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第三十九話「出航ーー前途多難。しかし視界はすこぶる良好」2024年8月2日金曜日 晴れ

 余裕を持って早く出て良かった。初めての店舗で開店準備に手間取った。WEB上での資料を見ながら、照明の点灯と調整、看板の設置、開店前の清掃を行う。なにぶん借り物の店舗。備品類は全てシェアリングコーヒーショップの財産であり、他出店者との共有物なのだ。取り扱いは慎重になる。
 続いてInstagramの投稿を済ませる。センスが無いなりに作り込みたいのだが、時間がない。心残りのまま投稿する。
 準備万端整った。いよいよ開店だ。
 開店直後に一人のご来店があった。素直に嬉しい。
 「コーヒーが飲みたくて」と。リモートワークなのだろうか。冷房で身体が冷え、強張っている。リラックスしたいともおっしゃった。
 私が想定したペルソナに近い男性で、少し驚く。
 私は、カフェインレスコーヒーはリラックスするにはちょうどいいですよ、と伝えた。
 電気ケトルを保温から湯温90℃に合わせる。
 コーヒー豆を計量し、グラインダーへ。開店前に最終レシピ確認は行っていた。問題ない。
 ドリッパーにフィルターをセット、お湯を通してフィルターを洗いつつドリッパーとサーバーを温める。温めたお湯を捨て、フィルターに粉を落とす。
 粉を均し、第一投目のお湯を注ぐ。全ての粉にお湯が触れるように撹拌。一分間の蒸らしの後、第二投目。30秒後に三投目。さらに30秒後に四投目。いずれも全ての粉にお湯が触れることを意識してケトルをコントロールする。そして注ぎ切ったら、最後にもう一度撹拌。
 こうすることで、豆の持つ個性を全て引き出すことができる。
 シェアリング出店での最初の一杯。会心の出来だ。飲まなくてもわかる。私にとっての至福の瞬間でもある。
 提供したコーヒーは喜んでもらえたようだ。身体の強張りは取れ、眠気も出てきたという。リラックスできたようで良かった。
 その後、来店者はぱったりと止まった。
 ショップ本体のスタッフからも、初めのうちは宣材写真を撮り溜める時間になるだろうとアドバイスを受けていた。外観、店内、商材の写真を撮っていく。
 他出店者の方がお一人、そしてありがたいことに遠方にも関わらず友人が一人来てくれた。
来店者は3人。売上は1500円だった。純粋な来店者数は開店直後のお一人ということになる。
 厳しい。
 しかし、それでいい。想定内だ。
 いいものを並べているだけでお客様は来ない。わかっていた。
 認知から来店。そしてリピート。この動線を作らなくてはならない。
 前途は多難だ。
 問題は山積みだが、それぞれはっきりしている。ひとつずつ解決すればよい。
 視界は良好なのだ。

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