「浮気」
「私、紫陽花が好きなんだよね」
緑道に咲いていた青や紫、枯れかけて黄色味を帯びている花を見ながら、彼女が言った。
「へえ」
彼女はなんとなく寂しそうに紫陽花を見つめて笑う。
「ねえ、紫陽花の花言葉って知ってる?」
「知らない」
「そう。君、花言葉なんて知ってるタイプじゃないもんね。今日はここまででいいよ、ありがとう」
いつもなら「またね」と言って別れるはずなのに。
こつ、こつ、と彼女がヒールの音を立てて歩いていく後ろ姿を見る。
梅雨が明けて夏が来たら、もう会えなくなる気がした。
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