サトウトシオ

会社都合で無職になった51歳の男。バツ2。子なし。貯金なし。借金あり。 ソムリエとバリ…

サトウトシオ

会社都合で無職になった51歳の男。バツ2。子なし。貯金なし。借金あり。 ソムリエとバリスタの二刀流であるが、どちらの資格も落ち続けてやっとの及第点、一流にはほど遠い平均以下の技量と知識。そんな男が失業からどう生きていくか。事実を元にしたフィクション日記。

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  • 【失業】第一話「ハローワーク」~第三十八話「出航前夜」まで

    突然の失業からワークショップ、シェアリングコーヒーショップ出店前日まで。

記事一覧

第四十七話「レンタルキッチンの内見」2024年8月21日水曜日昼 晴れ

 昼前。N美さんと私は最寄駅から二駅下った駅に降りた。  NPO法人が区と共同運営しているレンタルキッチンの内見に来たのだ。この事業は、無料起業セミナーで一緒になっ…

サトウトシオ
7時間前
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第四十六話「配られたカードは場に捨て、ドローすることもできる」2024年8月20日火曜日 晴れ

 「配られたカードで勝負するしかないのさ」 と言ったのは、アメリカのビーグル犬だったか?  セリフだけが切り取られていることが多いため、この言葉の真意は作者の意図…

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第四十五話②「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

 蕎麦とコーヒーを合わせる。  一言で言うと簡単だが、どう合わせるかが重要だ。  ソムリエ的な発想だと、まさに蕎麦の横にある食中『茶』としてのペアリングが主軸にな…

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第四十五話①「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

 今日はシェアリングコーヒーショップ出店の日であった。しかし台風7号による交通機関の麻痺などが予想されていた。昨日の段階で出店をキャンセルしていた。  起きてみれ…

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第四十四話「100万円」2024年8月13日火曜日 快晴 朝から猛暑

 「まずは100万円。ーーいかがですか?」  彼女は私の目をまっすぐ見つめて言った。  1時間ほど遡る。  約束の時間の少し前に庁舎ビル11階の面談ルームに着いた。日…

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第四十三話「2回目の出店ーー巫女の霊験」2024年8月9日金曜日 晴れ

 6時30分にアラームが鳴る。二日酔いとは言わないが、身体にアルコールが残っている感覚がある。昨日は相棒の店でのバイトだった。昔馴染みの常連さんにご馳走になってし…

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第四十二話「縁②」2024年8月7日水曜日 晴れのちゲリラ雷雨

 もう一つの縁があった。  noteで、だ。  たまたま同時期にnoteを始めた方。そして奇遇にも同じく会社都合で、ほぼ同時期に失業した方でもあった。summerさんという。(…

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第四十一話「縁①」2024年8月6日火曜日 晴れ

 元々店長だったワインバルチェーンのアルバイトの日だった。私は週頭を担当している。週頭はやはりのんびりと時間が過ぎる。本部としては苦々しく思うだろうが、私のよう…

サトウトシオ
2週間前
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自己紹介「どうして自分をモデルにほぼリアルタイムの小説を書こうと思ったのか?」2024年8月7日水曜日 晴れ

 自分のことを、プロフィール欄とnote記事以外で書くのは初めてです。  少々長くなります。お時間のある時にお読みください。  はじめまして。サトウトシオです。  2…

サトウトシオ
2週間前
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第四十話「起業セミナー修了」2024年8月3日土曜日 晴れ

 7時半にアラームが鳴る。昨日のシェアリングコーヒーショップ初出店の疲労が少し残っていた。今日は起業セミナーの最終回だ。これまではリモートであったが、今日は集合…

サトウトシオ
2週間前
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第三十九話「出航ーー前途多難。しかし視界はすこぶる良好」2024年8月2日金曜日 晴れ

 余裕を持って早く出て良かった。初めての店舗で開店準備に手間取った。WEB上での資料を見ながら、照明の点灯と調整、看板の設置、開店前の清掃を行う。なにぶん借り物の…

サトウトシオ
2週間前
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第三十八話「出航前夜」2024年8月1日水曜日 晴れ

