沈めぬ夜
沈めぬ夜を超えれば、やがて朝が心の上っ面を掻き立てる。
そんな時ほど、この身に心が宿っているのを恨めしく思う事はない。これがあるから私は静かになれない。どれだけ目を瞑ろうと、耳を塞ごうと、口を噤もうとも、考える事だけは辞められない。自身の五感を全て閉ざしたとて、そうなれば頭は自身の中にあるものをかき分けて、その中から一番黒ずんだものを槍玉にあげるのだった。
布団を耳の上まで被って朝日から逃げるが、湿った薄っぺらな夏布団では足しにもならなかった。こんなのを照らしたとて、そこにあるのは玉になり損ねた細石の、中でも一等矮小な一粒でしかない。
どうせならひと思いにこの滓(かす)を消し去って欲しい。光も反射しないほどに跡形もなく消えてしまえば、誰の目にもうつらず消え去る事が出来るのに。
けれど、消えるのにだってエネルギーが要る。
そんな活力はこの身のどこにもありはしなかった。
自分にできる事といえば、怯えるだけだった。
救いようのない人生だ。
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