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毎日読書メモ

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2021年7月の記事一覧

毎日読書メモ(61)『52ヘルツのクジラたち』についてもう少し考えてみる

毎日読書メモ(61)『52ヘルツのクジラたち』についてもう少し考えてみる

昨日に続き、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)について考えてみる。

とりあえず、自分が書いた、『流浪の月』の感想を読み返してみた。精神的に健全とか不健全とか、線引きは難しいし、自分から見ておかしい、と思える人が、社会的には立派な人だと思われていることもある。そんな経験は誰にでもあるのではないかと思う。逆に、多くの人からヤバい人と思われている人が、誰かにとっての救いになる場合もあ

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毎日読書メモ(48)『銅像歴史散歩』(墨威宏)

毎日読書メモ(48)『銅像歴史散歩』(墨威宏)

墨威宏『銅像歴史散歩』(ちくま新書)。どこに行っても銅像ってあるよね。それはある意味平和の象徴? 人は何故銅像を作ろうと思うんだろう。考え出すときりのない、銅像の世界。

下記感想に書いた、中野の哲学堂公園、その後実際に行ってみたが、想像以上に不思議な場所だった。銅像に呼ばれた感あり。

お友達の書いた本、ということでお付き合いで買ったのですが、いや、面白かったです(ヨイショでなく)。人は何故銅像

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毎日読書メモ(60)『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)

毎日読書メモ(60)『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)

ようやく、今年の本屋大賞受賞作、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)を読んだ。今読み終わったばかりなので、取り急ぎ、とりとめのない感想だけ。

重く、苦しい、人間関係の物語。

そして機能不全の家族の物語。家族は人間の生まれて最初に取り巻かれる人間関係の基本だが、ある意味機能不全でない家族なんてないのかもしれない。すべての構成員が、他の構成員に対して満足していて、幸せに暮らしている

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毎日読書メモ(59)『私にふさわしいホテル』(柚木麻子)

毎日読書メモ(59)『私にふさわしいホテル』(柚木麻子)

柚木麻子、読んでいて、なんとなくもやっとすることも多いのだが(すかっとするオチを期待してしまうと)、女子の友情とか、それに類する人間関係を「あるあるっ!」という感じに描くのがすごく上手。昔の作品からゆるゆると付き合ってきて、どんどん上手になっていくのがわかる。

柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫)、表題作は先に『文芸あねもね』(新潮文庫)で読んでいたのだが、この作品で取り上げられた山の上

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毎日読書メモ(58)『岸辺のヤービ』(梨木香歩)

毎日読書メモ(58)『岸辺のヤービ』(梨木香歩)

梨木香歩『岸辺のヤービ』、続編『ヤービの深い秋』(福音館書店)、いずれも児童書を手に取り、ゆっくり読み進める至福を感じさせてくれるすてきな本。下記、『岸辺のヤービ』の感想文に、続きが読みたい、と書いた願いは『ヤービの深い秋』でかなえられたが、そうなるとまた、『ヤービの深い秋』の続編が読みたくなる!

いとしい物語。北の湖沼地帯の中の寄宿舎の教師である主人公がボートで葦原の中にたたずんでいて偶然出会

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毎日読書メモ(57)『王とサーカス』『真実の10メートル手前』(米澤穂信)、ついでに『さよなら妖精』と『パンと野いちご: 戦下のセルビア、食物の記憶』(山崎佳代子)にも言及

毎日読書メモ(57)『王とサーカス』『真実の10メートル手前』(米澤穂信)、ついでに『さよなら妖精』と『パンと野いちご: 戦下のセルビア、食物の記憶』(山崎佳代子)にも言及

米澤穂信『王とサーカス』、そして『真実の10メートル手前』(ともに東京創元社、その後創元推理文庫)の感想掘り起こし。『さよなら妖精』は更に昔に読んだけれど、山崎佳代子『パンと野いちご: 戦下のセルビア、食物の記憶』を読んだあとに再読して、胸にぐっと来た。ちなみに山崎佳代子さんは『さよなら妖精』の監修をされていたのを、再読時に知った。

『王とサーカス』:1991年の『さよなら妖精』から10年、新聞

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毎日読書メモ(56)『尻尾と心臓』(伊井直行)

毎日読書メモ(56)『尻尾と心臓』(伊井直行)

現代日本の小説家の中で大好きな作家の五指に入る伊井直行なんだが、何故か賛同者がなかなか見つからない。

初期作品『草のかんむり』、『さして重要でない一日』なども好きだったが、強く推したりしないまましばらく忘れていて、『濁った激流にかかる橋』が読売文学書を受賞し、新聞の書評で紹介されていたので読んでみたら、ぶっ飛ぶような衝撃を受けた(2000年頃)。それから、読んでいなかった本を立て続けに読んだらど

