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毎日読書メモ

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2021年6月の記事一覧

毎日読書メモ(31)『去年の雪』(江國香織)

毎日読書メモ(31)『去年の雪』(江國香織)

こぞの雪いまいずこ、というと中原中也。

この本の冒頭で引用されているのも中原中也と同根のヴィヨン「だけど、去年の雪はどこに行ったんだ?」

江國香織『去年の雪』(角川書店)は、めまぐるしく入れかわる登場人物たちの心象を重ねた先に、時代を超越した思念が見えてくる、不思議な物語たち。

登場人物は100人を超え、しかも現代ー1970年代ー江戸時代ー平安時代とめまぐるしく入れかわる。車に乗るときに鴟尾

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毎日読書メモ(30・やや番外編的):映画「ニューヨーク公共図書館」

毎日読書メモ(30・やや番外編的):映画「ニューヨーク公共図書館」

2019年に映画「ニューヨーク公共図書館」を見たときの記録。

わたしは映画って年に1本位しか見ないんですが、突然、矢も楯もたまらなくなって、「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を見てきました。上映時間3時間半。仕事終わって駆け足で岩波ホール行って、映画終わったらもう22時でした。
ドキュメンタリー映画で、ニューヨーク公共図書館の、様々な機能とか、館内での講演会の様子とか、幹部の会議の様子

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毎日読書メモ(29)『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』(川端裕人)

毎日読書メモ(29)『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』(川端裕人)

学術と文芸の狭間に立つ作家川端裕人さんが書いた『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』(筑摩書房)を読んだ。

たまたま、身内で色覚障害を持つ人がいなかったため、今まで深く考えることなく暮らしてきたが、色覚に障がいのある人も一定数いるし、本人は障がいがなくても、遺伝子に入っていて、自分が生んだ子どもが障がいを持つ可能性のある人も一定数いる。その人たちの苦しみについて考えさせ

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毎日読書メモ(28)『オリンピックの身代金』(奥田英朗)

毎日読書メモ(28)『オリンピックの身代金』(奥田英朗)

奥田英朗『オリンピックの身代金』(上下・講談社文庫)

上巻:読書会をやることになって読んだ。面白かった。東大で経済学を学ぶ島崎国男が、建設現場で働いていた兄の事故死をきっかけに変わる。オリンピック開催間近の昭和39年夏の東京。この小説の主人公は島崎ではなく、昭和39年という時代そのものだと思った。突貫工事で作られる競技場、モノレール、開通したての新幹線。輝かしい都市開発の裏で激しい貧富の差、生活

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毎日読書メモ(27)『草木鳥鳥文様』(梨木香歩・ユカワアツコ・長島有里枝)

毎日読書メモ(27)『草木鳥鳥文様』(梨木香歩・ユカワアツコ・長島有里枝)

くさきとりどりもんよう、と読みます。

梨木香歩の本は気づいたら読むようにしているのだが、これは文章を梨木さんが書き、ユカワアツコさんが引き出しの底に描いた鳥と植物の絵を、長島有里枝さんが撮影した、うつくしい本。

梨木香歩・文 ユカワアツコ・絵 長島有里枝・写真『草木鳥鳥文様』(福音館書店)

知らなかった鳥の名前や、木々や草花の名前を学び、絵が描かれた引き出しが置かれた場の美しいたたずまいを愉

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毎日読書メモ(26)『火星に住むつもりかい?』(伊坂幸太郎)

毎日読書メモ(26)『火星に住むつもりかい?』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎は、いつ読んでもはらはらして、でも最後で必ず落としどころがあって、じわっと泣いて終わる。カタルシス小説。カタルシスへの道のりがちょっと性急で疲れることがあるけれど。引っ張りすぎ...では?

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』(光文社、現在は光文社文庫)。

図書館半年待ちだったのに、大変暗い話で、なかなか読み進められないうちに年を越してしまった。平和警察が密告と冤罪で犯罪者をでっちあ

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毎日読書メモ(25)『狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ』(梯久美子)

毎日読書メモ(25)『狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ』(梯久美子)

梯久美子『狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社、現在新潮文庫)の感想。日記に残っていた読書メモの再掲なので、感想として中途半端だが、大変な充実感であった。

先に島尾敏雄『死の棘(新潮文庫)を読了するのにかなりの体力がいったよ。

...帰宅して、今日中に図書館に返却しなくてはならない梯久美子『狂うひと』をひたすら読む。島尾敏雄『死の棘』に描かれた夫婦、そして愛人の姿はどこまでがリアル

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毎日読書メモ(24)『開かせていただき光栄です』(皆川博子)

毎日読書メモ(24)『開かせていただき光栄です』(皆川博子)