 シェアリングコーヒーショップの出店を明日に控えていた。不思議と緊張はない。準備は前倒しで行っていた。今できる範囲内では万端だ。現場に行けば、細かな修正は必要で…

サトウトシオ
2週間前
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第三十七話「Party!!」2024年7月28日日曜日 快晴 酷暑

 久しぶりの休みだった。失業者に暇なしでアルバイトを掛け持ち(失業手当受給ルール範囲内)し、ワークショップを開催し、そしてシェアリングコーヒーショップへの出展準…

サトウトシオ
3週間前
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第三十六話「未来から現在を観るーーInstagram悪戦苦闘」2024年7月25日木曜日 晴れのち夕立

 ワークショップが終わり、次はシェアリングコーヒーショップの出店が控えている。8月の第1週と2週の昼の部を1日ずつ抑えてある。  コーヒー豆は購入済み。クッキーは船…

サトウトシオ
3週間前
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第三十五話「能天気」2024年7月22日月曜日 晴れ時々ゲリラ豪雨

 ワークショップの翌朝。身体が重い。打ち上げで飲み過ぎたわけではない。アルコールの鈍重さではなく、心地いい疲労と熱気が籠った重さだった。  できることならこのま…

サトウトシオ
4週間前
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第三十四話「ワークショップ」2024年7月21日日曜日 快晴

 アラームよりだいぶ早く目覚めた。緊張はしていないが、気持ちは昂っているらしい。  大切な1日になる。思考を鈍らせたくない。朝食はヨーグルトとプロテイン、小さなマ…

サトウトシオ
1か月前
6
第四十七話「レンタルキッチンの内見」2024年8月21日水曜日昼 晴れ

第四十七話「レンタルキッチンの内見」2024年8月21日水曜日昼 晴れ

 昼前。N美さんと私は最寄駅から二駅下った駅に降りた。
 NPO法人が区と共同運営しているレンタルキッチンの内見に来たのだ。この事業は、無料起業セミナーで一緒になった受講生ーーいうなれば同期かーーの方から紹介していただいたものだ。これもまた縁だろう。
 事前に動画や画像で見てはいるが、どうにもイメージが湧かない。立地や周辺環境も知りたかった。問い合わせフォームから連絡をとり、今日の内見となった。

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第四十六話「配られたカードは場に捨て、ドローすることもできる」2024年8月20日火曜日 晴れ

第四十六話「配られたカードは場に捨て、ドローすることもできる」2024年8月20日火曜日 晴れ

 「配られたカードで勝負するしかないのさ」
と言ったのは、アメリカのビーグル犬だったか?
 セリフだけが切り取られていることが多いため、この言葉の真意は作者の意図通り広まっているかはわからない。
 多くの場合、『置かれた状況や環境を恨むより、自分の能力を活かすべきだ』というような自己啓発的な名言か、もしくは『今の状況や環境、自分の性格や能力や見た目は変えたくても変えられない』というような冷めた諦観

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第四十五話②「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

第四十五話②「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

 蕎麦とコーヒーを合わせる。
 一言で言うと簡単だが、どう合わせるかが重要だ。
 ソムリエ的な発想だと、まさに蕎麦の横にある食中『茶』としてのペアリングが主軸になる。
 事実、ネットで検索してみると蕎麦とコーヒーを売りにしているお店は意外とある。しかし、あくまでも食後のコーヒー、もしくはカフェ機能もあるお蕎麦屋さん、というやり方だ。食中茶としてのコーヒーと蕎麦の組み合わせは、少なくとも私は見つけら

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第四十五話①「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

第四十五話①「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

 今日はシェアリングコーヒーショップ出店の日であった。しかし台風7号による交通機関の麻痺などが予想されていた。昨日の段階で出店をキャンセルしていた。
 起きてみれば雨は降っているものの風はなく、災害にはほど遠かった。肩透かしを食ったわけだが、災害はなかったのだから良しとしよう。
 さて、時間ができたわけだ。YouTubeを観たり、N美さんの作り置きおかずで昼から飲もう、という気にはならなかった。

