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KILLING ME SOFTLY【小説】63_人間なんて誰だって駄目なんだよね

ノイズとシャウト塗れな初期衝動の塊に、あまりにも等身大の青春が描かれる。以前からこのような台詞を誰かに言われる日を夢見ていた。
暗闇で膝を抱える私に、一筋の光が差し込み、千暁が歌い出す。
………
……
…状況を理解して飛び起きる。
「ごめんなさい、うっかり寝てた!」


幾ら音楽が流れる居心地の良い車内といっても、運転してくれる彼の隣で呑気に寝息を立てるとは、とんだ粗相だ。こちらが慌て、頭を下げるも彼は不思議そうにする。
「は、何が?俺の方こそ、つい熱唱しちゃって莉里さんのこと起こしたよね。喧しくて申し訳ないわ。てかわりと渋滞してたし、休めたんなら丁度良かったよ。座ってて疲れたでしょ、あと少しで着くからね。」
さぞ暇を持て余したろう。


いつぞやの恋人は私がこれと同じ過ちを犯した時、あからさまに不機嫌になり、泣きながら縋り付き許しを請い、どうにか繋ぎ止めた。総じて運転中は相手の本性が現れるなど〈幻滅しがち〉にも拘らず、彼らに比べると年下・大学2年生の千暁は穏やかなまま、何てことのない様子(というか莉里さんのかわいい寝顔、俺が独り占め出来るの最高!と嬉しげ)だった。


車はまたも海沿いを走っており、薄曇から今や眩しい程の青空が広がる天気へ、加えてあちこちに土産物屋や宿が顔を見せ、胸が高鳴る。
「ここらで昼飯にします。」
「了解、腹ぺこです。」
「ぶっちゃけ父方のお婆ちゃんが近くに住んでて俺、土地勘あるんだ。」


広々とした駐車場へと進むが、流石は日曜の昼前、混み合っていた。
さあ、行こっか。



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