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あじさいめんこ|小説・詩・短歌など

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◎掌編小説 「Crash on you」 「浮気」 「酸いも甘いも未だ知らぬ」 「青春の火葬」 「(無自覚だった)魔女と(猫になった)先輩」 ◎詩 「大人びたこどものひとりごと」 「バスタイム・ルーティーン」 「浮気」 「魔法の呪文」 「プロポーズ」 ◎雑記 「ラストティーン・ラストデイ」

    • 冬が過ぎれば春がくる

      二月十四日。目が覚めると指先が冷たかった。布団からはみ出していたふくらはぎも、かちかちに冷えている。ぶるり、と震えながら布団のなかでもぞもぞと体を動かす。窓枠とカーテンの隙間から漏れ出てくる冷気を睨みつけて、ママに怒られる前にしぶしぶカーテンを開いた。こんなに寒い日はこたつの中でぬくぬくと一日を過ごしたい。ずる休みでもしてしまおうか、と考えてすぐに、藍子との約束を思い出す。きょうの放課後はチョコを配りにまわるんだった。ベッドの上で勢いよく起き上がり、急に目覚めた頭と身体で登校

      • 夢うつつ

        通知音とともに光る液晶が眩しくて目がさめると、間宮くんから「帰ります」とメッセージが来ていた。時刻を確認するとまだ五時前で、カーテンの隙間から見える空の色も暗かった。    一人暮らしを始めたばかりの彼の部屋には、生活する上で必要最低限のものしかなかった。 二人で横になって少しスペースが余るくらいのベッドと、低い丸テーブル、ブルーレイレコーダーとカメラなどが仕舞われている収納付きのテレビ台と、薄型のテレビ。今後実家から持ってきた服で埋まるのだろうが、まだすかすかのクローゼ

        • きみの温度を憶えている

          「夜が来なければいいのに」 心の底からそう願っている訳ではない。夜空は綺麗だと思うし、花火大会やお祭りといった、夜にこそ映える行事も好きだ。それでも、わたしは夜が苦手だった。 白い光は眩しすぎてそこまで好きになれない。日が出ているうちは電気をつけずにカーテンを開けて窓から射す光を頼りに、夕方からは電気をつけ始め、ベッドに入る頃には部屋の電気を消して暗くする。そのくせ暗闇と無音は怖いので、オレンジ色の常夜灯とテレビをつけないと眠れない。以前は部屋が暗い方が落ち着くと思ってい

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        • 4本

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          試供品が使えない

          ※この随筆は2020年の夏に執筆しました。 遠いところに行って新鮮な景色を見にいくことも、夏休みらしいレジャーなんかも気軽に楽しむことのできない2020年の夏。 お洒落着を纏うこと。下地からファンデーション、セッティングパウダーや、アイシャドウパレットを選ぶこと。仕上げに睫毛を上げてマスカラを塗り、まぶたの中央に塗る細かいラメにまで気を遣って仕上げるアイメイク。お気に入りの口紅を一本と、その上に重ねるグロスまでこだわり抜いた化粧を自分に施すこと。どきどきしながらコスメカウン

          試供品が使えない

          しゃにむに未完ガール

           昼前に目を覚まして、カーテンを開ける。顔を洗ったらキッチンでカップ麺にお湯を注ぐ。麺はかためが好きだから二分半、体を伸ばしながら待つ。がちゃり。パートからいつもより早く帰ってきたママが私の目を見据える。 「将来のこと、ちゃんと考えているの」 ただいまより先にそれを言うのか。 「考えてるよ」 ベッドに散らばっている漫画と小説。机の上で続きの文字が打たれるのを待つパソコン。スクリーンに映る洋画とセリフを書き込んだノートブック。 やりたいこともやれることも、たくさんあるんだよ、私

          しゃにむに未完ガール

          Crash on you

          同じゼミの女の子四人と一緒に、大学の近くのカフェへ入る。私は麗と同じテーブルに、麗以外の三人は隣の少し広めのテーブルにそれぞれ分かれてお互いのテーブルをくっつけた。隣の席の三人は先にカウンターで購入したスイーツを綺麗に並べ、それぞれ写真を撮っている。 「侑杏ちゃんのケーキもちょっとこっちに向けてくれる?」 「二人とも一緒に写真撮ろうよ」 なんて言ってくるのを面倒だなあ、と思いつつも笑顔で頷く。SNSにアップするための準備時間が終わるとようやく落ち着いてそれぞれのスイーツ

