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小話:秋の嗅覚

 夏が終わって秋に移り変わる間際の、何も無いこの空気が好きだった。夏がいっぱいに詰まっていたのがすうっと抜けてしまって、次は秋がそこにすっぽり収まろうとしているその間隙をぬって、こっそり息を吸うのが好きだった。

「良い匂い。」

「秋の味覚ならぬ、秋の嗅覚?」

「はは、面白くないね。」

 私は率直に批評した。彼は口角を上げて笑った。

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