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恋文

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いつか思いが届きますように
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#文学フリマ

記憶の海を泳ぐ①9月の再開

記憶の海を泳ぐ①9月の再開

突然の不意打ちに、僕は意識を失いそうになった。

「大丈夫かよ、お前。そういや大恋愛だったもんな。」
宮本は8年ぶりに会ったボクを見て、心配そうに微笑んだ。
「お前あれから引っ越して転職しちゃったし、全然連絡もよこさないからさ。お前の方が死んじゃったんじゃないのって、時々冗談いったりしてさ。」
相変わらず屈託のない笑顔だった。爽やかな笑顔というのは年を取らないようだ。

「で、本当なのか。それって

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記憶の海を泳ぐ②紡ぐ糸

記憶の海を泳ぐ②紡ぐ糸

微かな記憶を思い起こす。そうだ、コンビニ。和美の家はコンビニの駐車場の近くだった。ボクはスマホの地図アプリを立ち上げて、市内のコンビニを探した。記憶とすり合わせて、それらしい数件を当たってみることにした。駐車場にバイクを止めて周囲を歩き回る。申し訳程度に店で缶コーヒーや水を買ってみたが、3件目にはもう買う物がなくなった。

家並みも街並みもすっかり変わっている。ふと目が合った店のガラスに映ったのは

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記憶の海を泳ぐ③過去からの手紙

記憶の海を泳ぐ③過去からの手紙

聡さん

普段は聡だったけど、手紙だから聡さんにします。
なんかかしこまっておかしいね。

聡、元気にしてる?
落ち込んでない?。さっさと立ち直ってくれたらいいのに。私は元気だよ。すっかり痩せちゃって、髪も抜けちゃって、お肌もボロボロで、もうおばあちゃんみたい。だから聡には会いたいけど、私のこと見て欲しくないかな。

宮本君がね、こないだ面会に来てくれたんだ。亜紀も一緒だった。スゴく幸せそうで、私

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春風に揺れる

春風に揺れる

遠くにありて 近くに想い
季節過ぎたは 幾度目か

別れの言葉 言えずの言葉
心ざわめく 春の風

情も無情も 無常の中に
恋も想いも 同じ事

抜け殻抱え 起き出せよ
啓蟄の日に 空を見上げた

【現代語訳】
離れて遠くに行ってしまった貴方のことを
今でも時々、すぐ隣にいるように思ったりもします
そんな風にして僕は何年の年月を過ごしてきたことでしょう。

別れの際に言われた言葉、僕の言葉、そして

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君が眠りにつくまで

君が眠りにつくまで

悲しいのだって 辛いのだって
言わなくたって すぐ分かる
ココロはどこで 泣いてるの?
悲しさ溢れた 二人の夜に

きっと僕等は 歪なままで
キミには好きな ヒトがいて
ボクとキミとは 惹かれてる

物足りないのだって 好きなのだって 
仕方ないよね 切ないだけで
こうしてボクは 隣にいるから
うつむく横顔 見つめるだけで

大切なのは 自分だから
動かないでって 怒るから
泣きそうな目で 僕を見

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つたえる

つたえる

言葉でヒトは 救えない 
閉ざしたココロに 届かない

言葉でお腹は 膨れない
飢えたココロは 満たされない

言葉でヒトは ひどく傷つく
脆いココロが ひび割れる

言葉でヒトは 優しくできる
痛んだココロが 癒やされる

言葉はココロを 伝えてくれる
伝わるように と考える

考え、言葉は カタチを変える
優しく愛しく ヒトに寄り添う 

春は桜の木の下で

春は桜の木の下で

春は桜の 樹の下で   
甘く切ない 恋の囁き

薄雲かかる 三日月に  
背中押されて 心が騒ぐ

僕には何が できただろうか 
桃色花びら 舞い散る中に

君の横顔 見つめるだけで 
言葉にならない 心が騒ぐ

君は突然 振り向いて   
恥ずかしそうに うつむいた

胸の鼓動は 静まりもせず 
僕には何が できただろうか

ああ、そうだね 
桜の花が、綺麗だね

僕は時々幸せな夢を見る

僕は時々幸せな夢を見る

微睡の中 目覚めるは
夜明けの声か 風の囁き

隣で眠る 横顔は 
陽差しの中で 静かに輝く

その指も肩も 愛おしく
そっと触れる手 微かに震えた

今このひと時が これから先も
ずっと永遠で ありますように 

そう願わずにはいられなかった

(イラスト ふうちゃんさん)

僕は静寂の中で一人想う

僕は静寂の中で一人想う

夕に響くは 鐘の音
低く遠くと 静かさを増す

思い出すのは 遠き空
優しく深く 心を癒やす

闇に紛れて 想いが馳せる
愛し恋しと 心が騒ぐ

小峰の先の 遥か彼方に
面影探す 切なき想いは

行き先なくし 舞い落ちる
恋焦がれては 焼け落ちる

切ない想いは 誰のせい
届かぬ想いは 誰のせい

記憶の中で 抱きしめた
一人漂う 夜の憂鬱

冴えた月に僕は一人思う

冴えた月に僕は一人思う

心に思えど 言葉にできない
秘め事となり いつしか闇へと消えていく

口にすれば 壊れてしまう
怯えた僕は 立ちすくむ

遠くで見つめ 胸が高鳴る 
近くで戸惑い 笑顔は窮屈 

切なき思いは 何処へ向かう 
届かぬ思いは 闇に溶けだす

見上げた先に 冴えた月 
思いをそっと 静めて欲しい