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ふえますように。

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注目記事、 カテゴリのまとめに 選んでいただいたnoteや、 特にスキを集めた記事たちです。 読んでくださり、ありがとうございます。 これからも、ふえますように。
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記事一覧

みそしる

みそしる

味噌が切れたので、妻に
「スーパーで買ってきて」と
LINEしたところ、
「うちにあるよ」と
返ってきた。

私はすっかり忘れていた。

パントリーを探してみる。
すると、今年の2月に、
地域のイベントで
息子が仕込んだ味噌が、

その奥に、ちょこんと、
色を変えて、座っていた。

仕込んだときは
大豆と麹、そして塩が混じった
綺麗な乳白色だったものは、
およそ8ヶ月を過ぎて、
まるで赤土のように

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You’ve Got to Have Freedom

You’ve Got to Have Freedom

「まだジャズ集めてねえの?ダセェな」

そう言って、そいつはいたずらに笑った。
正直、めちゃくちゃ腹が立った。
だけど、なんとか引きつった笑いをつくって、
「そうだな、そろそろ買うわ」と、私は返した。

「ラビットハウス」というアパートの一室。
8畳くらいの1Kの部屋に、そいつは住んでいた。
押入れには畳んでない服が山積みになっていて、
ちょっとすっぱい臭いがした。
あろうことか、その臭さを消すた

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すこしだけ、やさしく

すこしだけ、やさしく

17年前、学生だった自分は実習で、
ある方を担当した。
若くして、脳梗塞で半身麻痺になったその方は
ベッドの脇にCDプレーヤーを置いて、
いつも決まった時間に
ある人のアルバムをかけるよう、
私に頼んできた。

「オーティス・レディングっていうんだ」

呂律の回らない声で、
彼は私にそう、教えてくれた。

「DJをやってるのに、
オーティスも知らないのか」

半ば呆れたように、
でもちょっと、

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DAY 100:「家族」 Blue Note 1600 presents "THE 3 SOUNDS"

DAY 100:「家族」 Blue Note 1600 presents "THE 3 SOUNDS"

「きょうの学校は12じはんまでだよ、
給食ないもん」
「れんらくちょう見てよ、書いてあるから」
と言いながら、
妻と、終業式の登校準備をする息子。

娘は我関せずといった顔で、
パンをほおばっている。

「この作文は、もう、
うちに置いておいていいの?」
と、妻が息子に聞く。

本人の許しを得た作文の束が、
机の上に無造作に置かれる。
私はそれを、
何気なくひょいと手にとって、目を通した。
いくつ

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DAY 91:「テイクオフ」 "LOU TAKES OFF" LOU DONALDSON  Blue Note 1591

DAY 91:「テイクオフ」 "LOU TAKES OFF" LOU DONALDSON Blue Note 1591

その日は、朝から気分が昂っていた。
緊張していないけれど、
まるで遠足に行く子供のような気分。

いわゆるワクワクしている、ってやつだ。

気分を落ち着けようと、コーヒーを飲んで、
このレコードをかけた。

1曲めから、凄まじく熱い曲が流れてくる。



もうダメだ、ワクワクを止められない。



コロナ禍にあって、
この数年間、
本当に近場にしか外出していなかった。

行こうと思えば、
すぐ

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DAY 99:「その瞳に、映るものは」"soul stirrin'" Bennie Green  blue note 1599

DAY 99:「その瞳に、映るものは」"soul stirrin'" Bennie Green blue note 1599

こないだの平日は休みだった。

休みの日は基本調子がいい。
朝食の準備もして、
新しい登校班になった、息子を見送る。

もう1年が経つんだなあ。
妙に感慨深くなった。
息子の世界は確実に広がっている。
学校生活や友達との交流。

もう1年が経つのは、息子だけではなく、
私もだった。

適応障害で休職してから、もうすぐ1年。
早いか遅いかで問われれば、早かった。

世界が変わったかと言われれば、

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DAY 96:「目を見つめて」 "BLUE LIGHTS" KENNY BURRELL  Blue Note 1596 Volume 1

DAY 96:「目を見つめて」 "BLUE LIGHTS" KENNY BURRELL Blue Note 1596 Volume 1

「おとうさんは、携帯ばっかり見ている」

と、妻にも、息子にも言われた。

そう言われて、考える。

携帯ばっかり見ている、と言われても、
そこにある世界は、魅力的だ。
自分の興味のあることや、
好きなことにてっとり早く没頭する
(あるいは「逃避する」)のには、
手のひらサイズに収まる画面を、
親指で操作すればいい。
とても簡単で、心地いい世界へ没入できる。

それは世界中と繋がっていて、
自分の

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DAY 87:「そして日常へ…」BENNIE GREEN "Back On The Scene" Blue Note 1587

