2021年7月の記事一覧
毎日読書メモ(61)『52ヘルツのクジラたち』についてもう少し考えてみる
昨日に続き、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)について考えてみる。
とりあえず、自分が書いた、『流浪の月』の感想を読み返してみた。精神的に健全とか不健全とか、線引きは難しいし、自分から見ておかしい、と思える人が、社会的には立派な人だと思われていることもある。そんな経験は誰にでもあるのではないかと思う。逆に、多くの人からヤバい人と思われている人が、誰かにとっての救いになる場合もあ
毎日読書メモ(60)『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)
ようやく、今年の本屋大賞受賞作、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)を読んだ。今読み終わったばかりなので、取り急ぎ、とりとめのない感想だけ。
重く、苦しい、人間関係の物語。
そして機能不全の家族の物語。家族は人間の生まれて最初に取り巻かれる人間関係の基本だが、ある意味機能不全でない家族なんてないのかもしれない。すべての構成員が、他の構成員に対して満足していて、幸せに暮らしている
毎日読書メモ(59)『私にふさわしいホテル』(柚木麻子)
柚木麻子、読んでいて、なんとなくもやっとすることも多いのだが(すかっとするオチを期待してしまうと)、女子の友情とか、それに類する人間関係を「あるあるっ!」という感じに描くのがすごく上手。昔の作品からゆるゆると付き合ってきて、どんどん上手になっていくのがわかる。
柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫)、表題作は先に『文芸あねもね』(新潮文庫)で読んでいたのだが、この作品で取り上げられた山の上
毎日読書メモ(57)『王とサーカス』『真実の10メートル手前』(米澤穂信)、ついでに『さよなら妖精』と『パンと野いちご: 戦下のセルビア、食物の記憶』(山崎佳代子)にも言及
米澤穂信『王とサーカス』、そして『真実の10メートル手前』(ともに東京創元社、その後創元推理文庫)の感想掘り起こし。『さよなら妖精』は更に昔に読んだけれど、山崎佳代子『パンと野いちご: 戦下のセルビア、食物の記憶』を読んだあとに再読して、胸にぐっと来た。ちなみに山崎佳代子さんは『さよなら妖精』の監修をされていたのを、再読時に知った。
『王とサーカス』:1991年の『さよなら妖精』から10年、新聞
毎日読書メモ(56)『尻尾と心臓』(伊井直行)
現代日本の小説家の中で大好きな作家の五指に入る伊井直行なんだが、何故か賛同者がなかなか見つからない。
初期作品『草のかんむり』、『さして重要でない一日』なども好きだったが、強く推したりしないまましばらく忘れていて、『濁った激流にかかる橋』が読売文学書を受賞し、新聞の書評で紹介されていたので読んでみたら、ぶっ飛ぶような衝撃を受けた(2000年頃)。それから、読んでいなかった本を立て続けに読んだらど
毎日読書メモ(51)『双頭の船』(池澤夏樹)
池澤夏樹『双頭の船』(新潮文庫)。東日本大震災からの救済をモチーフにした、池澤夏樹のそれまでのイメージとはちょっと違った印象の大作だった。
青年が旅立ったときはただの小さいフェリーだった船は、震災の地で謎の拡張をとげていく。多くの人が、動物がゆきかい、船は人々を救済する大きなコミュニティになっていく。受容し、ゆるして、再生する人々。いとうせいこう『想像ラジオ』なども思い起こさせられる、ポスト大震
毎日読書メモ(50)『職業としての小説家』(村上春樹)
村上主義者なのでもちろん単行本の時に読んだ村上春樹『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング、現在は新潮文庫)、自分の中の村上春樹史をたどるような読書。
しかし結局神宮球場には行ってないな、今後の課題だ。
何しろ人生の半分以上、ぴとーっと村上春樹にくっついて生きてきたので、改めて、1冊の本として、どのような気持ちで書いてきたかとか、自分の生きていく上での筋とか、まとめて書いてあっても、既
毎日読書メモ(49)『パブロ・カザルス 鳥の歌』(ジュリアン・ロイド・ウェッバー)
ジュリアン・ロイド・ウェッバー編、池田香代子訳『パブロ・カザルス 鳥の歌』(筑摩書房、のちちくま文庫)。安野光雅の装丁が美しい。1987年にお茶の水につくられた音楽ホール、カザルスホールの自主公演チケットは、この安野光雅が描いたカザルスホールの絵が描かれた絵はがきが、チケットの半券になっていた。
ジュリアン・ロイド・ウェッバーはチェリストで、「オペラ座の怪人」等で有名な作曲家アンドリュー・ロイド