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小話:秋

「日没がだいぶ早くなった。」

「もう秋だよ。風も乾いて冷たくなってきた。」

「秋といえば、昼下がりの空気。」

「空気?」

疑問が跳ね返る

「空気、美味しくないかい?」

「まあ、まあ、それも良いけれど。もっとあるだろう。食べ物が美味しいとか、運動に適した環境だとか。」

「よく考えてみてくれよ。食べ物なんて年がら年中美味しいだろう?運動だって、やろうと思えばいつだってできるさ。」

「ふむ。」

「けどこの秋の空気だけは、この時期にしか味わえない。自分が生きる総時間の1/4しか味わえない空気さ。しかも、今や気候変動で秋は減りつつあるらしい。」

「そんな話もあったね。」

「だろう?だからこんな貴重な時間に、僕らはこんな所で働いている場合じゃないのさ。」

「喋っててもいいから手を動かしなよ。」

肩をすくめると、彼は画面に視線を戻した。

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