【新書が好き】犬は「びよ」と鳴いていた
1.前書き
「学び」とは、あくなき探究のプロセスです。
単なる知識の習得でなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」こそ、本質なのだと考えられます。
そこで、2024年6月から100日間連続で、生きた知識の学びについて考えるために、古い知識観(知識のドネルケバブ・モデル)を脱却し、自ら学ぶ力を呼び起こすために、新書を学びの玄関ホールと位置づけて、活用してみたいと思います。
2.新書はこんな本です
新書とは、新書判の本のことであり、縦約17cm・横約11cmです。
大きさに、厳密な決まりはなくて、新書のレーベル毎に、サイズが少し違っています。
なお、広い意味でとらえると、
「新書判の本はすべて新書」
なのですが、一般的に、
「新書」
という場合は、教養書や実用書を含めたノンフィクションのものを指しており、 新書判の小説は、
「ノベルズ」
と呼んで区別されていますので、今回は、ノンフィクションの新書を対象にしています。
また、新書は、専門書に比べて、入門的な内容だということです。
そのため、ある分野について学びたいときに、
「ネット記事の次に読む」
くらいのポジションとして、うってつけな本です。
3.新書を活用するメリット
「何を使って学びを始めるか」という部分から自分で考え、学びを組み立てないといけない場面が出てきた場合、自分で学ぶ力を身につける上で、新書は、手がかりの1つになります。
現代であれば、多くの人は、取り合えず、SNSを含めたインターネットで、軽く検索してみることでしょう。
よほどマイナーな内容でない限り、ニュースやブログの記事など、何かしらの情報は手に入るはずです。
その情報が質・量共に、十分なのであれば、そこでストップしても、特に、問題はありません。
しかし、もしそれらの情報では、物足りない場合、次のステージとして、新書を手がかりにするのは、理にかなっています。
内容が難しすぎず、その上で、一定の纏まった知識を得られるからです。
ネット記事が、あるトピックや分野への
「扉」
だとすると、新書は、
「玄関ホール」
に当たります。
建物の中の雰囲気を、ざっとつかむことができるイメージです。
つまり、そのトピックや分野では、
どんな内容を扱っているのか?
どんなことが課題になっているのか?
という基本知識を、大まかに把握することができます。
新書で土台固めをしたら、更なるレベルアップを目指して、専門書や論文を読む等して、建物の奥や上の階に進んでみてください。
4.何かを学ぶときには新書から入らないとダメなのか
結論をいうと、新書じゃなくても問題ありません。
むしろ、新書だけに拘るのは、選択肢や視野を狭め、かえってマイナスになる可能性があります。
新書は、前述の通り、
「学びの玄関ホール」
として、心強い味方になってくれます、万能ではありません。
例えば、様々な出版社が新書のレーベルを持っており、毎月のように、バラエティ豊かなラインナップが出ていますが、それでも、
「自分が学びたい内容をちょうどよく扱った新書がない」
という場合が殆どだと思われます。
そのため、新書は、あくまでも、
「入門的な学習材料」
の1つであり、ほかのアイテムとの組み合わせが必要です。
他のアイテムの例としては、新書ではない本の中にも、初学者向けに、優しい説明で書かれたものがあります。
マンガでも構いません。
5.新書選びで大切なこと
読書というのは、本を選ぶところから始まっています。
新書についても同様です。
これは重要なので、強調しておきます。
もちろん、使える時間が限られている以上、全ての本をチェックするわけにはいきませんが、それでも、最低限、次の2つの点をクリアする本を選んでみて下さい。
①興味を持てること
②内容がわかること
6.温故知新の考え方が学びに深みを与えてくれる
「温故知新」の意味を、広辞苑で改めて調べてみると、次のように書かれています。
「昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得ること」
「温故知新」は、もともとは、孔子の言葉であり、
「過去の歴史をしっかりと勉強して、物事の本質を知ることができるようになれば、師としてやっていける人物になる」
という意味で、孔子は、この言葉を使ったようです。
但し、ここでの「温故知新」は、そんなに大袈裟なものではなくて、
「自分が昔読んだ本や書いた文章をもう一回読み直すと、新しい発見がありますよ。」
というぐらいの意味で、この言葉を使いたいと思います。
