廣瀬翼(つー)

大阪出身、東京在住。ひろのぶと株式会社 契約編集者。📖立川談笑『令和版 現代落語論』 …

廣瀬翼(つー)

大阪出身、東京在住。ひろのぶと株式会社 契約編集者。📖立川談笑『令和版 現代落語論』 📚稲田万里『 全部を賭けない恋がはじまれば』 📚田所敦嗣『 スローシャッター』好評発売中 📷プロフィール写真:田中泰延 https://tsubasahirose.jp/

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祖母と約束

 丸い粒の電子音が車内に流れ、女性の声がまもなく次の駅に到着すると告げる。ゆっくりと瞼を上げ、頭をもたせていた窓の外を見ると、田んぼが広がっていた。新幹線が少し…

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飛ばないチキン

 断ることが、苦手だ。  なぜ苦手なのか、いまいち自分でもわからない。  相手が気分を害するのではないか。陰口を言われるのでは、自分が損をするのでは、自分の評価…

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2024年 正月 記録

カバー写真は約2年前、2021年の11月に富山・高岡駅から撮影した夕陽に染まる立山連峰です。 私の父は富山県高岡市の出身。今も祖母が高岡に、ほかにも遠い親戚が何人か高…

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セミ・ファイナル

 今夜も遅くなった。  右手にはコンビニ袋。ジェノベーゼが入っている。早く家に帰って、チンして食べよう。  しかし、今日も肩が凝った。タイピング中の姿勢が前のめり…

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ことばは、まだ、わたしたちの領域だ。

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色彩 〜2023年2月 その1〜

美容室帰り。表参道を歩いた。 交差点には 「THE BIG ISSUE」の販売員がいた。 ここで売っているのは、初めて見た。 最新号を一部購入。 販売員のお兄さんに 「スヌーピ…

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きっと、恋をしていた

「あなた、本当はいい人いるんじゃないの」  祖母の言葉に食べかけの豆苗を詰まらせそうになる。隣では妹がお茶をむせていた。 ・・・  その日、昼前に電話がかかって…

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色彩 〜2023年1月 その2〜

色彩 〜2023年1月 その1〜

浅草を歩いた。 1月末、キンとした空気を ほんわり和らげるような 陽射しのある日だった。 鳩は太陽のぽかぽかを 羽いっぱいにためているかのように ふくふくしていた。 …

泣くことを忘れていた

 泣かない子だった。  涙の理由が分からなかった。  練習をしたのだ。泣かない練習を。  泣きそうになれば、自分をツネる。視線を外して気を逸らし、別のことを考え…

作家になりたかった私へ

9歳の私へ 「20年を経て、今のあなたは小説集と、小説のような膨らみのあるエッセイ集をつくっています」  そう言ったら、驚くでしょうか。やっぱりそうかと思うでしょ…

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鉛筆削り

 我が家には鉛筆削りがない。これまで、特に必要なかったからだ。  普段はシャープペンシルを使う。鉛筆を使うのは、マーク式の試験のときくらいで、それも長らく受けて…

小さな火を灯すように

『メリー・ポピンズ』の楽曲『小さな火を灯せ』を初めて聞いたのは、2019年12月。新横浜の障害者スポーツ文化センター 横浜ラポールにある「ラポールシアター」で行われた…

途絶え

 40日間。更新が翌日になることはあっても、とにかく1日1本分を投稿してきたnoteが、途絶えた。5月28日分の投稿が、翌29日の午前中にも間に合わなかった。  今日2本を夜…

飴玉と死の予感

 飴玉を、飲み込んだ。  飲み込んだというより、ホールインワンというほうが近い。  直径3センチほどはあるべっこう飴。半球体で、梅干しが入っている。まだなめはじめ…

「決める」って、決める。

「決める」って ちょっぴり苦手だなって 思ってた。 不安だから「決める」を先延ばしにして だけど「決める」ができないから不安で ぐーるぐる。 どんどん「決める」がで…