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第四十四話「100万円」2024年8月13日火曜日 快晴 朝から猛暑

第四十四話「100万円」2024年8月13日火曜日 快晴 朝から猛暑

 「まずは100万円。ーーいかがですか?」

 彼女は私の目をまっすぐ見つめて言った。

 1時間ほど遡る。
 約束の時間の少し前に庁舎ビル11階の面談ルームに着いた。日の出と同時に猛暑の朝だ。エアコンが効いているのに汗がひかない。行政施設は断固として28度設定を崩さないようだ。
 手拭いがすぐに使い物にならなくなった。鞄の中にもう一枚あるが、それも時間の問題だろう。我慢して用をなさない手拭いで、

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第四十三話「2回目の出店ーー巫女の霊験」2024年8月9日金曜日 晴れ

第四十三話「2回目の出店ーー巫女の霊験」2024年8月9日金曜日 晴れ

 6時30分にアラームが鳴る。二日酔いとは言わないが、身体にアルコールが残っている感覚がある。昨日は相棒の店でのバイトだった。昔馴染みの常連さんにご馳走になってしまった。頭痛薬を噛み砕き、大量の水で漢方薬の五苓散を流し込む。刺激的な苦味に美味さを感じるのは、身体が欲している証拠だ。
 二日酔い、いや、アルコール疲れは体内水分量のバランスを欠いてるのが原因のひとつだ。そのバランス調整に五苓散は効く。

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第四十二話「縁②」2024年8月7日水曜日 晴れのちゲリラ雷雨

第四十二話「縁②」2024年8月7日水曜日 晴れのちゲリラ雷雨

 もう一つの縁があった。
 noteで、だ。
 たまたま同時期にnoteを始めた方。そして奇遇にも同じく会社都合で、ほぼ同時期に失業した方でもあった。summerさんという。(※summerさんのnoteへのリンクです)
 おそらく#失業とか#無職などのキーワードでおすすめに出ていたのであろう。なんの気無しに記事をタップした。
 コピーライターであったそうだ。#失業#無職のキーワードがあるが前向き

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第四十一話「縁①」2024年8月6日火曜日 晴れ

第四十一話「縁①」2024年8月6日火曜日 晴れ

 元々店長だったワインバルチェーンのアルバイトの日だった。私は週頭を担当している。週頭はやはりのんびりと時間が過ぎる。本部としては苦々しく思うだろうが、私のような老頭児にはちょうどいい。ガツガツ営業せず、常連さんに甘えさせてもらっている。
 店長時代からの常連さんが何人か顔を出してくれた。そのうちの一人にひとみさんがいた。
 しっとりとした声で話す、樹木を思わせる柔らかな香水を纏う女性だ。
 都内

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自己紹介「どうして自分をモデルにほぼリアルタイムの小説を書こうと思ったのか?」2024年8月7日水曜日 晴れ

自己紹介「どうして自分をモデルにほぼリアルタイムの小説を書こうと思ったのか?」2024年8月7日水曜日 晴れ

 自分のことを、プロフィール欄とnote記事以外で書くのは初めてです。
 少々長くなります。お時間のある時にお読みください。

 はじめまして。サトウトシオです。

 2024年4月末に失業し、多くの方に支えられながらなんとか生活しております。ありがとうございます。
 noteユーザーの方からいただく「スキ」やお書きになる記事そのものも励みになり、また前向きになる活力にもなっております。ありがとう

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第四十話「起業セミナー修了」2024年8月3日土曜日 晴れ

第四十話「起業セミナー修了」2024年8月3日土曜日 晴れ

 7時半にアラームが鳴る。昨日のシェアリングコーヒーショップ初出店の疲労が少し残っていた。今日は起業セミナーの最終回だ。これまではリモートであったが、今日は集合研修形式で行われる。遅刻はみっともない。
 会場は区の施設の大型会議室。アイランド型に机がまとめられている。8島ある。ひとつの島に5-6名。計40-50名か。思った以上に大きいセミナーだ。指定された島に着く。
 定刻になりセミナーが始まる。