人間は、どんどん成長や変化をしていますから、時間が経つと、同じものに対してでも、以前とは、違う見方や、印象を抱くことがあるのです。
また、過去の本やnote(またはノート)を読み返すことを習慣化しておくことで、新しい「アイデア」や「気づき」が生まれることが、すごく多いんですね。
過去に考えていたこと(過去の情報)と、今考えていること(今の情報)が結びついて、化学反応を起こし、新たな発想が湧きあがってくる。
そんな感じになるのです。
昔読んだ本や書いた文章が、本棚や机の中で眠っているのは、とてももったいないことだと思います。
みなさんも、ぜひ「温故知新」を実践されてみてはいかがでしょうか。
7.小説を読むことと新書などの啓蒙書を読むことには違いはあるのか
以下に、示唆的な言葉を、2つ引用してみます。
◆「クールヘッドとウォームハート」
マクロ経済学の理論と実践、および各国政府の経済政策を根本的に変え、最も影響力のある経済学者の1人であったケインズを育てた英国ケンブリッジ大学の経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉です。
彼は、こう言っていたそうです。
「ケンブリッジが、世界に送り出す人物は、冷静な頭脳(Cool Head)と温かい心(Warm Heart)をもって、自分の周りの社会的苦悩に立ち向かうために、その全力の少なくとも一部を喜んで捧げよう」
クールヘッドが「知性・知識」に、ウォームハートが「情緒」に相当すると考えられ、また、新書も小説も、どちらも大切なものですが、新書は、主に前者に、小説は、主に後者に作用するように推定できます。
◆「焦ってはならない。情が育まれれば、意は生まれ、知は集まる」
執行草舟氏著作の「生くる」という本にある言葉です。
「生くる」執行草舟(著)
まず、情緒を育てることが大切で、それを基礎として、意志や知性が育つ、ということを言っており、おそらく、その通りではないかと考えます。
以上のことから、例えば、読書が、新書に偏ってしまうと、情緒面の育成が不足するかもしれないと推定でき、クールヘッドは、磨かれるかもしれないけども、ウォームハートが、疎かになってしまうのではないかと考えられます。
もちろん、ウォームハート(情緒)の育成は、当然、読書だけの問題ではなく、各種の人間関係によって大きな影響を受けるのも事実だと思われます。
しかし、年齢に左右されずに、情緒を養うためにも、ぜひとも文芸作品(小説、詩歌や随筆等の名作)を、たっぷり味わって欲しいなって思います。
これらは、様々に心を揺さぶるという感情体験を通じて、豊かな情緒を、何時からでも育む糧になるのではないかと考えられると共に、文学の必要性を強調したロングセラーの新書である桑原武夫氏著作の「文学入門」には、
「文学入門」(岩波新書)桑原武夫(著)
「文学以上に人生に必要なものはない」
と主張し、何故そう言えるのか、第1章で、その根拠がいくつか述べられておりますので、興味が有れば確認してみて下さい。
また、巻末に「名作50選」のリストも有って、参考になるのではないかと考えます。
8.【乱読No.68】「犬は「びよ」と鳴いていた 日本語は擬音語・擬態語が面白い」(光文社新書)山口仲美(著)
[ 内容 ]
「私が一番最初にひっかかったのは、平安時代の『大鏡』に出てくる犬の声です。「ひよ」って書いてある。頭注にも、「犬の声か」と記してあるだけなのです。私たちは、犬の声は「わん」だとばかり思っていますから、「ひよ」と書かれていてもにわかには信じられない。雛じゃあるまいし、「ひよ」なんて犬が鳴くかって思う。でも、気になる。これが、私が擬音語・擬態語に興味をもったきっかけでした。」―英語の三倍・一二〇〇種類にも及ぶという日本語の「名脇役」擬音語・擬態語の歴史と謎を、研究の第一人者が興味深く解き明かす。
[ 目次 ]
第1部 擬音語・擬態語の不思議(擬音語・擬態語に魅せられる 擬音語・擬態語のかたち 擬音語・擬態語の寿命 擬音語・擬態語の変化 ほか)
第2部 動物の声の不思議(昔の犬は何と鳴く ニャンとせう―猫 チウき殺してやらう―鼠 モウモウぎうの音も出ませぬ―牛 ほか)
[ 発見(気づき) ]
擬音語というのは、「ほうほけきょー」「がたがた」などの物音や声を写しとった言葉。
擬態語は、「べったり」「きらきら」などの様子や状態を写しとったもの。
三島由紀夫は、擬音語・擬態語が大嫌いで、品のない言葉だといって自分の作品の中では使わなかったとのこと。
昔、犬は「びよ」と鳴いていたそうだ。
本当だろうか?