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毎日読書メモ(55)『陽気なギャングは三つ数えろ』(伊坂幸太郎)

毎日読書メモ(55)『陽気なギャングは三つ数えろ』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』(ノン・ノベル、後に祥伝社文庫)。

響野にかき回されながら、相変わらず絶好調の4人組とその家族たち、そこに、おそろしい脅迫者が現れる。火尻に絶体絶命状態に追い詰められても、そこには伊坂マジックがある! 皆に幸せあれ。(2016年9月)
#読書 #読書感想文 #伊坂幸太郎 #陽気なギャングは三つ数えろ #ノンノベル #祥伝社文庫 #陽気なギャング

毎日読書メモ(54)『チルドレン』(伊坂幸太郎)

毎日読書メモ(54)『チルドレン』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎『チルドレン』(講談社文庫)。

図書館で予約している『サブマリン』が届く前におさらい。陽気なギャングたちではない銀行強盗の現場で知り合った陣内と永瀬、家裁の調査官となった陣内の破天荒な仕事ぶり。振りかざすべき正義はない。自分の信じる道を進め、って、いつも伊坂幸太郎に言われているような気がする。(2016年9月)
#読書 #読書感想文 #伊坂幸太郎 #チルドレン #サブマリン #講談社

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毎日読書メモ(53)『旅する練習』(乗代雄介)

毎日読書メモ(53)『旅する練習』(乗代雄介)

前回の芥川賞で最有力次点(受賞作は宇佐見りん『推し、燃ゆ』で、同時受賞も検討された)で、その後、三島由紀夫賞を受賞した乗代雄介『旅する練習』(講談社)を読んだ。

(物語の展開に踏み込むので、先入観なしに読みたい方はご注意下さい)

語り手である僕(小説家)は、小学校の卒業を前にコロナ禍で登校停止になってしまった姪の亜美と、我孫子から鹿島まで歩いて旅する企画を立てる。小学校時代からサッカーで実力を

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毎日読書メモ(52)『富士日記』(武田百合子)

毎日読書メモ(52)『富士日記』(武田百合子)

この「毎日読書メモ」は、読書メーターに書きつけてあった感想文をひとまとめに救済しようと思って再掲している(それに、最近読了した本の感想も時々混ぜている)。読書メーターを使っていたのが2007年から2016年頃で、字数制限の中で書き尽くせない位感想を書いた本もあったが、最初の頃は、本当に読了メモとして使っていて、感想がきちんとまとめられていないことが今となっては勿体ない(まぁ2016年から最近までの

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毎日読書メモ(51)『双頭の船』(池澤夏樹)

毎日読書メモ(51)『双頭の船』(池澤夏樹)

池澤夏樹『双頭の船』(新潮文庫)。東日本大震災からの救済をモチーフにした、池澤夏樹のそれまでのイメージとはちょっと違った印象の大作だった。

青年が旅立ったときはただの小さいフェリーだった船は、震災の地で謎の拡張をとげていく。多くの人が、動物がゆきかい、船は人々を救済する大きなコミュニティになっていく。受容し、ゆるして、再生する人々。いとうせいこう『想像ラジオ』なども思い起こさせられる、ポスト大震

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毎日読書メモ(50)『職業としての小説家』(村上春樹)

毎日読書メモ(50)『職業としての小説家』(村上春樹)

村上主義者なのでもちろん単行本の時に読んだ村上春樹『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング、現在は新潮文庫)、自分の中の村上春樹史をたどるような読書。

しかし結局神宮球場には行ってないな、今後の課題だ。

何しろ人生の半分以上、ぴとーっと村上春樹にくっついて生きてきたので、改めて、1冊の本として、どのような気持ちで書いてきたかとか、自分の生きていく上での筋とか、まとめて書いてあっても、既

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毎日読書メモ(49)『パブロ・カザルス 鳥の歌』(ジュリアン・ロイド・ウェッバー)

毎日読書メモ(49)『パブロ・カザルス 鳥の歌』(ジュリアン・ロイド・ウェッバー)

ジュリアン・ロイド・ウェッバー編、池田香代子訳『パブロ・カザルス 鳥の歌』(筑摩書房、のちちくま文庫)。安野光雅の装丁が美しい。1987年にお茶の水につくられた音楽ホール、カザルスホールの自主公演チケットは、この安野光雅が描いたカザルスホールの絵が描かれた絵はがきが、チケットの半券になっていた。

ジュリアン・ロイド・ウェッバーはチェリストで、「オペラ座の怪人」等で有名な作曲家アンドリュー・ロイド

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