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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(… もっと読む
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#インド

【読んでみましたアジア本】2024年を前に読んでおきたい、お薦めアジア本

今年最後のアジア本は、恒例の年始年末お薦め本。今年、「読んでみましたアジア本」でご紹介した本の一覧を書き出したところ、なかなか収穫の多い1年であったように思われる。

特に、今後アジア情勢を観察する際に、基礎的知識を身につけるための「教科書」として何度か読み直すだろうと思われる本が数冊入っており、きっと将来、「読んでてよかった…」と思えるときがくると感じている。というか、すでに感じている。

ただ

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【読んでみましたアジア本】生々しい「今」のインドがぎっしり詰まってる/近藤正規『インド−グローバル・サウスの超大国』(中公新書)

この「読んでみました〜」も今までいろんな本を読んできましたが、とうとう、というか、新書も1冊1000円を超える時代になったのか……というのが本書をポチったときの最大の感慨だった。

長らく新書は「1000円以内の知識普及版」的な存在のはず。その新書の価格が一線を超えたことに、日本の物価高もここまできたか、という思いだ。もちろん、物価の変動は無視できない現実なのだが、なんというか、ある種の定番商品の

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【読んでみましたアジア本】若い女性にかぶせて語られる、100年前の志士たちの姿/笠井亮平『インド独立の志士「朝子」』(白水社)

日本では、「アジア」という言葉を聞くとまず「戦争」を思い出す人たちが、多分まだ一定数いると思う。もちろん、そんな「戦争」や「戦後」(だけから)の視点から脱却しようとする動きは明らかにあるし、初めての「アジア」体験がそれ意外だという世代もかなりを占めようになっているので、必ずしも「戦争」絡みの話題がいまだに日本人のアジア視点の中心だといい切るつもりはない。

正直、筆者もアジアといえば戦争の記憶(あ

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【読んでみましたアジア本】興味つきない、東西をつなぐヒンドゥー文化を知る/森本達雄『ヒンドゥー教 インドの聖と俗』(中公新書)

今年もあとわずか。今年読んだ本をとりあげるのは今回が最後となる。

正直、今年読んだ「アジア本」にはなかなか読み応えというか、「手応え」のある本が多かった。「読み応え」は人それぞれだと思うが、ここで「手応え」というのは「こんなことが! ほとんどメディアでは触れられてないよね?」みたいな「発見」が多かったという意味である。

自分が持っている知識を第三者の書籍でなぞったり、確信づけるのもそれはそれで

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【読んでみましたアジア本】インド進出を狙う日本企業にNHK特派員が「インド愛」で応える一冊/広瀬公巳・著『インドが変える世界地図 モディの衝撃』(文春新書)

先日、香港でのジャーナリズムフェローシップに参加したメンバーと、フェローシップ解散後初めてオンラインで集まった。中国のメンバーが出張で参加できなかったことを除くと、約2時間8人のメンバーと、フェローシップ先で知り合ったジャーナリスト留学生の9人で、近況、特に各国のコロナ事情について話をした。

コロナはさまざまな面で多くのマイナス影響を与え、またその苦しみを振りまいたけれども、唯一といって良い利点

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【読んでみましたアジア本】シビレるほどに美味いインドのお話:東京スパイス番長『インドよ!』

牛が我がもの顔で街中を歩き回り、人間は死ねば犬に食われ、焼かれて川に流される。そんな、日本とは全く価値観にどっぷり身を置けば、人生とは何か、自己とは何かを考えざるを得ない。インドとはそういう重たい国なのだ。[水野仁輔]

うむ…「犬に食われ、」という点はさすがになかったものの、わたしの持つインドのイメージも似たようなレベルだった。そして確かにわたしが以前読んで、この「読んでみました本」でご紹介した

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【読んでみましたアジア本】死とクスリとエロを求めて数千里…痛快!/杉山明『アジアに落ちる』

いやー、痛快! こんなアジア旅行記があったとは! この書評号を初めてかなり経ちますが、アジア本をこんなに楽しみながら、ワクワクしながら読んだのは久しぶりかも!

もし、アジアって純真だとか、純粋だとか、気高いとか、「アジアを愛する自分は崇高」だと思っておられる方がおられれば、本編はここで終わりです。ご精読ありがとうございました!

あとがきによると、著者は美術家、そして作家とある。ほかでさらさらっ

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【読んでみましたアジア本】民主主義は進歩しているのかを問う: アルンダティ・ロイ『民主主義のあとに生き残るものは』(岩波書店)

「民主主義のあとに生き残るものは」とは大きく出たものだ。だが、この本は「民主主義のあと」について論じているというよりも、今この瞬間に我われが目にしている「民主主義」の現実とその水面下に行き来するさまざまな、薄汚くも、また強大な連帯関係について語り、「民主主義」に満足している我われに民主主義の本質を説く内容になっている。

運悪くというべきか、体験してもらえて良かったというべきか、著者は2001年3

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【読んでみましたアジア本】「統治」と「多様性」の中で弄ばれる人たち: 廣瀬和司『カシミール/キルド・イン・ヴァレイ』

カシミールのニュースに出遅れてしまい、あちこちのネット書店の一括検索をかけてやっと入手した一冊(今はそれぞれのショップに少数ながら在庫が入っているようである)。お手軽本に比べたら高いけど、読み応えがあった。とにかくインド・カシミールのことをなんにもわかっていない人間にとって、インド側から、パキスタン側から、そしてヒンドゥー住民から、さらには警官から、さまざまな視点の「カシミール問題」の証言をもたら

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【読んでみましたアジア本】暑く湿った空気の中でうごめく「闇」:アルンダティ・ロイ『小さきものたちの神』

「あなたたちの国のことをわたしはほとんど知らないんです。わたしが読んで少しでも理解できるような、おすすめの作家さんはいませんか?」

と、昨年参加したアジアのジャーナリストフェローシップでパキスタンのフェローに尋ねたら、いくつかの名前を教えてくれた。そのうちの一人がこの作者アルンダティ・ロイ。他の作家さんの作品は英語版は見つけたが、まだ日本語になっていないよう。それくらい、わたしたちと彼らの間は開

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【読んでみましたアジア本】インドと中国、二大国の間に横たわる「アジア」事情を知る:タンミンウー『ビルマ・ハイウェイ』(白水社)

◎『ビルマ・ハイウェイ:中国とインドをつなぐ十字路』タンミンウー・著/秋元由紀・訳(白水社)

1年ほど前にジャーナリストの舛友雄大さんに紹介されて手にした本。いつも言葉の少ない舛友さんなので具体的に何が書かれているのかの説明は特になかったのだけれど、勉強家でとにかく目の付け所が現地に根ざしている彼ゆえに、尋ねるよりも「とにかく読んでみなければ始まらない」という気分になったのだった。

なぜにビル

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