何故なんだろうと読み進めたくなる。
言葉のルーツをたどること、本書には推理小説の犯人探しにも似た面白さがある。
江戸時代まで日本人は犬の声を、「びよ」と聞いていたという。
平安時代の『大鏡』には犬の声は「ひよ」と書いてある。
「大鏡」(角川ソフィア文庫)武田友宏 (編著)
昔は濁音と清音をきちんと区別して表記しないから。
当時の実際の発音を再現するとしたら、「びよ」になる。
江戸時代も中頃をすぎると、「わん」が、犬のごく普通の吠え声として使われている。
「わん」の勢力が次第に圧倒的になり、「びよ」の声は方言としてのみ残った。
犬の吠え声が、「びよ」から、なぜ「わん」に変わったのか。
著者は、言葉の推移は、犬自体の吠え声の変化を写し出していると推測する。
「びよ」と写すよりも、「わん」と写すほうが適切と思えるような変化が、犬の鳴き声そのものの方に起こったのだ。
環境の変化による犬の鳴き声自体の方に、質的変化があった。
たとえば、江戸時代以前では、野犬が横行し、人間の死肉を食べたりしている。
総じて江戸時代以後の落ち着いた環境で飼われる犬のよりも、野性味をおびていた。
そうした時の犬の声は、闘争的で濁ってドスの効いた吠え声であったと想像される。
「わん」と写すより、「びよ」と濁音で写すのがより適切と思われるような声であったと。
[ 問題提起 ]
イヌが「わんわん」、ネコが「ニャーニャー」鳴く、擬音語。
「バリバリの営業マン」「電子レンジでチンしておいて」という具合で使う擬態語。
この本によると、英語では350種類しかないのに、日本語には1200以上あるとか、5倍も多いなどの調査結果が紹介されている。
著者の調べによると、約半数は900年以上も永続する古い言葉であり、単なる流行語というわけではないらしい。
この本の著者は、日本語における擬音語、擬態語の第一人者。
辞書も出版している。
・暮らしのことば擬音・擬態語辞典
時代によって、擬音語、擬態語の表現は変る例もあるそうで、江戸時代のイヌの鳴き声は「びよびよ」だったという例が、タイトルにもなっている。
古い文献をたどりながら、多数の実例を挙げて、擬音語、擬態語がどう発生し、変化し、消滅して行くかの考察が重ねられる。
現代の用法や流行ももちろん、解説されており、チン、ピンポン、ブーなど現代では電子音の擬態語が多いことなど、なるほど、と感心する。
著者のサイトには多数の論文が公開されており、特に以下の文章は、この本のリードとしてぴったりだ。
上記のコラムを読んでさらに知りたいと思う人にこの本、絶対におすすめである。
雑誌から集めた擬音語、擬態語のパターン分析などは特に興味深く、これから流行る言葉を作ろうとするマーケターにも参考になる情報が多く書かれている。
擬態語で不思議に思っていたのが「ギャフン」である。
「ギャフンと言わせてやる」という表現は普通に使うが、実際に負けて「ギャフン」と言う人などいないわけで、どういうことなんだろうと思っていた。
私だけではなかったようだ。
なるほど調べてみるものである。
日常生活の中にも新しい擬態語、擬音語は頻出する。
・マターリ(2ちゃんねる?)