祖母と約束

祖母と約束

 丸い粒の電子音が車内に流れ、女性の声がまもなく次の駅に到着すると告げる。ゆっくりと瞼を上げ、頭をもたせていた窓の外を見ると、田んぼが広がっていた。新幹線が少しずつ減速し、田園の中に大きなイオンモールが見えてくる。

 富山・高岡。最後に来たのは、2019年の年末。この2年で、世界は変わった。けれど窓の外に見える景色は、2年前のそれと何一つ変わっていなかった。

 東京は数日前から急に冷え込んだ。

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飛ばないチキン

飛ばないチキン

 断ることが、苦手だ。

 なぜ苦手なのか、いまいち自分でもわからない。
 相手が気分を害するのではないか。陰口を言われるのでは、自分が損をするのでは、自分の評価が下がるのではないか。後から後悔するのではないか……。明確ではないけれど、何かを恐れているような気がする。

 どんなに足を踏み込むのが怖いことであっても、周囲に押されると、そこに進まない選択をとるほうが怖くなる。自分の意思とは反対に、突

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2024年 正月 記録

2024年 正月 記録

カバー写真は約2年前、2021年の11月に富山・高岡駅から撮影した夕陽に染まる立山連峰です。

私の父は富山県高岡市の出身。今も祖母が高岡に、ほかにも遠い親戚が何人か高岡、氷見にいます。そんな我が家にとっては、ざわつく正月となりました。

けれど、テレビでドラマやバラエティや箱根駅伝を見て、ご飯を食べて、お昼寝をして、家族麻雀をして、お酒を飲んで……と、〝普通〟に正月を過ごしています。

〝普通〟

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セミ・ファイナル

セミ・ファイナル

 今夜も遅くなった。
 右手にはコンビニ袋。ジェノベーゼが入っている。早く家に帰って、チンして食べよう。
 しかし、今日も肩が凝った。タイピング中の姿勢が前のめりだと言われ、背もたれにしっかりもたれるようにしてみたはいいが、なれない姿勢に首が重い。安定した仕事スタイルを確立するには、もうしばらくかかりそうだ。ふぅ、と息をつきながら、首をクキクキと左右に伸ばした。

 その時だった。
 ビュンっと左

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ことばは、まだ、わたしたちの領域だ。

ことばは、まだ、わたしたちの領域だ。

ここ最近、考えていたことがある。

chatGPTが話題。
noteにもAI機能。

最初は、シレッとウソをつく
なんて言われていたchatGPTも
いろいろ学習させれば、
指示の仕方を工夫すれば、
それなりにいいものが出るという。

下調べ、これでOK。
定型文、これでOK。

ちょっとした見出し、
そのまま使うにはまだ甘いけど
最初の案出しは、これでOK。

驚きとともに、ちょっぴり怖かった。

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色彩 〜2023年2月 その1〜

色彩 〜2023年2月 その1〜

美容室帰り。表参道を歩いた。

交差点には
「THE BIG ISSUE」の販売員がいた。
ここで売っているのは、初めて見た。
最新号を一部購入。

販売員のお兄さんに
「スヌーピー好きなんですか?」と聞いたら、
「どうしてわかったんですか?」と言われた。

マフラーも帽子も
全てスヌーピーが付いていたのだから、
どうしてもこうしてもない。

「あ、そうですね」と笑ったお兄さんに
話しかけて良かっ

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きっと、恋をしていた

きっと、恋をしていた

「あなた、本当はいい人いるんじゃないの」

 祖母の言葉に食べかけの豆苗を詰まらせそうになる。隣では妹がお茶をむせていた。

・・・

 その日、昼前に電話がかかってきた。

「あなた、今日は予定は?」
「特には。あれ、ママから検査入院って聞いてるけど、持っていくものとかある?」
「なら恵比寿に出てきてちょうだい。今日、退院したのよ。で、今、恵比寿のいつもの中華のお店にいるから。食べさせてあげるか