皆川博子『開かせていただき光栄です』(ハヤカワ文庫JA)、時代感が日本人にはわかりにくいのでは、と思ったがなんのなんの。一気読みの興奮本でした。続編『アルモニカ・ディアボリカ』(ハヤカワ ミステリ・ワールド)も是非。

時代小説家だと思っていた皆川博子が、もっとぶっ飛んだ人だという噂はかねがね聞いていて、読もうと思って何年も寝かせてしまったこの本を読んでみたら、本当にぶっ飛んだ! 1770年ロンド

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毎日読書メモ(23)『東京スリバチ地形入門』(皆川典久、東京スリバチ学会)

毎日読書メモ(23)『東京スリバチ地形入門』(皆川典久、東京スリバチ学会)

ブラタモリ的な、東京再発見の書。意識して街を歩くと、とても楽しい。

皆川典久、東京スリバチ学会『東京スリバチ地形入門』(イースト新書)

東京の各地に散らばる、スリバチのような地形。両側に急坂のある谷のような三級スリバチ、水源を囲んで一方だけ流路のところが開いている二級スリバチ、そして、完全に周囲を高台で囲まれた一級スリバチ! それぞれのスリバチに成立の経緯があり、地学的に文化人類学的に考察する

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毎日読書メモ(22)『花森安治伝: 日本の暮しをかえた男』(津野梅太郎)

毎日読書メモ(22)『花森安治伝: 日本の暮しをかえた男』(津野梅太郎)

津野梅太郎『花森安治伝: 日本の暮しをかえた男』(新潮文庫)、ちょうど朝ドラ「とと姉ちゃん」を放映していた時期に読んだのだが、もう絶版なのか! Amazonのリンクの価格を見て驚く。

読んだ当時の感想はこちら。

とと姉ちゃん便乗で文庫化されたのかな? わたしは純粋に花森安治という人が気になって手に取りました。学生時代、そこから緩くつながる就職→従軍の時代の描写が長く、浪人してでも全国どこかの旧

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毎日読書メモ(21)『その姿の消し方』(堀江敏幸)

毎日読書メモ(21)『その姿の消し方』(堀江敏幸)

堀江敏幸『その姿の消し方』(新潮社、現在は新潮文庫)。

堀江敏幸の本を読むのは本当に愉しい。幸せです。

骨董市でめぐりあう、古い絵はがき、そこに書き付けられた詩。フランス語の詩を平仄あわせて日本語に訳す作者。 美しい装丁の本からフランスの田舎町の市場の様子、人々の呼吸を感じ、同じ人の書いた絵はがきを数十年のスパンで1枚また1枚と発見し、背後の物語を探る。その過程で出会ったいとしい人々。 フラン

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毎日読書メモ(20)『ハケンアニメ!』(辻村深月)

毎日読書メモ(20)『ハケンアニメ!』(辻村深月)

辻村深月『ハケンアニメ!』(マガジンハウス、現在はマガジンハウス文庫)

面白かった! 出版社がマガジンハウスなので初出は?、と確認したら「an・an」ではないか! 「an・an」読者はこんな物語読むのかな? オタク愛を客観的に語る小説。そのクールの覇権を争うアニメ「リデル」と「カナデ」、それぞれの制作者たちの熱情、思い。相手を落とすのではなく、自分たちの創るものをより高く高く持ち上げようとしてい

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毎日読書メモ(19)『わたしの神様』(小島慶子)

毎日読書メモ(19)『わたしの神様』(小島慶子)

小島慶子『わたしの神様』(幻冬舎、現在は幻冬舎文庫)、本人の経験に基づいて書いたのだろうと思うが、すさまじき世界。

一気読み。美しさに才気と打算をミックスして生き残る女子アナたち、どんな神様に愛されて、どういうライフステージを上がっていくのが勝利なのか。主人公仁和まなみのやなやつぶりに、読者みんなに不幸になれ不幸になれ、と念じさせようと書いているのがわかる。そして、まなみ、アリサ、望美、それぞれ

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毎日読書メモ(18)『外道クライマー』(宮城公博)

毎日読書メモ(18)『外道クライマー』(宮城公博)

沢登りを趣味とする友達から借りました。すげーぞ、なめたろう@セクシー登山部。那智の滝を登ろうとして逮捕され、極寒の冬の沢を裸で渡る。1年のうち、10月中旬の10日程度しか通過出来ない、立山の称名廊下を進む。タイの山奥、人跡未踏の「黒部」を攻める。仕事をクビにになっても、最低限の栄養でがりがりに痩せてよれよれになっても、より奥に、より高いところに。誰も行ったことのない場所へ。近寄ったら悶絶するような

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