          Crash on you

          「浮気」

          「私、紫陽花が好きなんだよね」 緑道に咲いていた青や紫、枯れかけて黄色味を帯びている花を見ながら、彼女が言った。 「へえ」 彼女はなんとなく寂しそうに紫陽花を見つめて笑う。 「ねえ、紫陽花の花言葉って知ってる?」 「知らない」 「そう。君、花言葉なんて知ってるタイプじゃないもんね。今日はここまででいいよ、ありがとう」 いつもなら「またね」と言って別れるはずなのに。 こつ、こつ、と彼女がヒールの音を立てて歩いていく後ろ姿を見る。 梅雨が明けて夏が来たら、もう会えなくなる気が

          ラストティーン・ラストデイ

          こんばんは。突然ですが私は明日、二十歳を迎えます。(祝うところ) そこで、二十歳という人生の節目を迎える前に、自分の気持ちを文章にして残そうと思い、23時前にせこせこパソコンに向かって、思い出を振り返ったり、二十歳の抱負を考えたりしながら、未来の自分に褐を入れる(?)ためにこの記事を書いています。 19歳と20歳の違いなんて、ほんとうはそんなにないのかもしれない。「たかが一歳年を取るだけで大げさだな」と思う人も、私と同じように一つ歳を重ねることを特別なことだと思う人も、そ

          ラストティーン・ラストデイ

          大人びたこどものひとりごと

          人気者のきみは、いつか人気者ではなくなった時、どうなってしまうんだろう。私は最近、おとなになることについて考えています。私たちはみな学び舎を巣立って行ったらそのうち、なりたいかなりたくないかは置いといて、必ずおとなになります。(私がこどものまま天国に逝ってしまったとしても、私を知る誰かが大人になったとき、きっと私もおとなになるのだと思います。)おとなになったきみは、そのときも人気者のきみのままでいられるのでしょうか。どうなんだろうね。きみがおとなになったとき、きみもいつかすっ

          大人びたこどものひとりごと

          酸いも甘いも未だ知らぬ

           卒業式が終わり、校庭には卒業生と、それを見送る在校生とがさまざまに別れの挨拶を交わしている。今朝、ぼくの隣の席の子は憧れの先輩の第二ボタンをもらいにいくと言っていた。ぼくには憧れの先輩なんていないし、そもそも親しい先輩なんて一人しかいなかった。先輩にさようならくらいは言っておこうと思い彼女の元にいくと、校舎裏の桜の樹の下に連れて行かれた。  「今から目を瞑って。わたしからきみに特別な贈り物をあげる」  先輩の突飛なお願いは今に始まったことじゃない。ぼくは「わかりました」と

          酸いも甘いも未だ知らぬ

          青春の火葬

               「先生、今日で最後にしましょう」  返事はない。先生は黙って、ゆっくりと私のリボンを解いていく。  今日で先生に制服を脱がされるのが最後だと思うと感慨深い。三年間の高校生活が終わることよりも、カーテンを閉め切った準備室で先生とセックスできなくなることの方が寂しいなんてどうかしている。どこで間違えたんだろうな、青春のすすめ方。今日もどこか冷めた眼差しで私の体に触れる先生の手は温かい。心の冷たい人ほど体温が高いって聞いたことがあるな、と私の太腿にぬるりと先生が赤い舌を

          青春の火葬

          バスタイム・ルーティーン

          浴室の電気を消して湯船にライトを浮かべる。乳白色のお湯に等しい間隔でパステルカラーが代わる代わる広がる。光がわたしのからだを優しく照らしていく。お風呂は私の憩いの場。シャワーを浴びると、わたしのからだから一日の憎悪が水に浮いて流れ出ていく。ここはわたしだけの秘密の王国! 明日は日曜日だから、「お風呂が沸きました」の声を目覚ましにして、優雅に朝風呂といこう。湯船に花びらを浮かせて、バストレーの上にはヴィレヴァンで買ったバニラの香りのキャンドルとお気に入りの雑誌を持ち込んで、

          バスタイム・ルーティーン

          浮気

          花びらが落ちた瞬間、流れ星を見逃してしまいました。それは一瞬の出来事でした。きみが夜空を見つめていたとき、わたしは丘に見たあじさいの花から目を離せなかったのです。ごめんなさい。 後ろめたさと秘密の美しさに一人酔いしれる夜、そろそろ私たちは終わります。

          (無自覚だった)魔女と(猫になった)先輩

           先輩が猫になった。私が「先輩は動物に例えるとしたら猫ですよね」と軽く言った瞬間に、先輩から煙が発生し、猫に変身してしまった。猫になった先輩はなにが起こったか分からないと言った表情で 「んなぁ……」と弱々しく鳴いている。私にもよく分からないが、きっと私が先輩を猫にたとえてしまったせいだろう。仕方がないので責任を持って私が先輩の面倒をみることにした。しゃがんで(猫になった)先輩をかかえると、後輩である私に抱えられることが嫌なのか恥ずかしいのか、足をジタバタとさせている。ちょっと

          (無自覚だった)魔女と(猫になった)先輩

          「魔法の呪文♡」

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