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色彩 〜2023年1月 その1〜

色彩 〜2023年1月 その1〜

浅草を歩いた。

1月末、キンとした空気を
ほんわり和らげるような
陽射しのある日だった。

鳩は太陽のぽかぽかを
羽いっぱいにためているかのように
ふくふくしていた。

目的地は、「梅と星」さん。
美味しい梅干しと
羽釜ご飯が食べられるという。

お店は
仲見世通りを浅草寺に向かっていく
途中で、一本入ったところにある。

白い旗に光が差して
もっと白く輝いていた。

一組分待って、すぐに入れた

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泣くことを忘れていた

泣くことを忘れていた

 泣かない子だった。
 涙の理由が分からなかった。

 練習をしたのだ。泣かない練習を。

 泣きそうになれば、自分をツネる。視線を外して気を逸らし、別のことを考える。そうやって泣かないようにした。
 いつしか、泣かない自分が出来上がっていた。
 『帰ってきたドラえもん』を観ても、泣かない。『のび太の結婚前夜』を観ても、泣かない。クラスでイジメ問題があって泣いている子を見ても、泣かない。ケガをして

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作家になりたかった私へ

作家になりたかった私へ

9歳の私へ

「20年を経て、今のあなたは小説集と、小説のような膨らみのあるエッセイ集をつくっています」

 そう言ったら、驚くでしょうか。やっぱりそうかと思うでしょうか。

 でもね、あなたが思っているのとは、ちょっと違うかもしれません。

 まず、「小説集」のほうは、内容がきっと想像しているものと違うでしょう。読んだこともない雰囲気なんじゃないかな。私自身、正直いまでも少し驚いているんですよ。

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鉛筆削り

鉛筆削り

 我が家には鉛筆削りがない。これまで、特に必要なかったからだ。
 普段はシャープペンシルを使う。鉛筆を使うのは、マーク式の試験のときくらいで、それも長らく受けていなかった。

 ところが最近、鉛筆を使うようになった。記事の編集・確認をするとき、シャープペンシルより鉛筆のほうが落ち着いて読めるのだ。なぜ、と聞かれたら、わからない。ただなんとなく、鉛筆がいい。もしかすると柔らかな鉛の書き心地が、文章に

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小さな火を灯すように

小さな火を灯すように

『メリー・ポピンズ』の楽曲『小さな火を灯せ』を初めて聞いたのは、2019年12月。新横浜の障害者スポーツ文化センター 横浜ラポールにある「ラポールシアター」で行われた、NPO法人 心魂プロジェクトのクリスマスフェスティバルでの一幕だった。

 歌っているのは、小学生〜高校生の病児・障害児、きょうだい児、彼らと共に生きる子どもたち10人。車椅子に乗っている子や、酸素ボンベのカートを常に引っ張っている

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途絶え

 40日間。更新が翌日になることはあっても、とにかく1日1本分を投稿してきたnoteが、途絶えた。5月28日分の投稿が、翌29日の午前中にも間に合わなかった。

 今日2本を夜に更新して本数を担保し、「続けている」ということもできる。どこかで本数調整はしたい。

 だけど、やっぱり途絶えさせてしまったなぁという悔しさは拭えない。調子が悪いなと思う日も、とにかく何か更新してきたのに。

 昨日は友人

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飴玉と死の予感

 飴玉を、飲み込んだ。
 飲み込んだというより、ホールインワンというほうが近い。
 直径3センチほどはあるべっこう飴。半球体で、梅干しが入っている。まだなめはじめたばかり。ほとんど、袋から出した途端のサイズのままだった。
 寝っ転がりながら、梅の部分をなめようと思って舌で転がそうとしたら、スポンと喉の奥まで抜けてしまったのだ。そのまま、どこにも当たることもつっかえることもなく、自分の意思ではコント

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「決める」って、決める。

「決める」って、決める。

「決める」って
ちょっぴり苦手だなって
思ってた。

不安だから「決める」を先延ばしにして
だけど「決める」ができないから不安で
ぐーるぐる。
どんどん「決める」ができなくなる。

でも一度「決める」ができたら
その腹をくくれたら
それまでが嘘のように霧が晴れて
視界が明るくなる。
先が見えるようになってくるって
最近知った。

ジェットコースターみたいだ。

乗り込むまではあらぬ不安やドキドキで

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