・するっとお見通しだ(ドラマ TRICK)
・ざわわざわわ(森山良子楽曲:「さとうきび畑」)
・そうそう(夏川りみ楽曲:涙そうそう)
・感動して眼の幅涙ダー(友人の言、分かる気がするが...)
IT業界の職場でも独特の擬態語をよく使う。
ざっと身の回りで使う例を思い出してみるだけでも、
「3Dでグリグリ動くやつを作ってくださいよ」(デザイナー)
「ゴリゴリ、プログラムのコードをゼロから書くのが好きで」(プログラマ)
「来週の原稿ですが、ここでサクっと書いちゃってもらえませんか?」(編集者)
など、日常的な言葉である。
業界が違う人に前後の言葉を省略してしまうと、きっと伝わらないだろうが、逆に同じ業界内部では、この方が意味が活き活きと伝わるから不思議である。
(Web)マーケティングの世界でもこの種の表現は、有効なはずだ。
検証してみる。
検索エンジンは、言葉の検索結果画面に広告枠を販売している。
キーワードが広告枠なわけだ。
Webマーケターも、擬音語、擬態語を意識している証拠だ。
例えば、焼肉屋の「ジュージュー」のように、擬音語、擬態語には、シズル感の演出効果があると思う。
トラフィックを呼び込むキーワードとして、意外にまだ活用例の少ない盲点だったりするかもしれない。
キーワード広告こそひとつも出ていないけれど、「ビンビン」などすごく男らしい。
検索結果が出てくる。
この種の商品には「ビンビン」は売れるキーワード広告枠かもしれない。
Googleのキーワード広告販売サイトでは、各キーワードの金銭的価値が調べられる。
キーワードの人気に応じて入札が行われるので、広告的価値の高いキーワード、つまり、儲かるキーワードほど、高い数字になるはずだ。
擬音語、擬態語にも、商業価値の高低の差はだいぶ、あるみたいだ。
あまり検索されない言葉であれば、その代わり、広告枠は安く買うことができる。
ある種の商品を売るのであれば、もしかすると少数だが商品購入率の高い特定の層をサイトへ呼び込める有効なキーワードだったりするかもしれない。
でも、まだ有効性は良く分からない。
Webにおける擬態語、擬音語の研究はこれからの分野だろう。
[ 教訓 ]
能舞台で演じられる狂言という中世以来の伝統演劇は、能と同様、舞台装置や小道具をほとんど使わない。
役者の言葉や身振りですべてが表現される。
川だと言えば川のほとりであり、都に着いたと言えば、何百キロ離れていようと一瞬にしてそこは都のただ中である。
音も役者の声で伝えられる。
演目のひとつに「鐘の音」がある。
太郎冠者が鎌倉の寺々をたずね釣鐘の音を聞いてまわる。
主人にかね金の値を聞いてこいと言いつかったのを、鐘の音と聞き違えたことから起こる失敗なのだが、鎌倉に着いた太郎冠者は、五大堂、寿福寺、極楽寺をおとずれるが、それぞれグヮンという破れ鐘の音であったり、チーン、コーンという音色で満足できない。
建長寺にいたって、やっと思いどおりの鐘の音を聴くことができる。
その音を、ジャーン、モーンモーンモーン・・・と、ゆったりと深みのある力強い大鐘の響きとして、余韻まで感じさせるように息長く聞かせる。
役者が自分の声で釣鐘の音色をつくるのである。
「神鳴」という曲は、はやらなくなった都のヤブ医者が、東国でなら商売もなんとかなるだろうと旅をしている。
すると雷がヒッカリヒッカリ、グヮラリグヮラリと、稲光と雷鳴をとどろかせながら威勢よく舞台中央に走り出てきたかと思うと、グヮラグヮラ、ドーと言いながら医者の目の前に落ちる。
