有明

只管吐き出します

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記事一覧

凪の海へ

 クラスに一人はいる、底抜けに明るくって真面目な子。いつだってみんなの中心でキラキラ輝いて、周りを照らし出す太陽みたいな子。    そんな子が、真夜中の凪の海で呆…

有明
3か月前
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メダカの遺言

 メダカの死骸だった。  いや、死にかけのメダカだった。  ドジョウは唖然とした。昨日まで元気に泳いでいたメダカは、今や尻尾と背びれの中ほどまでを食いちぎられ、…

有明
7か月前
2

外灯と闇

 心なしか鈍い外灯の灯りは、  しかし誰の心も照らせていない。  むしろいたずらに影を切り取るだけで、照らされなかった闇は、さらに寂しさを募らせた。  こんなの…

有明
7か月前
2

小噺「足りない」

「足りない、ですね。」  痩せた男は困り果てた顔をしている。 「一二三四五六、確かに六つしかありません。一つ足りませんよ旦那。」 「ふむ。」  旦那と呼ばれた身…

有明
9か月前

日記"こんな暖かな日は"

 昨日閉じ切らなかったカーテンから陽が射す。それは僕の眼にひたりと照準を合わせていて、たまらず僕は目を覚ました。寝始めてからまだ五時間ほどだった。あと二時間は寝…

有明
9か月前
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短文:毒草

有明
10か月前
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小話:秋の嗅覚

 夏が終わって秋に移り変わる間際の、何も無いこの空気が好きだった。夏がいっぱいに詰まっていたのがすうっと抜けてしまって、次は秋がそこにすっぽり収まろうとしている…

有明
10か月前
1

小話:座って目を閉じること

「そろそろ起きたらどう?」 心のどこかの部分が退屈そうにそう言った。 「今日はこれでいいんだよ。座って目を閉じてるだけに見えるけど、これはこれで楽しいんだ。」 …

有明
10か月前
1

小話:秋

「日没がだいぶ早くなった。」 「もう秋だよ。風も乾いて冷たくなってきた。」 「秋といえば、昼下がりの空気。」 「空気?」 疑問が跳ね返る 「空気、美味しくないか…

有明
10か月前
1

短編:夜の月

 夜に吹く風は心地良い。それは都会のビル群においても、そしてこの何処とも知れぬ森の中でも同じ事だった。  気付けば森に立っていた俺は、ぼんやりと空を見遣って、こ…

有明
10か月前
3

沈めぬ夜

 沈めぬ夜を超えれば、やがて朝が心の上っ面を掻き立てる。  そんな時ほど、この身に心が宿っているのを恨めしく思う事はない。これがあるから私は静かになれない。どれ…

有明
11か月前
1

「浮き上がる」ということ

 ここに生まれ落ちてからというもの、ずっとずっと追われる身でした。急かされ、焦らされ、突っつかれて、走り続けるしかありませんでした。  しかしその中で得られたも…

有明
1年前
3

短編:入り口

 例えば駅のホームの壁にある、薄汚れたドアだとか、フェンスが敷かれ、訳もわからずずっと封鎖されている小道だとか、そういうところ。  どこに続くのか分からない、け…

有明
1年前
3

短編:麻縄

「ほんとうに?」  暗い暗い何処かに声が響く。 「もういいよ。」  ひとつ前に響いた声に反して、続く声は何処までも冷たく乾いた声だった。 「沢山だ。」  暗い中…

有明
1年前
1

 荊に囲まれ生きるという事は、少し身じろぐだけで皮膚が破け血に染まるという事で、  心の臓が膨らむたびに棘が食い込み、萎むたびに棘から離れ、また食い込む為の余白…

有明
1年前
1

rough sketch

有明
1年前
凪の海へ

凪の海へ

 クラスに一人はいる、底抜けに明るくって真面目な子。いつだってみんなの中心でキラキラ輝いて、周りを照らし出す太陽みたいな子。
 
 そんな子が、真夜中の凪の海で呆けていた。

 私はここが大好きだった。防波堤に囲まれたこの海辺は、意図的に凪になるように設計されている。暗い夜に出向けば、光も音もほとんどない、とても静かな場所になるのだ。いつも変わらず自分を迎えてくれるこの場所は、日向に居場所を持たな

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メダカの遺言

メダカの遺言

 メダカの死骸だった。

 いや、死にかけのメダカだった。

 ドジョウは唖然とした。昨日まで元気に泳いでいたメダカは、今や尻尾と背びれの中ほどまでを食いちぎられ、無惨にも泥土のベッドに横たわっている。

「ブラックバスだよ、ドジョウくん。」

 メダカは絶え絶えに話した。ドジョウは喋るんじゃないと咄嗟に声をかけようとした。メダカから放たれる言葉の一粒一粒が鮮明に感じとれてしまったからだ。その一粒

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外灯と闇

外灯と闇

 心なしか鈍い外灯の灯りは、

 しかし誰の心も照らせていない。

 むしろいたずらに影を切り取るだけで、照らされなかった闇は、さらに寂しさを募らせた。

 こんなのなら、まだ闇に包まれていたほうがましだったと彼は泣いた。

 涙だけは闇に浮いてすこし光った。
 

小噺「足りない」

小噺「足りない」

「足りない、ですね。」

 痩せた男は困り果てた顔をしている。

「一二三四五六、確かに六つしかありません。一つ足りませんよ旦那。」

「ふむ。」

 旦那と呼ばれた身なりのいい男は顎に手を当てて思案げにしている。

「旦那、困りますよ。一つ足りないまま荷を運ぶ訳にはいかない。そんな事をしてしまえば、私は運び屋としての信用を失います。その責任をあなたが取る事はできないでしょう?」

