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日記

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#夏

ひぐらしの鳴く頃に

ひぐらしの鳴く頃に

 サイレントサイレンの八月の夜が耳から抜けない。世代でもないけれどなんとなく聴きたくなって、それから抜けない。模造品のきらきらがあっけなく砕け散るようなキュートな歌だ。夜というよりも、1週間、という感じのする歌だ。それから、わたしはカニよりエビが好きだ。

 「ひぐらしのなく頃に」を解まで見た。感想を書きたいけれど、そもそも過剰にグロかったりエロかったりが苦手なわたしとしては辛かった、グロさの意味

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蜃気楼の牛

蜃気楼の牛

 蜃気楼の牛、を読んだ。文藝界の9月号に載っている、川上弘美さんの短編小説だ。
 こういう話が、すごく好きだ。紙粘土のような、やさしい白のなか、ずっと続くようで、けれど汽車に乗っているような、生々しいのに遠さのあるような、手紙という手段がいいのか、子供の存在がいいのか、それらの配置がとてもいいのか、空間が澄んでいて、ひどく好きだ。わたしが書けばだらだら話してしまうところを、厚みのある言葉をひとつ置

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蝉時雨をほどきつつ

蝉時雨をほどきつつ

 いつまでも、身をほどかないわたしたちを、水が見つめている。
川の果ては海か土で、私のみているところからは果ては見えないからきっと海だ。手で掬えばこぼれおちてしまうその動きの中にどれほど生命らしさがあるだろう。水のほどける様が目を揺らす。

 昼の月はひどくかすれて、寝起きの体温みたいだった。ぬくくて、すこしずれている。骨がじんとして、黄金の森を掌でかきわけるような呼吸、そののちカーテンをひらいて

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金魚の足跡

金魚の足跡

 袖の中途半端な、やわらかな布をきて、彼女はわらっている。犬がその横でうんとのびている。のびると、犬は皮膚になって、おもさがそこにいる。わたしがシャッターをきれば、それがまるごと吸い込まれるようでいてそれは違って、別離が生まれるだけで、だからこそいい。熱がべったりと喉を濡らす。喉に生えた毛のことを想う、それをゆっくりさするみたいにして、声をあげた。

 昼寝から起きると、窓の外はぎんぎらに照らされ

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バス、流れるすべて

バス、流れるすべて

 バスの中は音声が溢れていて苦しい。イヤホンを忘れると外にいる柴犬をかぞえることしかできない。あかるいうちに帰ることができてよかった、と思う。街路樹の先端のほうにひかりが密集してわさわさ揺れている。雨雲がなにかしらの広告看板のむこうに見える。バスが発車する。ひかりの中へ進む。サンダルのかかとの部分が痛む。サンダルにあるクッションはクッションの持つ響きより小さい。あ、愉快な音がながれる。だれかの着信

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どん兵衛の美味しさだけを何度も忘れたい

どん兵衛の美味しさだけを何度も忘れたい

 雷が鳴っている。雷をこわがることがあざといみたいな風潮があるけれど、けっこう犬寄りの感覚で本当に怖い。犬より涼しい顔をしているけれど、内心書き順を間違えたスヌーピーみたいな顔でうずくまっている。たぶん、みんなそう。だって怖い。あんなにびかっと光って、それが時間差で爆音と共に落ちてくる。そう言いつつ、今どん兵衛を食べていますけれど。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるって諺あるけれど、熱さをかんじるため

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祈り、その窓をぶら下げて歩く

祈り、その窓をぶら下げて歩く

祈りの美しさってわからない。
祈りの美しくしようという姿勢はわかる。
他人にゆだねることの快楽、なんて意地の悪い言い方をして自分の中の自分が嫌な顔をしている。祈るとき、願いを委ねるとき、あなたは素直な顔をしている。
たとえば、初詣。手を合わせながら、目を閉じてからも、目を閉じる前の世界にわたしがいることにいつも媚びてしまう。
かわいくない自分がいて、それをかわいくないと判断する、なにかおおきなもの

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