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花束みたいな時間を閉じ込めて

公開2日目の土曜日、映画「花束みたいな恋をした」を見た。
世の中がこんなことになる前、公開日が延期になる前から、ずっと楽しみにして公開日を手帳に書き込んだ作品。
同い年で大好きな有村架純と菅田将暉のW主演、繊細さや言葉の選び方が大好きだった"いつ恋"を描いた脚本家。
公式Instagramをフォローして予告映像を何度も見直して、期待値100%で向かった久しぶりの映画館。

ものすごく、良かった。
こんなに期待していったのに、期待以上の作品で、あれから数日経った今でも、ひたすらに感想を検索しては切なく苦しい気持ちに浸ってる。
映画館に行った日には、苦しくて泣きすぎて眠れなかった。
パンフレットを買いたいと思ったことなんて今まで一度もなかったのに、今からでも買いに行きたいと思うような。
とにかく大好きで、あの世界にずっと心を置いていたくて、現実で見かけるモチーフひとつひとつにも苦しい気持ちになってしまう。

*ネタバレも含まれるので、これから見に行く方はご注意ください。

「何かが始まる予感がして、心臓が鳴った」
私は2015年に就職した代だから、麦くんと絹ちゃんはひとつ下であまり年が変わらなくて、それでも私は天竺鼠もきのこ帝国も今村夏子も知らない。
カラオケ屋に見えないカラオケ屋に行ったことはないし、人数合わせでも大人数の初対面のカラオケに誘われるような人にはなれなかった。
それでも、調布駅まで自転車で40分の街で過ごした大学時代を思い出す。
就職氷河期でもないのにと言っている人もいたけれど上手くいかない就活は物凄く身に覚えがあって、あの辛さと背負いながら過ごしている時に、電話越しで泣いていることに気付いて駆けつけてくれる恋人がいるなんて、なんて救われるだろうと思った。

同じものを"やりたい"と思って楽しんでいたことが、次第にどちらかの"やりたい"につきあうことに変わっていく。
一緒に楽しめていたことが、いつしか分け合うことができなくなっていく。
二人にとって大切だったものが、いつの間にか麦くんが邪険に扱うものになっていく。
絹ちゃんが書店で嬉しそうに麦くんに見せようとした雑誌は、もともと麦くんが絹ちゃんに"これ出てるよ"って教えたものだったのに、もう麦くんの視線はそこに届かない。
"やりたくないならやらなくていい"、そう思っても、一緒に楽しめた時間がすごく大好きだったからこそ、それは物凄く距離を感じるきっかけになってしまう。

お葬式の夜、"きっと相手はこうして欲しい"ってわかっているのに、そうしたくない自分の気持ちもしっかり見えてしまってそうできない日のこと、それでも後ろめたさや気まずさから後からフォローしなければと思うこと、その時には相手にとって"そういうタイミング"ではもうなくなっていること。
同じ出来事を前に、同じ気持ちでいられるとは限らない。
でもじゃあ、あの日の二人はどうしたらよかっただろうか。
自分の気持ちに目を瞑って絹ちゃんが麦くんの悲しみに寄り添っていたら、正解だっただろうか。
でもそれはきっと、結局どっちにとっても辛いことのようにも思う。

あんなにとにかく一緒にいたくて、一緒に住んでいるのに駅前で待ち合わせて一緒に帰るくらい大好きだったのに、見える世界が変わって大切に思うものが変わって、もうその大好きだった存在に心が動くことすらなくなって。

「結婚式が終わったら、別れるから」
予告でも見た、この場面。
二人で観覧車に乗って、カラオケに行って、このシーンがとてもつらかった。
以前と変わらないくらい楽しそうに歌う二人を見たあとに始まる、ジョナサンでの「楽しかったね」。
別れるからって決めていてもなかなか言葉を出せなくて、その瞬間が始まる言葉が、美しくも悲しくもある。
別れようとしっかり言葉にしたのは、麦くんからだったのに、それは次第に"結婚しよう"になる。
おわりのはじまりがはじまる瞬間を横目に駆け出した絹ちゃんを追う麦くんを、泣きじゃくる絹ちゃんを抱きしめる麦くんを、別れるってわかっているのに、別れないでなんとかならないのかというひりひりした気持ちで一杯になった。

楽しかった時間があるからこそ、積み重ねた時間が溢れているからこそ、別れることは苦しい。
だけど変わってしまった恋人と居続けることも、同じようにやっぱり苦しい。
だけど二人はあそこでお別れを選択したからこそ、綺麗な恋を綺麗な思い出にすることができたのだと思う。

はじまりはおわりのはじまりだとしたら、結婚は一生できないように感じてしまう。
人は変化を嫌う生き物だけど、変化し続ける生き物でもある。
目の前の誰かの変わりゆく部分には、愛してやまなかった大切な部分が該当してしまうかもしれない。
それでも受け入れて共に生きていくことが、きっと人生を共にするということなのだと思う。
そこには恋愛の綺麗さだけではいられない、もっと重たい覚悟や責任があるのだろう。

本作を見て、麦くんと絹ちゃんのように別れを選択しなくてはならないことになるのが辛すぎるから目の前の人を大切にしようと思ったものの、4年一緒にいる彼との関係はまるで本作の後半部分のようで、私はどちらに舵をきることもできないままだ。

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