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noteで面白かった話

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noteの中で良いなあと思った作品をまとめます。
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2018年7月の記事一覧

土のにおい

土のにおい

(約3400字)

鶏が死んだ。
冷たく乾いた日々のあと、小雨が数日続いた。その日の朝、雨上がりの地面は太陽に暖められ、生気が立ち上り、陽光の中に生まれたばかりの小さな羽虫が無数に飛んでいるのが見えた。春の知らせは気分のいいものだ。何か新しいことが始まる予感がある。私は朝食を済ませると、庭に出て鶏の餌の準備をした。鶏に与える餌は市販の配合飼料でもいいのだけど、小米やぬか、近所の魚屋からもらうアラ、

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ふられたほうが楽なのは知っている

ふられたほうが楽なのは知っている

先日も書いたのですが、林伸次さんの「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」がすごくいいんです。

私は単行本で読みましたが、cakesでも一話ずつ公開しています。


特にこの話「この恋がうまくいかないことは私がいちばんわかっている」が好き。

この小説は、バーに来たお客様がマスターに自分の恋のことを語る物語です。

ふと思いついてしまったんですが、舞台をバーから山小屋にして、マスター

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バーのマスターに語られる恋

バーのマスターに語られる恋

林伸次さんの「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」を読む。

プロローグ、21話のショートストーリー、エピローグからなる連作短編集だ。

物語の語り手である「私」はひとりでバーを営むマスター。バーにやってくるさまざまなお客様の恋の話に耳を傾け、ときにはささやかに祝福し、ときにはささやかに励ます。

21人の、21通りの恋が描かれている。最終話だけ、お客様ではなくマスター自身の昔の恋の話

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セブンの生ビール提供に見る、見栄えはしないが、超有効な簒奪戦という戦い方

セブンの生ビール提供に見る、見栄えはしないが、超有効な簒奪戦という戦い方

セブン-イレブン絡みの出来事でこんなお話が。(余談ですが、セブン-イレブンの正式表記はセブンとイレブンの間に「-」が入ります。ブランドやマーケティングの仕事している方は覚えておいて損はない小話)

かいつまんで言うと、セブン-イレブン店頭にビールサーバーを設置し、生ビールを販売するというお話です。

大企業において簒奪戦が有効なわけセブン-イレブンくらい大企業になると、新しい商品やサービスを売ろう

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落選したコンテストのこと

昨日から「さらけ出す」をテーマにしているので、敗戦の歴史をさらけ出していく。

先日cakesコンテストに入賞し、noteやTwitterで知り合った方たちから祝福の言葉をいただいた。

祝福していただけるのは、とてもありがたい。

しかし、受賞したことだけを書くと「順風満帆」と思われてしまうかもしれない。

いや、別にそう思われてもかまわないけど、それは事実ではない。

私は今までの人生で何度か

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ブックデザインを担当した話

ブックデザインを担当した話

どうも、ピースオブケイクでデザイナーやってる佐賀野です。
普段はnoteのカイゼンとかを担当していますが、この度ひょんなことから書籍の装丁を担当したので、ちょっと紹介させていただきます。

担当した書籍について今回担当させていただいたのは、note・cakes両サービスで活躍されているバーテンダー林伸次さんの初小説「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」です。
幻冬舎さんから本日7月12

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時給1000円が安くて、どうして靴の1万円は高いのだろうか?

時給1000円が安くて、どうして靴の1万円は高いのだろうか?

こんにちは、ハヤカワ五味です。

アパレルの会社を4年もやっていると「高すぎて買えません、安くしてください」と言われることが度々あります(最近は減ったけども)。

では、そのお客様の要望に応えて値段を下げるべきなのだろうか、高くない妥当な金額とはいくらなんだろうか。こうして小売業の経営をやっている以上、何度も頭を悩ませる永遠の問いかもしれないけど、最近なんとなく自分の中で結論が出た気がします。そし

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逆説的な十戒

逆説的な十戒

インターネットで心無い人に殴られたとき、読むとちょっと元気がでるやつ。Kent M. Keithによる"The Paradoxical Commandments"の和訳。noteもこういう、キープ・ムービング・フォワードの精神でいきたい。

人々は不合理で、非理性的で、自分勝手です。それでも彼らを愛しましょう。

あなたが善い行いをなしても、人々は下心があると言うでしょう。それでも善をなしましょう

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「いいライターがいない」問題について

「いいライターがいない」

これは、編集者がよく口にする言葉だ。少なくとも版元にいる間、何千回耳にしたかわからない。

「こういうテーマの本なんですけど、いいライターさん知りませんか?」
「う〜ん、いないんだよねえ、いいライター」

——この「いいライター」は「本が書けるライター」のこと、もっと言えば「10万字を最後まで破綻なくおもしろく書き、著者の魅力を最大限に引き出し、読者がよろこぶコンテ

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韓国インディのおすすめ10曲

韓国インディのおすすめ10曲

ぼくが韓国の音楽を聴き始めたのは、ルシッド・フォールが日本で紹介された2013年頃から。ネオアコやブラジル音楽、あとAORの影響を受けたようなサウンドですぐに気に入りました。そこから色々と聴き進めていったのですが、ぼく好みの音楽がザクザク出てくるんですね。そんなわけで、今日はぼくが好きな韓国インディを10曲ほどご紹介します。

* * *

(1)Lucid Fall / あなたは静かに
まずは上

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