医者に針治療をさせるが、雷の腰に大きな針をたてるとき、医者は木槌でグヮッシ、グヮッシと言いながら打ち込む。
「棒縛」や「樋の酒」、「伯母ケ酒」などでは、酒を飲みたい一心で、重い酒蔵の戸をグヮラグヮラグヮラグヮラと開ける。
たっぷり酒をつぐときはドブドブドブ・・・
声に出して言うだけでなく、身振りがともなうから分かりやすい。
鳥や動物の鳴き声を聞くこともできる。
「止動方角」にはウマがでてくる。
茶色の縫いぐるみを着て面をつけ四つんばいで、ヒヒーンヒヒーンといななく。
狂言にはウシも登場するが、モーとなく。
「柿山伏」では、人間がとりの鳴き声を聞かせる。
山伏が空腹にたえかね、柿の木にのぼって柿を盗み食いするところを見つかってしまう。柿の木の持ち主はからかい半分に、人間ではなくカラスだ、サルだ、トビだろうといって、鳴かなければ殺すと言っておどす。
山伏はつぎつぎに、カラスはコカコカコカコカ、サルはキャーキャーキャーキャー、トビはヒーヨロヨロヨロヨロと鳴き声をまねて難を逃れようとする。
釣鐘の音、雷鳴や稲妻、戸の開け閉て、動物の鳴き声などを音声で表現する語を、擬声語という。
キラキラ、ピカピカ、ハッキリ、シッカリなど物事の状態や様子を、それを示すのにふさわしい音で表わした語を擬態語ということもあるが、これもふくめて、戸のガラガラ、雨のザーザー、サルのキャーキャーなどともに、擬声語、オノマトペと言われている。
この擬声語は日本語のひとつの特色である。
ある調査によると、日本語では英語の3倍、別の調査では5倍にももなるという。
狂言という演劇は、この豊かな擬声語にささえられて成り立っているともいえる。
それにしても、600年以上も前に誕生した狂言の擬声語は、現代人の耳にもそれほど違和感はないだろう。
カラスのコカコカも、サルのキャーキャーもカ行音で発音されるし、トビは今はピーヒョロだが、よく似ている。
[ 結論 ]
さて、イヌはどうだろう。
狂言「犬山伏」の山伏は神主と争いを起こし、イヌがなついた方を勝ちにするというので懸命に祈るが、神主にはなつくのに山伏はビョービョーとほえたてられて負けてしまう。狂言のイヌはワンワンではなく、ビョービョーと鳴くのである。
これはなぜか。
著者は、このころイヌはほとんどが放し飼いで野犬の状態だった、
「犬の声は闘争的でにごってドスの効いた吠え声であったと想像されます。「わん」と写すより、「びよ」「びょう」と濁音で写すのがより適切と思われるような声であったのではないでしょうか」と推測している。
イヌがワンワンと鳴くのは、江戸時代になって、落ち着いた環境でイヌが飼われるようになってからのことらしい。
イヌは狂言の舞台でだけ、今も荒々しくビョービョーと鳴くのである。
また、北風ピープー吹いている♪って、私は、北風が「ピープー」って吹いているのを聞いた経験が無い。
松虫が「チンチロリン」って泣くのも聞いたことが無い。
私の住んでいるところは、田んぼも畑も木々もあるので、カエルとかセミとかコオロギとか鳥とかの鳴き声は、その季節になればけっこう聞ける。
でも、カエルが「ゲロゲーロ」って鳴くの一度も聞いたこともない。
青空球児が、そう鳴くのを聞いたことはある。
ミンミン蝉も「ミーン、ミーン」って鳴かないし、頭の中では聞こえてるのであるが、「ミーン、ミーン」じゃない。
ヒグラシ蝉は「オーシーツクツク、オーシーツクツク、オシーオー、オシーオー」って、明らかに幻聴である!
某角田忠信氏の学説によれば、虫の鳴き声は言葉化出来る筈なのだが、私の日本語は不完全なのだろうか?
