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俺の家の墓がこんなにファンキーなはずがない!【ファミリーヒストリー入門】

~前回までのあらすじ~
いい歳(27歳)して両親と会話をしない四ツ谷氏は、家族の絆を取り戻すため、否、永遠と思われる思春期を終わらせるため、知られざる先祖を探す旅に出るのであった。ついにルーツの地・隠岐島に上陸した我々は、現地調査を開始する。次は先祖の面影をもとめて、四ツ谷家の墓があるはずの墓地にむかうが……。
案内人:北山


四ツ谷:四ツ谷家の墓があるはずの共同墓地
に着いたけど、これは……すごいね……。

北山:めちゃくちゃ広いし、無限に墓がある。

四ツ谷:父親の記憶では、1991年に土地を譲渡したときに、合わせて墓の管理も親戚に頼んだらしいんだ。だから、この中のどこかにあるはずなんだけど。

北山:まあ、まずは手分けしてざっと探してみるか。お、墓参りしてるおじさんがいる。

四ツ谷:すみませーん。四ツ谷って墓見たことあります?

墓参りおじさん:うちの墓はこれだけど、ちょっと分からないな。墓参りするの? ここから探すのは雲を掴むようなもんだよ。

四ツ谷:がんばってみます! ありがとうございます。

北山:途方もないな。なんかヒントないの?

四ツ谷:50年前に墓参りをしている時の写真がある。同じ画角の場所を探せば、おおよその場所が分かるんじゃないかな。

四ツ谷家の墓を映した古い写真

北山:だいぶ古そうな墓だな。19世紀のものであることは固いだろう。そこにお寺があるから、住職に聞いてみるのが早いかもね。
ここで注意がひとつ。お寺は部落差別を助長しないため、基本的には先祖調べを手伝ってくれない。被差別民たちには「差別戒名」という戒名が与えれることがあったんだ。たとえば、「僕」とか「革」みたいな、マイナスな漢字を戒名に盛り込む。「玄」「田」と分けて、「畜」の字を紛れ込ませることもあった。結婚相手の実家の調査を依頼された興信所とかが調べにくるから、問題になったんだ。今回は、「墓参りしたいけど、場所が分からない」くらいでいいんじゃないかな。行ってこい!

四ツ谷:こんにちは。久しぶりに墓参りに来たんですけど、お墓の場所がわかんなくなっちゃって。四ツ谷家のお墓ってお心当たりありますか? 手がかりが50年前の写真しかなくって。

住職:どれどれ。四ツ谷家は心当たりはないけど、写真を見る限りはうちの寺です。四ツ谷家は間違いなく檀家さんですね。ちょっと一緒に探してみましょう。

四ツ谷:ありがとうございます!

住職:たぶん、このあたりだと思いますが……。

奥の薮から撮ると古い写真と同じ画角になる。この近辺に違いない。

四ツ谷:あ、ここもお墓だったんですね。荒れ果てて藪みたいになってる。でも確かに、画角は同じだ!

北山:所有者不明の看板がありますね。このあたりは無縁仏のようだ。

四ツ谷:このあたりのお墓を確認してみます。どうも、ありがとうございました。

住職:お力になれずすみません……。

北山:本来ならば、墓石から没年月日、戒名、俗名などを確認するんだけど……。戒名が分かれば、だいたいの身分が分かるからね。宗派にもよるけど、だいたい長いほうが偉い。「院」がつくと偉いし、「院殿」がつくとさらに偉い。これは大名クラス。

四ツ谷:墓参りの写真と同じ場所にも見えるけど、ちょっと墓石が風化していて読めないな。

高端:この墓、めちゃくちゃツタに絡まれてるな。もさもさじゃん。四ツ谷と髪型は同じだ。

四ツ谷:え、これ? 俺の親戚の管理どうなってんだよ。

北山:なんにしろ確証は持てないな。字が読めない。すぐに見つかると思ったんだけど、厳しかったな。今回はタイムアップだ。残念ながら帰ることにしよう。
ちなみに墓場調査は冬がおススメだよ。夏は蚊が多くてたまったもんじゃない。

茂みのなかにも墓石がある
打ち捨てられた墓石たち
お騒がせしたお詫びに手を合わせておいた

墓参りおじさん:あ、いたいた。おーい! 青年たち! 四ツ谷って墓があったよ! 向こうのほう!

四ツ谷:本当ですか! すぐ見に行きます!

北山:「青年」って呼ぶの素敵だな。おれも「中年」って呼び返せばよかった。

四ツ谷:……。あったあった。このお墓みたいだけど、写真みたいに古くもない。家紋も違う……。

北山:おそらく、さっき突撃した別流の四ツ谷家のものだろうね。ともかく協力してくれたみなさんに感謝だ。さあ、「青年中年」に感謝の意を示しながら、このお墓にも手を合わせよう。

四ツ谷:南無阿弥陀仏。

この日の夕食。ふわふわとした華やかな食感のカサゴ
ねっとり濃厚なシマアジ

北山:1994年生まれ。ライター/歴史研究者。一橋大学大学院社会学研究科修了。中学時代に先祖調査に夢中になり、そのまま日本家系図学会に入会。その後は大学院で日本近世史・村落史・由緒論を学ぶ。署名は(円)。

四ツ谷:1996年生まれ。学術書編集者。弟と父親のLINEを知らないくらいには、家族と没交渉。署名は(四)。


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