DAY 87:「そして日常へ…」BENNIE GREEN "Back On The Scene" Blue Note 1587

1月3日。
昨日の夜に筋トレ始めをしたおかげで
眠りは深かった。
アラームをかけなくてもいい朝っていうのは、
それだけで、とてもぜいたくな気がする。

深い眠りから目覚め、時計に目をやると、
7時をちょうどまわったところだった。
ややあって、こどもたちも目を覚ます。

面白いもので、こどもたちは目を覚ますと
真っ先に親の姿を探す。
そして親が起きていて、目が合うと、
にっこりと笑いかけてくれるのだ

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DAY 90:「キャンディ」"CANDY" LEE MORGAN  BLUE NOTE 1590

DAY 90:「キャンディ」"CANDY" LEE MORGAN BLUE NOTE 1590

息子から誕生日プレゼントに、
キャンディをもらった。

そういえばちょうどよく、
その名前の曲が入っている
レコードがあったので、
ターンテーブルに載せて、針を落とす。

息子は、そのキャンディを早く食べろと、
急かしてくるけれど、
どうしてもすぐには食べられなかった。

もうすこし、大事に、とっといていたいんだ。



むかし、ウェルダースオリジナルという、
キャンディのCMがあった。

うろ

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DAY 54:「かぶとむしゼリー」BLUE NOTE 1554 VOLUME ONE / ORGY IN RHYTHM / ART BRAKEY

DAY 54:「かぶとむしゼリー」BLUE NOTE 1554 VOLUME ONE / ORGY IN RHYTHM / ART BRAKEY



息子が、かぶとむしと鈴虫をもらってきた。

かぶとむしは2匹、鈴虫はたくさん。

正直、そこまで家に虫が増えるとは思っていなかった。

なにせ私は、虫がそんなに得意じゃないのだ。

小さい頃からあんまり得意じゃなかった。

かぶとむしを飼った記憶もあまりない。

自然にたくさんいたしね…。

なぜ息子は昆虫好きなのか不思議だ。

そこは遺伝しなかったのだろう。

かぶとむしを育てるのも大変だ。

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DAY 51:「ビールと鈴虫」JIMMY SMITH AT THE ORGAN / Blue Note 1551 /  Volume 1

DAY 51:「ビールと鈴虫」JIMMY SMITH AT THE ORGAN / Blue Note 1551 / Volume 1



仕事から帰ると、夕飯が準備してあって、

なんと、餃子だった。

妻の手作り。最高じゃあないか。

よし、じゃあ冷蔵庫を開けて…と。

ん?

ビールがない。

餃子にビールは不文律だろう。
なくてはならないルール、
いや、マナーではないか?

…というわけで、息子と近所のスーパーまで
ビールを買いに行くことにした。

手をつないで歩く道すがら、
息子のおかげで、仕事をがんばれていること、

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番外編:「あしたは、はれるよ」

番外編:「あしたは、はれるよ」



休職、半日勤務、時短勤務を経て、

仕事は、フルタイムに戻った。

業務内容をかなり軽くしてもらい、
なんとか今のところ、勤務できている。
周りの配慮には、ほんとうに感謝しかない。

しかし以前のようには、まだ働けていない。

その配慮に甘えて、仕事をさせてもらっている。

上長は甘えてもいいと言ってくれていて、
それは本当にありがたいことだが、
やはり周りに対する罪悪感で、
いっぱいになるこ

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DAY 46:「しぼんだ風船」 THE MAGNIFICENT THAD JONES VOL.3  BLUE NOTE 1546

DAY 46:「しぼんだ風船」 THE MAGNIFICENT THAD JONES VOL.3 BLUE NOTE 1546



私は、あまり友達付き合いが
得意な方ではない。

理由は単純明快。
気疲れしてしまうからだ。

いっしょにいる人に
何か迷惑をかけていないか気になるし、
楽しませなければいけないと、
気負ってしまうから。

もちろんその時間は楽しんでいるし、
良いのだけれど、
その時間が過ぎたあと、
風船から空気が抜けたみたいに
なってしまう。
たぶん周りからは、そう見えてない。

仕事でも常に気を張っている

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DAY 41:「娘が、歩いた!」 LEE MORGAN SEXTET  BLUE NOTE 1541

DAY 41:「娘が、歩いた!」 LEE MORGAN SEXTET BLUE NOTE 1541



今日は朝から妻が出かける日。
私は有給を取った日。

つまり、娘とふたりで日中を過ごす一日。

ゆっくりする日。そう決めていた。

娘が起きていればいっしょに遊ぶし、
昼寝をしていれば、自分のしたいことをする。

妻の気遣いもあって、
出かける前に娘は
朝食後の眠り姫になっていた。

遅い朝食を、ゆっくりと時間をかけて摂る。
他の方が書いたnoteに目を通す。

皆、文章力が高くて、引き込まれ

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