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エッセイ

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#お菓子作り

夜に夜を焼き星を掴む

夜に夜を焼き星を掴む

熟成って、とてもいいなと思います。

熟成肉、熟成ハム、熟成チーズ、熟成ワイン。

熟成させているというだけで、時間という、私の中では価値あるものを費やした対価がそこに宿っているのだという気がします。

“熟成”は、食品を寝かせる事でタンパク質が旨味と呼ばれるアミノ酸やペプチドになり美味しさが増すという事のようですが、化学的な知識を持ち合わせていなくても、何となく“美味しそう”と思わせる言葉として

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大人びて秋

大人びて秋

カフェに行き、レジでアイスカフェオレをオーダーしてPayPayで支払い、その場で出来上がるのを待っていました。

カウンター内で、背の高いグラスになみなみと注がれたカフェオレが作られ、「お待たせしました!」とスタッフの方が差し出してくれました。

私はお礼を言ってそれを受け取り、目の前にあったトレイに乗せて持ち上げましたが、その瞬間強烈な違和感を覚え、それと同時に、震える小さな声が聞こえてきました

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夕暮れラズベリー

夕暮れラズベリー

完璧な夕暮れ時がありました。

暑くもなく寒くもなく、頬を撫でるような風が吹いて、何かやわらかく安全なもので頭のてっぺんからつま先まで守られているような安心感があり、空は透き通るような青色から藤色へと変化する見事な夕焼けでした。

自宅から最寄りの駅で降りて同じ方向に歩く人たちと一定の距離をとりながら、いつものゆるやかな坂道をゆっくりと登っていました。
背後から小さな子どもとお母さんの楽しそうな会

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雨上がりのクレパ

雨上がりのクレパ

金曜日、ポツポツと雨が降り出す中傘を忘れた同僚と一本の傘に入りながら、彼女の行きつけだという創作イタリアンの小さなお店に向かっていました。

お互い昔からよく知る間柄でありながら食事に行くのは久しぶりでしたので、私はこの日をとても楽しみにしていました。

「もう涙でるわー!」と言っておしぼりで目頭をふきながら笑う彼女を見て、まだまだおもしろネタはこんなもんじゃないぜと謎に自分を鼓舞し、下戸なもので

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ニワトリとショートブレッド

ニワトリとショートブレッド

部屋に何かを飾るという習慣がほとんどありません。花、絵画、置物などを飾って自分好みの空間に彩りたいという心が、ドーナツの穴のようにぽっかりと抜け落ちているのです。

観葉植物は置いていますが、インテリアとしてのこだわりというよりも、植物の個体としての美しさやそれらを育てるという行為への興味が動機です。

特に置物などとは無縁で、もう20年程昔の話、新卒で入社した小さなイベント会社に勤めていた頃に過

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私のハナキン

私のハナキン

ハナキンというのはもう一昔前の言葉で、最近若い方たちが面白がってそれを使っているという記事を何かで読みました。

私はちょうど氷河期と言われる時代真っ只中に就職し現在に至るわけですが、確かに20代の頃にはハナキンという言葉がバブルの残り香を纏って、周囲に蔓延っていたように思います。

金曜日、その日は朝から打ち合わせが続いて昼ごはんすら失念し、気付けば夕方の17時30を回ったところでした。

パソ

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テーブルに訪れた冬のスワン

テーブルに訪れた冬のスワン

私は野鳥の多い田舎で育ちました。

鷲、鳶、鷹、雀、魷、鴨、鴉…たくさんの野鳥たちが四季折々に訪れて、空高く舞い、湖に降り立ち、田んぼを泳ぎ、その季節ごとの表情をより豊かなものへと変えていく風景を当たり前のものとして目にしながら育ちました。

