#小説
【短編】サーカスナイト(前編)
前書き
このお話はグロテスクな描写を含みます。苦手な方はそっとページを閉じ、大丈夫な方はそのままお読みください。
広場が燃えていました。というのは少年の見間違いで、本当はまっ赤な天幕がぽつねんと、さびれた広場にはられていたのでした。
移動式のサーカス団がやってきたのです。
少年はチケットの列にならび、期待に胸をふくらませながら席につきました。天幕のなかはひんやりとした空気に包まれています。や
【短編】傷口に染みる
くらりときてしまうほどの、血の匂いだった。向かいの患者がまた、自分で自分の身体を切って、ぎゃあぎゃあ喚いている。
「ほら、よく見てくれ、この血を! おれは人間なんだ!」
毛布を蹴りあげて両足を突き出す。脛から指さきにかけて、無数の葉が生い茂り、そのなかに、ぽつぽつと椿の花が咲いていた。彼を押しつける看護婦の腕が、ひとつ、またひとつと増えてゆく。そのうちのひとりに、僕は尋ねた。
「あの、外
【短編】溶けるパラソル
なんとなくその日は、庭で過ごそうと思ったのです。秋桜畑のそばにパラソルを開いて、私は授業でつかう論文を読んでいました。降り注ぐ日射しのせいか、辺りが霞んで見えます。文字を追うのに疲れて、資料から眼を逸らすと、足もとに真っ赤な花が咲いていました。あれはなんの花だろう。あんなに赤々と燃えて。考えにふけっていると、それは小さく跳ねて、砂埃をたてました。私ははっとして顔をあげます。いつの間にか姪の洋子が
もっとみる