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【失業】第一話「ハローワーク」~第三十八話「出航前夜」まで

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突然の失業からワークショップ、シェアリングコーヒーショップ出店前日まで。
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第三十八話「出航前夜」2024年8月1日水曜日 晴れ

第三十八話「出航前夜」2024年8月1日水曜日 晴れ

 シェアリングコーヒーショップの出店を明日に控えていた。不思議と緊張はない。準備は前倒しで行っていた。今できる範囲内では万端だ。現場に行けば、細かな修正は必要であろうが、何事もそんなものだ。想定と現場は違う。
 初日はおそらく、備品やオペレーションの確認、Instagram用の画像収集の時間になるだろう。それでいい。周りの助けもあって忙しくさせてもらっているが、それがなければ、本来は毎日が日曜日の

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第三十七話「Party!!」2024年7月28日日曜日 快晴 酷暑

第三十七話「Party!!」2024年7月28日日曜日 快晴 酷暑

 久しぶりの休みだった。失業者に暇なしでアルバイトを掛け持ち(失業手当受給ルール範囲内)し、ワークショップを開催し、そしてシェアリングコーヒーショップへの出展準備。
 失業、無職の海に放り出されて呆然としながらも多くの支えの中、ずっと動き続けていた。
 出店準備も前倒しでやっていた。お陰でぽっかりと空いた日曜日。
 私とN美さんは横浜山下埠頭に来てきた。
 それぞれがラッパーでありDJである3人が

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第三十六話「未来から現在を観るーーInstagram悪戦苦闘」2024年7月25日木曜日 晴れのち夕立

第三十六話「未来から現在を観るーーInstagram悪戦苦闘」2024年7月25日木曜日 晴れのち夕立

 ワークショップが終わり、次はシェアリングコーヒーショップの出店が控えている。8月の第1週と2週の昼の部を1日ずつ抑えてある。
 コーヒー豆は購入済み。クッキーは船長から。ワインの選定はできている。メニューも作った。機器はショップの貸し出しのものを使う。当日、現場に行きOpenの看板を出すだけだ。
 とは、ならない。
 告知、広告、宣伝作業である。

 自分の幸せとお客様の幸せを到達すべき山頂とす

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第三十五話「能天気」2024年7月22日月曜日 晴れ時々ゲリラ豪雨

第三十五話「能天気」2024年7月22日月曜日 晴れ時々ゲリラ豪雨

 ワークショップの翌朝。身体が重い。打ち上げで飲み過ぎたわけではない。アルコールの鈍重さではなく、心地いい疲労と熱気が籠った重さだった。
 できることならこのままベッドで微睡んでいたいが、無職に暇なしだ。バイトのワインバルに行かねばならなかった。
 バイト先は、ワークショップ会場であったレンタルスペースの斜め前にある。手近なところで済ませたわけだが、ホームタウンとはそういうものだろう。
 汗をかき

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第三十四話「ワークショップ」2024年7月21日日曜日 快晴

第三十四話「ワークショップ」2024年7月21日日曜日 快晴

 アラームよりだいぶ早く目覚めた。緊張はしていないが、気持ちは昂っているらしい。
 大切な1日になる。思考を鈍らせたくない。朝食はヨーグルトとプロテイン、小さなマフィンをひとつだけとした。
 大型スーツケース二つに機材や配布資料、そして販売ブースのクッキーと什器がパッキングされている。N美さんと二人で手分けして持つ。それぞれがさらにリュックを背負っている。重い。
 玄関ドアを開けると、猛暑日の温気

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第三十三話「カウントダウンダウン」2024年7月20日土曜日 曇りのち大雨

第三十三話「カウントダウンダウン」2024年7月20日土曜日 曇りのち大雨

 いよいよ明日、ワークショップだ。
 突然の失業から何かやらねばと思い、自分で企画したワークショップ。
 船長とN美さんをはじめ、レンタルスペースのオーナー、あんこちゃんに助けてもらってようやく漕ぎ着けたイベント。
 カウントダウンは始まっている。
 準備は万端だ。今日は搬入物の最終チェック。そして併設する船長のクッキーの販売ブース用焼き菓子をピックアップしなくてはならない。

 私は朝イチから昼

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第三十二話「覚悟とロゴ」2024年7月17日水曜日 晴れ

第三十二話「覚悟とロゴ」2024年7月17日水曜日 晴れ

 私鉄沿線の駅に降りた。ワークショップの会場となるレンタルスペースのある街だ。最終的な下見と、什器のレイアウトやプロジェクターの動作確認のためだった。
 約束までまだ時間があった。N美さんと昼飯を食おう、となった。
 昨日の雨の湿気がわずかに残る空気をかき分けて、地元で有名な町中華の店に向かう。
 創業60年近くになるそうだ。店主はまだ現役だが、営業時間は短縮している。開店から閉店までずっと中華鍋