それはそうと、鳥類じゃないやつ混じってる。

今年の年始豪雪となった実家で見た、窓の外に広がる生命が失われたモノクロームの世界で唯一、本当に唯一仄かな希望の

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エレガント増し菓子

エレガント増し菓子

「もし2分45秒で食べたいなら、この私を倒してからいけ…!」

2分44秒で倒したった。

いつもお世話になっております日清『カップヌードルPRO 高たんぱく&低糖質』様。

そうめんすら湯がきたくない、カップ麺で済ませたいけど糖質を取り過ぎたくない、そんな時のレギュラーフード。

3分待つと、ちょっと柔らかすぎんねんなー。

ズルズルズル。

麺をすすり、時にハイプロテイン謎肉をちみちみと噛みな

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追憶のガレット・デ・ロワ

追憶のガレット・デ・ロワ

気がつけば、今年も残すところあと11ヶ月弱となりました。
飛ぶように過ぎていく何の変哲もない日々を過ごしていますが、いつかその中からキラっと光る砂金のような出来事を、拾い上げる事もあるのでしょうか。ないのでしょうか。

幼い頃、大切に大切にしていた本があります。

日本の洋菓子研究家であられる今田美奈子さんの著書『ミニレディー百科シリーズ 世界のおかし作り』です。

表紙には「おかしを作りながら世

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シュトーレン物語 

シュトーレン物語 

「本日は首都オレンから物語をお届けします」と出だしを書いて、テーブルクロス引きのスピードで誰もいなくなる寒々しさを感じています。冬ですね。

12月になると、あちらこちらで視界に入ってくる『シュトーレン』。
その存在は知りつつも、これまで口にした事がない『シュトーレン』。
パンなの?お菓子なの?聞かれてもわからない『シュトーレン』。

お菓子作りにあけくれた今年こそ、クリスマスにチャレンジしない手

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ハロウィンにお菓子を作っているとは思わなかった

ハロウィンにお菓子を作っているとは思わなかった

先週末は選挙とハロウィンでした。

土曜日の朝にスマホを見ていたところ、ふと目に止まったYahoo!ニュースの【仮装姿で投票していいの?】という記事タイトル。

仮装して選挙に行く人おらんやろ。

初めはそう思ったのですが、いやちょっと待てよ、そんな人もいるかもしれないと思い直しました。

今の自分には全く想像も出来ない、関係のない事柄が、後にそうでなくなる可能性について、身に覚えがあったからです

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クッキーカンタービレ

クッキーカンタービレ

リモートワークの弊害の1つが、腰痛です。
いつも自宅のダイニングテーブルで仕事をしているのですが、そこにある椅子は当然仕事用ではありません。

2年前に引っ越した際、家具屋で見つけたお気に入りの椅子ですが、仕事には向かないのです。

クッションを置いて極力腰への負担を減らす工夫をしていますが、どうにも痛みが酷くなる日があります。

その日も朝から座りっぱなしで午後には腰が悲鳴をあげていましたので、

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ペンパイナッポーアッポーパイ

ペンパイナッポーアッポーパイ

I have a pen
I have an apple
Uh!
アッポーパイ

わたくし、aotenというニックネームで名前も顔も伏せているのをいい事に書きたい放題なのですが、中には私の名前も顔も職業も知っている方が読んでくださっていて、その方々にはどうかこのままお友達でいてください、という気持ちでいっぱいです。

秋が深まるどころか夏がリバイバルしている今日この頃、とうとう禁断の果実に手を伸

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スリリングなかぼちゃのチーズケーキ作り

スリリングなかぼちゃのチーズケーキ作り

「プルンプルンのプルィン作ろ」

アタマに浮かんだ駄洒落(でもない)に、ひとりグフフと笑ってしまう私のお笑い沸点は2℃ぐらいです。

どうしよう、そんな自分が今日はむちゃくちゃ好き。数日前は嫌なところしか見当たりませんでしたが、そんなもんです。

これまでお菓子作りに縁が無かったにも関わらず、自粛生活で見つけた楽しみの1つとして、今では週末に一定の頻度で作るようになりました。

お菓子のマガジンフ

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