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心惹かれる本。素敵な読書の記事。

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#本

琥珀の夢 下(著者:伊集院静)

琥珀の夢 下(著者:伊集院静)

著作者名:伊集院静 発行所:株式会社集英社 2020年6月25日発行

喜蔵(信治郎の兄)は、築港へ向かった。やがて春の朝陽が昇る気配がして、空がぼんやり美しい色に染まりはじめていた。堤防沿いを歩くと、旧桟橋の突端に人影が見えた。うしろ姿で弟とわかった。
 
近づくと信治郎の目から大粒の涙がこぼれていた。「喜蔵兄はん。とうとうでけましたで」子供の時分から、どんな時にも涙を見せることのなかった弟があ

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あなたの存在をないがしろにする価値観は、すべて間違い。

あなたの存在をないがしろにする価値観は、すべて間違い。

わたしの日々の楽しみのひとつ。
それは、哲学書を読むことです。

「哲学」と聞くと
少々難しいイメージがありますが
読んでみると、とっても面白い。

本日は、さいきん読んで面白かった
フリードリヒ・ニーチェの哲学について
書いてみようと思います。

不幸は架空の価値観によるもの

わたしたち人間は
架空の価値観に振り回されて
不幸になっている…。

初っ端から、顔面パンチを
くらったような衝撃の内

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「 もうひとつの居場所 」の物語

「 もうひとつの居場所 」の物語

「 逃げ出してしまいたい 」



今、そんな想いを抱いている人がいたら
ぜひ手に取ってみて欲しい本がある。

どこか懐かしく、少し切なく、とびきり温かい、
「もうひとつの居場所」を描いた物語。



雲を紡ぐ
特に、単行本120頁から122頁の
おじいちゃんの言葉、とても好き。

岩手の瑞々しく美しい自然と
糸を紡ぐ職人たちの芯通った心、
親子、夫婦の関係の再構築。
読み進めるにつれて
心が

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孤高の人(著者:新田次郎)

孤高の人(著者:新田次郎)

著作者名:新田次郎 発行所:株式会社新潮社 昭和48年2月27日発行

不世出の登山家、加藤文太郎の話である。プロローグにこうある。「加藤は、日本海に面した美方郡浜坂町に生まれ、十五歳のとき神戸に来て、昭和十一年の正月、三十一歳で死ぬまで、神戸にいた。」

「加藤は、すばらしく足の速い男であった。そのことと、人間的にも、彼は他の追従を許さぬほど立派な男であった。彼は孤独を愛した。山においても、彼の

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ヒマラヤを駆け抜けた男 山田昇の青春譜(著者:佐瀬稔)

ヒマラヤを駆け抜けた男 山田昇の青春譜(著者:佐瀬稔)

著作者名:佐瀬稔 発行所:中央公論社 1997年6月18日発行

山田昇は1950年群馬県沼田市生まれ。世界の8000メートル峰全十四座中9座に登頂し、当時、日本で全峰登頂記録に最も近かった登山家である。

人の悪口をけっして語らず「楽しい山」が大好きで、しかも山に感心のない人の前ではひと言も山を語ることのなかった山田昇という青年は、すべての人々から愛された。

ヒマラヤのルールがある。アタック・

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リボルバー(著者:原田マハ)

リボルバー(著者:原田マハ)

著作者名:原田マハ 発行所:株式会社幻冬舎 令和3年5月発行

高遠冴(たかとおさえ)は、中学2年生の時、自室にゴッホとゴーギャンの絵があった。冴の母は、彼らについて教えてくれた。

「ゴッホはオランダ人、ゴーギャンはフランス人。ふたりとも、19世紀末のパリで、それまでになかった個性的な絵を描こうと意欲を燃やした後期印象派の画家だ。けれど、ふたりの絵は先を行き過ぎていて世の中が追いつかなかった。ゴ

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ジプシー一家と、本の読み聞かせをする図書館員。そこに降る恩寵の物語 ~『本を読むひと』

ジプシー一家と、本の読み聞かせをする図書館員。そこに降る恩寵の物語 ~『本を読むひと』

 パリ郊外の荒れ地に住むジプシーの大家族のもとへ、図書館員のエステールは週に1回、本を読み聞かせるために通い続ける。ジプシーたちは、自由と誇り、家族愛にあふれてはいるものの、文字を読めず、仕事はなく、社会からはじかれて、貧困の底で暮らしていた――。

アリス・フェルネ『本を読むひと』(デュランテクスト 冽子・訳 新潮社)

