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心に響きました

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心に響いた記事を入れさせていただきました。
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#小説

【最近読んだ本】幸せの連鎖は自分でつくれる。みっともないから、カッコいいんだ。

【最近読んだ本】幸せの連鎖は自分でつくれる。みっともないから、カッコいいんだ。

昔の私はいつも「幸せになりたい」と思っていた気がする。
そのくせ、幸せになることが怖くて仕方がなかった。自分の存在意義や生まれた意味ばかり考えていた。

小学生の頃から劣等感の塊で、自己否定感が極端に強くて、ダメな自分に嫌気がさしてばかり。
たとえば幸運なことが巡ってきても、「ひとつ幸せになったら、きっとひとつ幸せを失う」と考えていたし、それを口に出してしまうこともあった。

あの人はいいなぁ。い

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リフレイン

リフレイン

 絵の中にいた外面のいい言葉たちを指先に送り届けた。言葉たちが去った部屋を、私はしめやかに片づける。騒々しい言葉たちが鬱陶しくはあったが、言葉のいない部屋はどこか寒々しい。また新しい言葉を迎えるために、私は部屋を設え直した。まるでこれから命を育む子宮のように、柔毛で誂えた絨毯を敷き詰めた。

 言葉たちはノックもせずに入ってくる。そもそもこの部屋に扉は存在しているのだろうか。慌ただしく飛び込んでく

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ピカレスク

ピカレスク

 「本音」はいつも赤いパーカのフードで相貌を覆い隠している。果たして髪が長いのか短いのか、あるのかないのかすらわからない。ひょっとしたら少女ではなく少年なのかもしれない。ボトムスは遭遇するたびに変わるが、アウターには常に赤いフード付きのパーカを着るので結局はいつも同じに見える。 

 「本音」のおかげでと言うべきか狼と狩人のおかげでというべきか、私の指先からは人を害するほどの毒を持った言葉は出てい

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カラサワギ

カラサワギ

 身の内に堰き止められた言葉があって、どうにも外に出ていかないので辟易している。

 帰る気のない客のようにがんとして居座っていて、出て行ってと言いたがったが、本当に出て行っても構わないのかと思うと少し怖くなって言いたいことを引っ込めてしまった。

 咽頭部からの発声では出ていかないことを知っているから、指先からキーボードを通して出て行ってもらおうとした。気が変わらないように気を遣って慎重に頼んだ

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ソンカラク

ソンカラク

 真っ新な部屋に言葉がやってきた。
 礼儀正しく楚々とした振る舞いの美貌の言葉たちの後から、葬列の付き添いのような顔をして粛々と訪れた言葉たちは最初は一様に寡黙だった。影法師のように曖昧で薄っぺらな彼らは先般出ていった言葉たちではなかったかと訝しく思いながらも私は彼らを招き入れた。今度こそハートの女王のお茶会に出席できるぐらいの礼節と機知を身に着けてきたに違いない。

 しかしやがて美貌の言葉たち

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『少女が手にした聲のある絵本』

『少女が手にした聲のある絵本』

いつからだろう…
鳥の歌声
むしの囁き
風に揺れる金属の音色

広げた絵本
文字という聲のカタチ
それが私の知る音だった…

もの心ついたころから一定の音域は聴こえない
聴こえていたのか
聴こえていなかったのかもよくわからない
きっと絵本の聲のカタチから
聴こえている感覚だったのだろう…

誰にも言わず
親にさえも…
気づかれず
自分だけが知る本当の自分
そうやって21年間過ごしてきた
聴こえない

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【短編小説】 僕の指を掴むのは。

【短編小説】 僕の指を掴むのは。

ああ、居たたまれない。

あからさまに「居ても役に立たない」ことがあるなんて。

追い出された訳じゃないけど、外に出た。

飛び出すように来たから上着を持って出なかった。

シャツの襟をなぶるように風が絡みつく。

ああ、寒い。

日差しはあるけど、急に下がった気温と風で体が冷えて来た。

けどな、戻るのもなぁ。

ピュ~っと僕をなぶりに来た風がシャツの襟に何か隠して行った。

カサっとする何か。

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真野さんと吉田くん 1話 晴れのち雨、夕陽のち虹。【短編小説】

真野さんと吉田くん 1話 晴れのち雨、夕陽のち虹。【短編小説】

「雨ですね、真野さん」
僕が言った。
「雨だね、吉田」
真野さんが言った。

朝の天気予報では一日晴天だと言っていた。
だが、オフィスの窓の向こうには、雨雲から降り落ちるザーザー降りの雨。

「日本中の天気予報士さん、怒られちゃいますね」
「うん、誹謗中傷の豪雨だな」
「上手いですね、真野さん」
「だろ、吉田」
ドヤ顔の真野さんが、なんだか可愛い。

真野さんは、職場の三年先輩だ。少しやさぐれた夜

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小説|薔薇垣の聖母子(前)

小説|薔薇垣の聖母子(前)

原罪のとげなき薔薇にかこまれて贄の吾子だく聖母の原罪

「母上ーっ、行ってまいります!」
小さな身体に不釣り合いなほど大きな黒のランドセルを背負って、わたしに声をかける。
「気をつけていってくるのですよ。」
その柔らかな頬にくちびるをよせた。
「はいっ!かならずや生きてもどってまいります。母上!」
給食袋が元気よく揺れ、ドアがパタンと閉まった。
朝恒例の小芝居。

※※※※※※※
結婚して1年が経

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