「なるほど。な

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日記"こんな暖かな日は"

日記"こんな暖かな日は"

 昨日閉じ切らなかったカーテンから陽が射す。それは僕の眼にひたりと照準を合わせていて、たまらず僕は目を覚ました。寝始めてからまだ五時間ほどだった。あと二時間は寝かせて欲しかった。

 しかし身体は覚醒に向けて活動を始めたらしく、さっきまで残っていた微睡の残り香も次第に消え失せていった。たしか、人間の体のどこかには太陽の光を受け取る受容体があって、そこに陽光の刺激が加わる事で目が覚めるんだったか。日

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小話:秋の嗅覚

小話:秋の嗅覚

 夏が終わって秋に移り変わる間際の、何も無いこの空気が好きだった。夏がいっぱいに詰まっていたのがすうっと抜けてしまって、次は秋がそこにすっぽり収まろうとしているその間隙をぬって、こっそり息を吸うのが好きだった。

「良い匂い。」

「秋の味覚ならぬ、秋の嗅覚?」

「はは、面白くないね。」

 私は率直に批評した。彼は口角を上げて笑った。

小話:座って目を閉じること

小話:座って目を閉じること

「そろそろ起きたらどう?」

心のどこかの部分が退屈そうにそう言った。

「今日はこれでいいんだよ。座って目を閉じてるだけに見えるけど、これはこれで楽しいんだ。」

「どこが。」

「君が思う楽しいって、例えばゲームだったり、友達と話すだったり、そんなとこだろ?」

「うん」

「そういうのは全部、自分に向けて届けられた何かなのさ。」

「んん?」

「友達がかける言葉は自分に向けられてるだろ。ゲ

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小話:秋

小話:秋

「日没がだいぶ早くなった。」

「もう秋だよ。風も乾いて冷たくなってきた。」

「秋といえば、昼下がりの空気。」

「空気?」

疑問が跳ね返る

「空気、美味しくないかい?」

「まあ、まあ、それも良いけれど。もっとあるだろう。食べ物が美味しいとか、運動に適した環境だとか。」

「よく考えてみてくれよ。食べ物なんて年がら年中美味しいだろう?運動だって、やろうと思えばいつだってできるさ。」

「ふ

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短編:夜の月

短編:夜の月

 夜に吹く風は心地良い。それは都会のビル群においても、そしてこの何処とも知れぬ森の中でも同じ事だった。
 気付けば森に立っていた俺は、ぼんやりと空を見遣って、この状況はなんなのだろうかと考え始めていた。しかし最後の記憶といえばコンビニ帰りに歩いていた夜道だけで、それがどうして森の中へと俺を誘ったのかは、恐らくこの地球上の誰にもわからないだろう。結局どれだけ思考を巡らせようとも、空に浮かぶ月の美しさ

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沈めぬ夜

沈めぬ夜

 沈めぬ夜を超えれば、やがて朝が心の上っ面を掻き立てる。
 そんな時ほど、この身に心が宿っているのを恨めしく思う事はない。これがあるから私は静かになれない。どれだけ目を瞑ろうと、耳を塞ごうと、口を噤もうとも、考える事だけは辞められない。自身の五感を全て閉ざしたとて、そうなれば頭は自身の中にあるものをかき分けて、その中から一番黒ずんだものを槍玉にあげるのだった。
 布団を耳の上まで被って朝日から逃げ

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「浮き上がる」ということ

「浮き上がる」ということ

 ここに生まれ落ちてからというもの、ずっとずっと追われる身でした。急かされ、焦らされ、突っつかれて、走り続けるしかありませんでした。
 しかしその中で得られたものは、とても良いものだったとは言えません。走り続ける体力と、走る度に足に跳ねた泥の染み、そして道を阻む物々にぶつかってできた生傷くらいのものです。

 痛いし疲れたので、私は少し立ち止まってみる事にしました。いつものバスに今日は乗らず、山で

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短編:入り口

短編:入り口

 例えば駅のホームの壁にある、薄汚れたドアだとか、フェンスが敷かれ、訳もわからずずっと封鎖されている小道だとか、そういうところ。
 どこに続くのか分からない、けれど何処かには必ず繋がっていて、その先に自分のまだ知らない空間が広がっている事が確約されている「入り口」。

 そういうものは、ふとした時に強烈に人の興味を惹きつける。
 そしてこういった入り口を概念として捉えてみれば、思っているよりもずっ

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短編:麻縄

「ほんとうに?」

 暗い暗い何処かに声が響く。

「もういいよ。」

 ひとつ前に響いた声に反して、続く声は何処までも冷たく乾いた声だった。

「沢山だ。」

 暗い中にぶら下がった麻縄の輪に向けてぼそりと呟く。

「まだ分からないじゃないか。」

 それは最後通牒の様だった。自分が自分を守ろうとする機構の一番奥の、なけなしの声の様だった。

「なにがだよ。もう分かり切っているさ。誰も僕を理解し

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荊

 荊に囲まれ生きるという事は、少し身じろぐだけで皮膚が破け血に染まるという事で、
 心の臓が膨らむたびに棘が食い込み、萎むたびに棘から離れ、また食い込む為の余白が生まれるという事で、
 頭を少し回す度に首に荊が絡まって、息をする事も苦しくなるという事で、

 こんな荊がどこから来るのかといえば、それは紛れもなく自分自身の内からで、
 自らが見過ごせなかった様々を、捨てずに抱え続けたのが「荊」であっ

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