見出し画像

第四十五話①「蕎麦とコーヒーを合わせる」2024年8月16日金曜日 雨

 今日はシェアリングコーヒーショップ出店の日であった。しかし台風7号による交通機関の麻痺などが予想されていた。昨日の段階で出店をキャンセルしていた。
 起きてみれば雨は降っているものの風はなく、災害にはほど遠かった。肩透かしを食ったわけだが、災害はなかったのだから良しとしよう。
 さて、時間ができたわけだ。YouTubeを観たり、N美さんの作り置きおかずで昼から飲もう、という気にはならなかった。
 チャレンジしたいことがあったからだ。

 時間は今週頭に遡る。ワインバルチェーンのアルバイトの日、古くからの常連であるアイコさんが来てくれた。アイコさんはシンガーであり、ライブもやっている。何度か足を運んだこともある。応援のつもりだったが、今ではシンガーとしてのアイコさんの、いちファンである。
 そして、彼女は自身で焙煎もするコーヒーラバーでもある。
 私が自分の店を持ちたいというのも、彼女のやりたいことをやるのに誰にも遠慮はいらないというスタンスに憧れてのものだ。彼女の方が歳下だが同じ世代でもある。その若々しい考え方に、私は背中を押されているのである。
 同じ世代なので、悩み事も似通っている。田舎にいる老親のことだ。
「最近、母親がチャーミングに見えてね。なんだかずっと一緒にいたいと思っちゃうの。まだまだ全然健康なんだけどさ、先ってことを考えると、一緒にご飯食べたり過ごしたりする時間は限られてるわけよ。でもだからと言ってわたしが帰っても仕事はないしさー」
私自身も似たような悩みを持っている。
「なかなか難しいですよね」と相槌を打った。
「実家はあるから、ちょっと改装でもしてお蕎麦屋さんでも始めさせようかな?別に週末だけのお店だっていいんだし。で、わたしが時々手伝ってコーヒー出すとか、さ。そうすれば、母の老化防止にもなるし、わたしが一緒にいる時間も増えるし、多少はお小遣いもできるかもしれないし」
と言って彼女は笑った。
「お蕎麦ですか?」
「そう、うちの母親、蕎麦を打つのよ。それが美味しいの!下手なお蕎麦屋さんより美味しいって親戚では評判なのよ。娘のわたしが食べても確かにそう思うくらい」
「いいですね、それ!」
「でも、お蕎麦とコーヒーはヘンよね?」
と彼女は言った。
 いや、と私は思った。
 コーヒーには多くの変数=切り口がある。それを組み合わせれば、無限ともいえる多くのバリエーションを生み出すことが可能な飲み物なのだ。

 蕎麦にコーヒーを合わせるペアリング

 作ってみたい、と思った。

 台風7号は、私にその時間を与えてくれたわけだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?