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冬が過ぎれば春がくる
二月十四日。目が覚めると指先が冷たかった。布団からはみ出していたふくらはぎも、かちかちに冷えている。ぶるり、と震えながら布団のなかでもぞもぞと体を動かす。窓枠とカーテンの隙間から漏れ出てくる冷気を睨みつけて、ママに怒られる前にしぶしぶカーテンを開いた。こんなに寒い日はこたつの中でぬくぬくと一日を過ごしたい。ずる休みでもしてしまおうか、と考えてすぐに、藍子との約束を思い出す。きょうの放課後はチョコを
もっとみるきみの温度を憶えている
「夜が来なければいいのに」
心の底からそう願っている訳ではない。夜空は綺麗だと思うし、花火大会やお祭りといった、夜にこそ映える行事も好きだ。それでも、わたしは夜が苦手だった。
白い光は眩しすぎてそこまで好きになれない。日が出ているうちは電気をつけずにカーテンを開けて窓から射す光を頼りに、夕方からは電気をつけ始め、ベッドに入る頃には部屋の電気を消して暗くする。そのくせ暗闇と無音は怖いので、オレン
大人びたこどものひとりごと
人気者のきみは、いつか人気者ではなくなった時、どうなってしまうんだろう。私は最近、おとなになることについて考えています。私たちはみな学び舎を巣立って行ったらそのうち、なりたいかなりたくないかは置いといて、必ずおとなになります。(私がこどものまま天国に逝ってしまったとしても、私を知る誰かが大人になったとき、きっと私もおとなになるのだと思います。)おとなになったきみは、そのときも人気者のきみのままでい
もっとみるバスタイム・ルーティーン
浴室の電気を消して湯船にライトを浮かべる。乳白色のお湯に等しい間隔でパステルカラーが代わる代わる広がる。光がわたしのからだを優しく照らしていく。お風呂は私の憩いの場。シャワーを浴びると、わたしのからだから一日の憎悪が水に浮いて流れ出ていく。ここはわたしだけの秘密の王国!
明日は日曜日だから、「お風呂が沸きました」の声を目覚ましにして、優雅に朝風呂といこう。湯船に花びらを浮かせて、バストレーの上
(無自覚だった)魔女と(猫になった)先輩
先輩が猫になった。私が「先輩は動物に例えるとしたら猫ですよね」と軽く言った瞬間に、先輩から煙が発生し、猫に変身してしまった。猫になった先輩はなにが起こったか分からないと言った表情で
「んなぁ……」と弱々しく鳴いている。私にもよく分からないが、きっと私が先輩を猫にたとえてしまったせいだろう。仕方がないので責任を持って私が先輩の面倒をみることにした。しゃがんで(猫になった)先輩をかかえると、後輩であ