「本」そして「読書」というものの力を、しなやかに伝えてくれる物語でした。

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暗幕のゲルニカ(著者:原田マハ)

暗幕のゲルニカ(著者:原田マハ)

著作者名:原田マハ 発行所:株式会社新潮社 2018年12月21日発行

ピカソ作品の「ゲルニカ」をピカソの恋人で写真家のドラとピカソ研究者瑤子の目を通して見た作品である。時代は、第二次世界大戦をめぐるものと21世紀のものを交互に描いている。

ピカソは、1937年5月に開催されるパリ万博スペイン館に展示する作品の制作を依頼される。

1936年に勃発したスペイン内乱は、クーデターを起こしたフラン

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清貧の思想(著者:中野孝次)

清貧の思想(著者:中野孝次)

著作者名:中野孝次 発行所:株式会社文藝春秋 1996年11月10日発行

清貧の思想とは何か。中野孝次は、吉田兼好の「徒然草」を例にとり、こう言っている。「世俗的な名誉とか地位とか財産とかに心を弄して、静かに生を楽しむ余裕もなく、一生をあくせく暮すなどは実に愚かだとする考え方」

中野孝次は、この「清貧の思想」を日本の古典から具体的な事例をもって示す。日本の古典とは、西行、兼好、光悦、芭蕉、池大

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ショローに告ぐ、ドライであるということ

ショローに告ぐ、ドライであるということ

『ショローの女/伊藤比呂美』

伊藤比呂美さんのエッセイを読むのは『道行きや』に続いて2回目になる。このエッセイは『婦人公論』に2018年8月28〜2021年5月11日に渡って連載されたものに加筆・再構成された作品だ。

伊藤比呂美さんは1955年生まれ。ということは今年で66歳になられるのだろうか...伊藤比呂美さんはここ3年間は早稲田大学で教壇に立ち、ショロー(初老)を迎えて身体能力の低下を感

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たゆたえども沈まず(著者:原田マハ)

たゆたえども沈まず(著者:原田マハ)

著作者名:原田マハ 発行所:株式会社幻冬舎 令和2年3月発行

画家のゴッホと彼をめぐる三人の画商の話である。三人とはゴッホの四歳年下の弟テオ、日本人画商の林忠正と部下の加納重吉である。ゴッホとテオはオランダ人である。時代は19世紀末。

忠正と重吉は、開成学校でフランス語を学んだ。忠正は重吉の三年先輩である。二人ともフランスへの留学を望んでいた。パリこそは、産業も文化も世界一だと聞く。世界の中心

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キネマの神様(著者:原田マハ)

キネマの神様(著者:原田マハ)

著作者名:原田マハ 発行所:株式会社文藝春秋 2013年7月20日発行

映画を愛する父と娘の物語である。父は、円山郷直(まるやまさとなお、以後ゴウと呼ぶ)79歳。娘は、円山歩(あゆみ)39歳。

歩は、国内有数の再開発企業の東京総合開発株式会社のシネマコンプレックスを中心とした文化・娯楽施設担当課長である。「開発地区に映画館を中心とした文化施設を作る」というたったひとつのアイデアを貫いた結果、昇

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須賀敦子さんの訳が素晴らしいタブッキ2冊 ~ほか翻訳が素敵な海外文学を

須賀敦子さんの訳が素晴らしいタブッキ2冊 ~ほか翻訳が素敵な海外文学を

 アントニオ・タブッキの著書を2冊読んでいて、須賀敦子さんの翻訳にほれぼれしました。

『供述によるとペレイラは……』『島とクジラと女をめぐる断片』の2冊です。

 かなり個性の異なる2冊ですが、どちらも翻訳の日本語が素敵(私の好み)で、するする読めてしまいます。
 あらためて「須賀敦子さん、すごい!」と思いました。

 海外文学を読むときは翻訳との相性もあるので、こういう出合いはとてもうれしいで

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楽園のカンヴァス (著者:原田マハ)

楽園のカンヴァス (著者:原田マハ)

著作者名:原田マハ 発行所:株式会社新潮社 平成26年7月1日発行

早川織絵(おりえ)は、倉敷市の大原美術館の監視員である。織絵は、十七年前、ティム・ブラウンと戦った。ティムは、現在、ニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターとなっており、織絵に至宝「夢」の貸し出しの交渉窓口となることを要請する。

ティムは、十七年前、三十歳でニューヨーク近代美術館のアシスタント・キュレーターであった。ティム

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