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第三十一話「起業セミナーと焙煎体験」2024年7月13日土曜日 晴れ

第三十一話「起業セミナーと焙煎体験」2024年7月13日土曜日 晴れ

 世間は三連休の初日。失業者にとっては毎日が連休。という呑気な状況でもない。
 8時にアラームが鳴る。今日は区が主催する無料起業セミナーの初日なのだ。
 時節柄リモートで行われる。それでも髭を剃り、清潔感のあるTシャツに着替えておく。間違っても下は寝巻きのままなんてことはしない。
 定刻に始まった。内容は初回ということもあり、起業にあたっての準備の準備というようなものだった。すでに起業した者、起業

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第三十話「五十肩」2024年7月12日金曜日 雨

第三十話「五十肩」2024年7月12日金曜日 雨

 猛暑、酷暑も雨には敵わないらしい。気温は上がらずやや過ごしやすい。涼しい風が吹いている。
 しかし、九州や中国地方の大雨は災害クラスだったそうだ。このあと関東も警戒が必要という。何事もないといいのだが。
 小雨の中、近所のリハビリクリニックに来ている。
 何週間か前から右肩に痛みが走るようになっていた。可動域も狭くなったように感じる。なんということはない動きで悶絶してしまうこともあれば、なんの違

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第二十九話「自分を信じる」2024年7月6日土曜日 曇りのち雨

第二十九話「自分を信じる」2024年7月6日土曜日 曇りのち雨

 エスプレッソ抽出の基本的な流れは

 1.ドーシング
 グラインダーからポルタホルダーにコーヒーの粉を入れる動作

 2.ドーシングアップ
 ポルタホルダー内の粉を詰める動作。粉に触れずにグラインダーのフォーク状の部品でホルダーを叩き、粉を上下方向に詰める

 3.レベリング
 山状の粉をほぼ水平に均す動作。指や掌を使うこともある。ホルダーの前後左右を叩いて粉を揺らしながら均すこともある。

 

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第二十八話「自分を疑う」2024年7月6日土曜日 曇りのち雨

第二十八話「自分を疑う」2024年7月6日土曜日 曇りのち雨

 朝から暑い。予報では気温は35℃を超えるそうだ。連日の猛暑。こういう日だけは失業者で良かったと思う。
 失業者ではあるが、今日は中央区のオフィス街にあるカフェに来ていた。船長のクッキーをコラボ販売してくれるカフェ。先日挨拶と下見を済ませていた。今日がそのコラボイベント当日。私は手伝いのボランティアだ。
 一週間の旅行にも耐えられる大きさのスーツケースに、いっぱいのクッキーと焼き菓子、陳列用の什器

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第二十七話「失業保険終了まで、あと307日」2024年7月3日水曜日 快晴

第二十七話「失業保険終了まで、あと307日」2024年7月3日水曜日 快晴

 2回目の受給認定日。受付時間は9:30から10:00と決まっている。罰則はないが時間くらいは守りたい。
 例によって、運動不足解消のため30分かけて歩くことにした。曇り空だが朝から気温も湿度も高い。じっとりと粘つく空気が汗を誘う。
 二階に行き、認定の書類の確認を受ける。アルバイトを3つ掛け持ちしているので、同じ書類が3通。煩雑だ。
 担当したのは感じのいい若者だ。3通の書類を確認し、不備のある

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第二十六話②「ペルソナー男性」2024年7月1日月曜日 曇り

第二十六話②「ペルソナー男性」2024年7月1日月曜日 曇り

 続いて、男性のペルソナ作成に取り掛かった。

【ペルソナー男性】 
氏名:照苑聡太(てるぞの そうた)
年齢:38歳
出身地:静岡県清水市
住まい:出店先徒歩圏内。
    最寄り駅から徒歩10分
    家賃75000円
家族 :実家に両親。健在。
    父は市役所職員
    母は専業主婦
    弟がひとり。
    静岡県内で会社員、一人暮らし
    家族とは疎遠であるが、
    

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第二十六話①「ペルソナー女性」2024年7月1日月曜日 曇り

第二十六話①「ペルソナー女性」2024年7月1日月曜日 曇り

 ペルソナ。元々は舞台役者が被る仮面のことをそう呼んだらしい。
 心理学では社会生活を営むうえで演じる自身のキャラクターのことを指す。やはり仮面だ。
 マーケティング用語では、「20代男性」「⚪︎⚪︎に住む人」「貯蓄が⚪︎⚪︎円ある人」などのターゲット層をさらに掘り下げ、あたかも生身の、生活のある人間として設定されたキャラクターだ。
 そのキャラクターへ向けて商品開発、広告宣伝手法、その戦略、空間

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