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第三十七話「Party!!」2024年7月28日日曜日 快晴 酷暑

 久しぶりの休みだった。失業者に暇なしでアルバイトを掛け持ち(失業手当受給ルール範囲内)し、ワークショップを開催し、そしてシェアリングコーヒーショップへの出展準備。
 失業、無職の海に放り出されて呆然としながらも多くの支えの中、ずっと動き続けていた。
 出店準備も前倒しでやっていた。お陰でぽっかりと空いた日曜日。
 私とN美さんは横浜山下埠頭に来てきた。
 それぞれがラッパーでありDJである3人がhip-hopユニットとして活動している。そんなユニットの野外イベントーー「パーティー!」とメンバーの一人は言ったーーがあった。
 3人はそれぞれかなりのビッグネームなのだが、急に決まったイベントーーパーティーだったようで、野外とはいえ比較的小規模だった。
 定刻後、ユニットメンバーの一人が現れ、MCの後ゆるゆると彼のプレイが始まる。
 来場者はまだ疎らだ。メンバーはそれぞれDJもやる。3人のプレイのあと、ユニットのパフォーマンスというMCがあった。長丁場だ。ファンもそのタイムスケジュールに合わせて来場時間を調整しているようだ。
 彼のMIXは穏やかで、オーディエンスのノリを探っている。横浜や夏にちなんだナンバーが続く。私たちはテント下のベンチに腰を下ろし、瓶ビールとシードルを傾けながら軽く肩を揺らす。
 彼の持ち時間が進むにつれて、会場を温めるように徐々にアップテンポにしていく。
 身体と会場が温まったところで紅一点の女性ラッパーへタッチ。彼女は一転してアーバンな落ち着いたナンバーのMIXだった。横浜の夕焼けに相応しい。
 DJプレイの最後を飾るのはユニットのリーダー的存在のラッパー。彼のスタイルは変則的で彼自身でさえ先が読めないように見える。その破天荒さをさらに楽しむためのギャップを演出していたのだろう。
 そして、いよいよ重鎮ラッパーのDJプレイだ!
 キャラクターもののくたびれたTシャツにボロボロのデニム、へたって薄くなったビーサンという出で立ちの重鎮ラッパー。ふざけているとしか思えない立ち居振る舞いとMC。それでも眼がギラリと光っていて、ゆるさの中にも緊張感がある。緩急が激しく、ノリを探られていたオーディエンスはいつからか、彼のパフォーマンスに食らいつくために眼と耳を彼に集中させていく。
 オーディエンスが一体になった時に、ユニットのパフォーマンスに突入する。
 これまでに横揺れ縦揺れでかなり汗をかいていたのであるが、今度はHOPが入る!半世紀生きた人間にはキツイ。キツイが止まらない!
「みんなー!手を上げろーー!!」
ステージから煽られる。五十肩で上がらない。が、上げる!振る!
 右肩が軋む。
 右肩が悲鳴を上げる。
 それでも振り続ける。
 語りかけるようなラップに、シティポップなラップ、そして重鎮の洪水のようなラップ。
 横浜の海風に乗って、会場を埋め尽くす言葉たち。

 楽しい。

 失業した。何も持っていなかった。
 N美さんをはじめ多くの人に支えられて、なんとか生きていた。動いてきた。
 大きな不安はなかった。夜もよく寝られた。
 それでもずっと考えていた。気が休まらなかった。
 今夜、何も考えずに音楽と繰り出されるパンチラインに身を任せた。頭の中は空っぽだった。

 隣りを見ると、N美さんも曲に合わせて身体を揺らし踊っている。
 パーティーだ!
 今夜だけは失業者もお休みだ。








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