虫の話しを、もう少しすれば何も虫の話しは日本の専売特許じゃない。
ハワード・エヴァンズ著『虫の惑星』によれば、
「虫の惑星 知られざる昆虫の世界」(ハヤカワ・ノンフィクション)ハワード エヴァンズ(著)日高敏隆(訳)
「たしかにこの本ほど読ませる“昆虫本”は、それ以前は意外に少なかった。
昆虫に関する本は数かぎりなくあるものの、ほんとうに読ませる本は劈頭を飾ったファーブルの『昆虫記』やメーテルリンクの『蜜蜂の生活』『蟻の生活』などを嚆矢としても、そんなに多くない。
(中略)
いまでもおぼえているのは、第5章の「詩人コオロギと拳闘家コオロギ」や第6章の「魔術師ホタル」という章である。
コオロギが“両手きき”ではなく、ヤスリのような右翅を左翅の上にのせる“右きき”であること、その音をコオロギ自身も聞いているのだが、その“耳”はコオロギの前肢にあること、ジョン・キーツが「大地の詩は死なず」でコオロギを謳っていること、フィラデルフィアで開かれた世界初の科学振興会でルイ・アガシーがぶった演説はコオロギの“発声”(チャープ=さえずり音)についてであったこと、などなど。
世界中のコオロギ音楽の文献も紹介されていた。
のちに角田忠信さんが『日本人の脳』で、
「日本人の脳 脳の働きと東西の文化」角田忠信(著)
秋の虫に音楽を感じているのは日本人だけだという説を出したとき、これはおかしいかもしれないと思ったのは、本書を読んでいたせいであった。」
そういえば、資本主義の正統性の根拠、マンデヴィル『蜂の寓話』もあった。
「蜂の寓話 〈新装版〉私悪すなわち公益」(叢書・ウニベルシタス)バーナード マンデヴィル(著)泉谷治(訳)
また、鶏は「東天紅(とうてんこう)」と鳴いていたそうである。
時代によってこうも変わってしまうわけであるから、かなり恣意的である。
既に言葉を知っているから、そういう風に聞こえるだけであって、音を忠実に表現した言葉では無いと思われる。
であるから、擬音語も擬態語も、言葉がつくられるカラクリは同じだと推察される。
著者は群馬県で子供時代を過ごしたそうであるが、群馬ではコオロギは「針させ 綴り(つづり)させ 針なきゃ 借りてさせ」と鳴くのだそうだ。
「肩させ 裾させ 寒さが 来るぞ」とか「肩とって 裾させ 裾とって 肩させ」とか「つうつう つんづりさせ」とか地方によって鳴き方が違うそうである。
コオロギまで方言で鳴くのかよー、って話しである。
もう好きなように、都合のいいように解釈しているとしか思えない。
心理学でいう「投影」を連想してしまう。
「秋風に ほころびぬらし ふぢばかま つづりさせてふ きりぎりすなく」(『古今和歌集』巻19)この時代コオロギはキリギリス、松虫は鈴虫と呼ばれていたそうである。
で、本書の記載内容に戻ると、擬音語・擬態語について、歌集などの歴史的著作物をはじめ、近現代においては新聞・雑誌を素材に、通時的分析を試みている。
女史曰く、
「日本人が読んでなるほどと納得するような擬音語・擬態語事典はまだ刊行されていないのです。
私が欲しいのは、そういう事典です。我々一般の日本人も満足するような擬音語・擬態語事典は出来ないものでしょうか?(中略)そんな事典を、私はいつか作りたいと考えているのです。」
ということで、本書は、本格的な擬音語・擬態語の辞書作りの予告編といった位置づけの本ということになるのであろうか。
<参考記事①>
<参考図書>
「擬音語・擬態語辞典」(講談社学術文庫)山口仲美(編)
「オノマトペの歴史1 その種々相と史的推移・「おべんちゃら」などの語史」(山口仲美著作集5)山口仲美(著)
「オノマトペの歴史2 ちんちん千鳥のなく声は・犬は「びよ」と鳴いていた」(山口仲美著作集6)山口仲美(著)
<参考資料>
でも、内容は盛りだくさんである。
いちいち、取り上げてたら、紙面がいくらあっても足りないので、私の趣味で目に留まったものを、ちょっとだけ紹介しておく。
前述の通り、三島由紀夫、森鴎外は、大嫌いだったとのこと。
品がない言葉として、作品には使用しなかったようである。
三島由紀夫が、「あっ、小鳥が鳴いてる、ぴよぴよ」なんて言葉使ったら、ずっこけます。
でも三島作品を砕けた言葉で翻訳したら、それはそれで面白いかも。
夏目漱石なんかは、けっこうお茶目な面もあるから、けっこう使ってたかも知れない。
時間があったら調べてみよう。
北原白秋とか草野心平、宮沢賢治は好きで、その効果を最大限活かした作品を生み出したそうである。
とくに、草野心平は、凄い。
まるで、2chねらーである!