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第三十九話「出航ーー前途多難。しかし視界はすこぶる良好」2024年8月2日金曜日 晴れ

第三十九話「出航ーー前途多難。しかし視界はすこぶる良好」2024年8月2日金曜日 晴れ

 余裕を持って早く出て良かった。初めての店舗で開店準備に手間取った。WEB上での資料を見ながら、照明の点灯と調整、看板の設置、開店前の清掃を行う。なにぶん借り物の店舗。備品類は全てシェアリングコーヒーショップの財産であり、他出店者との共有物なのだ。取り扱いは慎重になる。
 続いてInstagramの投稿を済ませる。センスが無いなりに作り込みたいのだが、時間がない。心残りのまま投稿する。
 準備万端

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第三十八話「出航前夜」2024年8月1日水曜日 晴れ

第三十八話「出航前夜」2024年8月1日水曜日 晴れ

 シェアリングコーヒーショップの出店を明日に控えていた。不思議と緊張はない。準備は前倒しで行っていた。今できる範囲内では万端だ。現場に行けば、細かな修正は必要であろうが、何事もそんなものだ。想定と現場は違う。
 初日はおそらく、備品やオペレーションの確認、Instagram用の画像収集の時間になるだろう。それでいい。周りの助けもあって忙しくさせてもらっているが、それがなければ、本来は毎日が日曜日の

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第三十七話「Party!!」2024年7月28日日曜日 快晴 酷暑

第三十七話「Party!!」2024年7月28日日曜日 快晴 酷暑

 久しぶりの休みだった。失業者に暇なしでアルバイトを掛け持ち(失業手当受給ルール範囲内)し、ワークショップを開催し、そしてシェアリングコーヒーショップへの出展準備。
 失業、無職の海に放り出されて呆然としながらも多くの支えの中、ずっと動き続けていた。
 出店準備も前倒しでやっていた。お陰でぽっかりと空いた日曜日。
 私とN美さんは横浜山下埠頭に来てきた。
 それぞれがラッパーでありDJである3人が

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第三十六話「未来から現在を観るーーInstagram悪戦苦闘」2024年7月25日木曜日 晴れのち夕立

第三十六話「未来から現在を観るーーInstagram悪戦苦闘」2024年7月25日木曜日 晴れのち夕立

 ワークショップが終わり、次はシェアリングコーヒーショップの出店が控えている。8月の第1週と2週の昼の部を1日ずつ抑えてある。
 コーヒー豆は購入済み。クッキーは船長から。ワインの選定はできている。メニューも作った。機器はショップの貸し出しのものを使う。当日、現場に行きOpenの看板を出すだけだ。
 とは、ならない。
 告知、広告、宣伝作業である。

 自分の幸せとお客様の幸せを到達すべき山頂とす

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第三十五話「能天気」2024年7月22日月曜日 晴れ時々ゲリラ豪雨

第三十五話「能天気」2024年7月22日月曜日 晴れ時々ゲリラ豪雨

 ワークショップの翌朝。身体が重い。打ち上げで飲み過ぎたわけではない。アルコールの鈍重さではなく、心地いい疲労と熱気が籠った重さだった。
 できることならこのままベッドで微睡んでいたいが、無職に暇なしだ。バイトのワインバルに行かねばならなかった。
 バイト先は、ワークショップ会場であったレンタルスペースの斜め前にある。手近なところで済ませたわけだが、ホームタウンとはそういうものだろう。
 汗をかき

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第三十四話「ワークショップ」2024年7月21日日曜日 快晴

第三十四話「ワークショップ」2024年7月21日日曜日 快晴

 アラームよりだいぶ早く目覚めた。緊張はしていないが、気持ちは昂っているらしい。
 大切な1日になる。思考を鈍らせたくない。朝食はヨーグルトとプロテイン、小さなマフィンをひとつだけとした。
 大型スーツケース二つに機材や配布資料、そして販売ブースのクッキーと什器がパッキングされている。N美さんと二人で手分けして持つ。それぞれがさらにリュックを背負っている。重い。
 玄関ドアを開けると、猛暑日の温気

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