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シュトーレン物語 

「本日は首都オレンから物語をお届けします」と出だしを書いて、テーブルクロス引きのスピードで誰もいなくなる寒々しさを感じています。冬ですね。

12月になると、あちらこちらで視界に入ってくる『シュトーレン』。
その存在は知りつつも、これまで口にした事がない『シュトーレン』。
パンなの?お菓子なの?聞かれてもわからない『シュトーレン』。

お菓子作りにあけくれた今年こそ、クリスマスにチャレンジしない手はありません。

シュトーレンについて調べてみると、ドイツの菓子パンで正しくは【シュトレン】と発音するらしい。ここからは正していきたいと思います。

シュトレンは、クリスマスを待つ4週間のアドヴェントの期間に、少しづつスライスして食べるものだと知りました。残り4週間もありませんが、1枚あたり太めにスライスすれば良いんじゃない?最悪2日あれば完食できるんじゃない?そういう問題かな。

早速お気に入りの製菓材料店に行くと、クリスマス前という事でたくさんの人で賑わっていました。シュトレンコーナーも目立つ場所に島展示されており、必要な材料の他リボンや包装紙もディスプレイされています。

洋酒漬けされたミックスフルーツ、ナッツなど、ひと通り必要な材料をカゴに入れた後、あらためて店内を見渡しました。

クリスマスに彩られた商品を前に、たくさんの人がとても嬉しそうに買い物をしています。ケーキを作るらしい人、クッキーを焼くらしい人、パイを焼くらしい人、各々のクリスマスの物語が始まっているのだと感じさせるその風景は、幼い頃にクリスマスが特別だった事を思い出させました。

そうやってしばらく感慨深げに店内を物色していたところ、あっという間に時間が過ぎてしまいましたので急いでレジに向かいました。
すると、待ち列の付近にデコレーションケーキの可愛らしいオーナメントが、何種類もディスプレイされているのが目に止まりました。

何これ可愛い。

手にとってすぐ「次のお客様こちらのレジどうぞ〜」と呼ばれてしまいましたので、慌てて赤い服を着た3人のサンタクロースのピック1セットだけカゴに放り込んで、会計を済ませました。


さて、自宅に戻ってシュトレン作りです。


バターと砂糖をクリーム状にして、満月のような卵黄をポトリ。


強力粉、薄力粉、ドライイーストなどを混ぜてひとまとめにし、約1時間発酵させます。


発酵が終わった生地を少し伸ばして、ミックスフルーツとナッツを混ぜ合わせます。


ここで一気に雲行きが怪しくなってきました。


生地の弾力と、ミックスフルーツの洋酒による粘り、ナッツの硬さがそれぞれ反発し合って、まとまる気配がしないのです。

レシピには「手でもみこむようにして混ぜるのがポイント!」と明るいテンションで書かれているのですが、ちっとも上手くいきません。

これはまずいぞとプチパニックになりながら、伸ばしてはまるめてを繰り返し、何とかシュトレンの形に成形しようともがきました。



何でしょう。

この何物にも喩えられない、いで立ち。

新種の何か。
未確認の何か。

やり直したいけどこれ以上捏ねたらますます失敗しそうでしたので、この辺りで諦めるしかありません。

肩を落としながら、焼き上がりは少しでも綺麗に仕上がってくれないものかと、祈るような気持ちでオーブンへと送り出しました。




ファラオの埋葬地で見つかった何かに昇格しました。


しかし私は強気でした。

何故なら、シュトレンは真っ白な粉砂糖に包まれてこそナンボなのです。


いでよ、レミオロメン。

粉ぁ〜雪ぃ〜ねえ心まで白く染められたなら
二人の孤独を包んで空にかえすから


私の孤独は包まれましたが、パンはそれほど包まれませんでした。

マッターホルンの険しさを感じる。
これは厳しい登山になるぞ。

しかし私は強気を取り戻しました。

今日ギリギリでカゴに放り込んだ、サンタクロースのピックがある事を思い出したのです。

シュトレンにピックなんて刺さっていない事は100も承知ですが、オーナメントでクリスマスっぽい雰囲気を出すこと(※1)は出来るはずです。

(※1)それっぽく誤魔化すこと

私は一縷の望みを抱きながらカバンをガサガサと漁り、ピックを取り出しました。



うーん。 

気のせいかな、ちょっとした狂気を感じる。

よく見るとサンタじゃないし、目が笑ってないね。


雪山に放ってみました。


不思議。
大きなシュトレンを切る優しいおじさんに見えます。
瞳の奥の輝きも、取り戻したようです。



全員で、シュトレンを一生懸命に切ろうとしてくれている気がします。


おーい!そこ、クレパスには気をつけろよ!
だめだわ、ここ、硬すぎる!
急がないと、凍傷になるぞ!

わっしょーい。
わっしょーい。


ふう。

ありがとう!


いただきます!



……ねぇ、シュトレンって初めて食べるけど、この味で正解なのかな?


2021年お菓子作り選手権、見事にワースト1位を獲得しました。


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