ぐりりににぐりりににぐりりにに
るるるるるるるるるるるるるるる
ぎゃッぎゃッぎゃッぎゃッぎゃッ
ぎやるるろぎやるるろぎやるるろ
げぶららららららげぶらららららら
(「第八月満月の夜の満潮時の歓喜の歌」『草野心平全集』巻一)
これは、あきらかにパソコン使ってかいてますね。
草野心平は、コピペの使い手か?
現代の擬音語・擬態語の語型 新聞4紙・雑誌4誌2000年12月を対象 1210種。
A (ふ)
Aッ (きっ・さっ・ぴっ)
Aン (かん・がん・ぴん)
Aー (さー・すー・ぐー)
AA (だだ・へへ・ふふ)
AッA (かっか・さっさ・ぱっぱ)
AッAッ(くっくっ・ぴっぴっ・ぽっぽっ)
AンAン (くんくん・つんつん・ぱんぱん)
AーAー (かーかー・ぐーぐー・ぴーぴー)
AB (どさ・どき・どて)
ABッ (どきっ・ぼかっ・むかっ)
ABン (くすん・ちくん・ぱりん)
ABリ (きらり・ちくり・ぺろり)
AッBリ (さっくり・ざっくり・ぴっかり)
AンBリ (こんもり・こんがり・ぼんやり)
ABAB (きらきら・しこしこ・ぴかぴか)
ABB (うふふ・ひゅるる・ずおお)
これらの語型をもとに、さらに促音「」・撥音「」・長音「」を加えて、次々に擬音語・擬態語を派生していきます。
派生の例。
・Aン こん こんっ
・AA だだ だだっ だだーっ ずず ずずん ずずーん
ピロピロピーと鳴くのはアイボだそうである。
[ コメント ]
著者は、その当時jにあって30年前には無かったもの、逆に30年前にあって現在無いものを調べ考察している。
後者は「ガタピシ」「ガタンガタン」「ゴットンゴットン」「チクタク」など。
前者は電子音や機械音である。
「ピッ」「ピピッ」「ピピピ」「チロリン」「チン」「チーン!」「ピンポーン」「ピーポーパーポー」「バキューン」「クウォン!」「プロロロロ」など。
あと、笑い系。
「ウヒヒヒヒヒ」「エヘヘ」「ウヒョウヒョ」「ケッケッケ」「ふふっ」「うふふっ」「ワッハッハッ」「アッハッハッハ」など。
<参考記事②>
9.参考記事
<書評を書く5つのポイント>
1)その本を手にしたことのない人でもわかるように書く。
2)作者の他の作品との比較や、刊行された時代背景(災害や社会的な出来事など)について考えてみる。
3)その本の魅力的な点だけでなく、批判的な点も書いてよい。ただし、かならず客観的で論理的な理由を書く。好き嫌いという感情だけで書かない。
4)ポイントを絞って深く書く。
5)「本の概要→今回の書評で取り上げるポイント→そのポイントを取り上げ、評価する理由→まとめ」という流れがおすすめ。
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【新書が好き】キリスト教を問いなおす
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【新書が好き】上達の法則
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