって来たかもしれない。
四ツ谷:え、そうなの? 正直、家族に思い入れがあってはじめた調査じゃないから、案外感動はしないな。地名は消え、一族も去ったいま、急に思い入れは抱けない。
北山:それでいいと思うよ。感動を血縁関係に管理されちゃいけない。排他的になる諸刃の剣だ。これはあくまで知的謎解きゲームだって言ってるだろ。
四ツ谷:でも、このトンネルを爆速で駆け抜けたら気持ち良いかもね。
北山:そりゃ最高でしょ。
北山:四ツ谷に続ける意志があれば、東京に戻ってもできることはあるからな。現地調査編はこれで終わりってことで。悪かったな。あんまり良いガイドじゃなかったかもしれない。
四ツ谷:疲れたから帰ってから考えるよ。
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