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第四十六話「配られたカードは場に捨て、ドローすることもできる」2024年8月20日火曜日 晴れ

 「配られたカードで勝負するしかないのさ」
と言ったのは、アメリカのビーグル犬だったか?
 セリフだけが切り取られていることが多いため、この言葉の真意は作者の意図通り広まっているかはわからない。
 多くの場合、『置かれた状況や環境を恨むより、自分の能力を活かすべきだ』というような自己啓発的な名言か、もしくは『今の状況や環境、自分の性格や能力や見た目は変えたくても変えられない』というような冷めた諦観の趣旨で使われることが多いようだ。
 どちらにしても、私はいつも思う。
 人生は、手札一枚の、運と駆け引きだけで戦うインディアン・ポーカーではないだろう、と。
 人生はポーカーやブリッジや麻雀のような物だ。
 配られたカード一枚だけじゃない。そしてカードは場に捨て、新たにドローすることもできるのだ。
 私は「仕事」というカードを捨てざるを得ない状況だった。そして代わりに配られたのが「失業」だ。「仕事」はとても重要なカードだったが、だからこそ「失業」には「手当」と「時間」のカードが付いてきた。
 「時間」は強いカードだ。「カネ」と同じく誰もが欲しがるカードだが、普通の勤め人には容易には手に入らない。
 私はこの「時間」を使って、まず心身の調子を整えた。よく寝て、規則正しく食べた。結果、「健康」のカードを得た。
 「時間」のカードは小出しで使える。私はこれで「情報」を得る。区の公式アドバイザーによる無料相談、セミナー参加、不動産物件の情報、シェアリングカフェの情報の収集。これも勤め人になかなかできないことだ。
 次に、元々持っていたカードを見てみる。
 「N美さん」という美しいカードがある。
「船長」という途轍もなく巨大な守護神のようなカードも。
 「相棒」という心優しいカード、「あんこちゃん」「ひとみさん」「summerさん」という秀でたスキルを持つカード。
 そして、古くから私を支えてくれているアイコさんをはじめとする常連さんというカード。
 これらのカードは元々持っていたものだ。そして手放すことなど考えられないカードたち。
 「失業」「貯金無し」「五十過ぎ」という不安要素のカードは非常に目立つ。そして捨てたくても簡単には捨てることができないカード。
 しかし、私は強くて優しいカードをたくさん持っていた。
 私はこのカードで勝負する。
 「時間」を使い「情報」を得、「働い」て「資金」を作る。
 「情報」と「N美さん」で、新しいシェアリングカフェをやることもできるだろう。
 私と「ひとみさん」でコラボができるかもしれない。
 「あんこちゃん」と「summerさん」でクリエイティブを作ることの可能だろう。
 常連さんというカードは、これらのカードに力を与えてくれる。
 カードという表現は、あまりにも不遜だ。
 敬愛する仲間であり、友人たち。

 「配られたカードで勝負するしかない」

この言葉に、私はこう続けよう。

 「カードは場に捨て、新たにドローすることもできる。もちろん捨てたくても捨てられない負のカードもあるが、場合によってはそれは正の力を持つこともある。組み合わせ次第では役を作ることもでき、その役はまた新しいカードになる」と。

 何よりも、人生は数ターンで決まる勝負じゃない。
 人生を勝負というなら、長く続くターンのやりとりを楽しんでいる者こそが勝利者だ。 

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