小話:座って目を閉じること
「そろそろ起きたらどう?」
心のどこかの部分が退屈そうにそう言った。
「今日はこれでいいんだよ。座って目を閉じてるだけに見えるけど、これはこれで楽しいんだ。」
「どこが。」
「君が思う楽しいって、例えばゲームだったり、友達と話すだったり、そんなとこだろ?」
「うん」
「そういうのは全部、自分に向けて届けられた何かなのさ。」
「んん?」
「友達がかける言葉は自分に向けられてるだろ。ゲームだって、ユーザーに向けて作られたものだろ。」
「それは分かるよ。じゃなくて、それがなにかいけないの。」
「別にいけないって事じゃない。適量を守ればいい薬さ。けどね、自身に向けられた何かでしか退屈を埋められなくなるのはちょっとマズいんだ。」
「へえ」
「だから偶に、目を閉じるのさ。こっちに向かって来る色々を一旦拒否して、そこにあるだけの、自分になんて見向きもしてないものを感じてみるのさ。」
「変なの」
「ご自由に。」
風と水の揺れる音がした。
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