(無自覚だった)魔女と(猫になった)先輩
先輩が猫になった。私が「先輩は動物に例えるとしたら猫ですよね」と軽く言った瞬間に、先輩から煙が発生し、猫に変身してしまった。猫になった先輩はなにが起こったか分からないと言った表情で
「んなぁ……」と弱々しく鳴いている。私にもよく分からないが、きっと私が先輩を猫にたとえてしまったせいだろう。仕方がないので責任を持って私が先輩の面倒をみることにした。しゃがんで(猫になった)先輩をかかえると、後輩である私に抱えられることが嫌なのか恥ずかしいのか、足をジタバタとさせている。ちょっとかわいいなあと思いつつ、「動かないで!」危ないので先輩をぎゅっと胸に抱き寄せてホールドした。私の胸が、(猫になった)先輩の小さな身体を優しく包み込んでしまっている。心なしか(猫になった)先輩は赤面しているように見えた。この感触が、私が先輩を猫にしてしまったことの少しの償いにでもなればいいのだけれど。
私の部屋に(猫になった)先輩を連れて帰った。
「先輩、とっても可愛いですね。今日からうちの子になりますか?」
(猫になった)先輩が返事を出来ないのをいいことに私は普段だったらやめろ、と言われることをたくさん言うことにした、のだが。
「うるさい。元に戻ったら容赦しないからな」
なんと、私の部屋に入ると(猫になった)先輩は人間の言葉が喋れるようになっていた。
「なんだ、喋れちゃうんだ。さっきはんなぁって鳴いてたのに」
「さっきまでは喋りたくても全部鳴き声に変わっていたんだが、この部屋に入ったら普通に喋れて俺も驚いた」
猫(になった先輩)と喋れる人間なんて私くらいだろう。貴重な体験だ。
「そのまんまじゃどこにも行けないですよね。元に戻るまで私が面倒見てあげてもいいですよ」
「なんで上から目線なんだよ。お前に面倒を見てもらうのは癪だが……俺もどうしたらいいか分からないし、少しの間は世話になろうかと思う」
「もし元の姿に戻れなかったら、ずっと私のそばにいてくれるんですか?」
私の質問に(猫になった)先輩はふん、と鼻を鳴らすだけで、明確な返事をくれない。
「……さっきといい今といい、お前の言葉は呪いみたいで怖いな」
呪い?そういえば、今日見た夢は(猫になった)先輩と暮らすという内容だった。それが現実になってしまったということか。まさか、そんなことがあり得てしまうならば私の言葉は呪いなんかではなく魔法だ。それが事実なら、私は先輩を自分の力に巻き込んでしまったことになる。可哀想な先輩、私に好かれてしまったばっかりに、私の夢に猫として出てきてしまったばっかりに、猫になってしまった、可愛い先輩。
「早く人間に戻れるといいですね」
「お前、本当にそう思ってないだろ、表情に出てる」
「思ってますよ。人間の先輩にしてもらいたいこともあるし」
「俺に何をしてもらいたいって?」
「さあ?なんでしょうね。人間に戻れたら教えてあげますよ」
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