マガジンのカバー画像

音楽のこと|Thank you for the music

29
「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
運営しているクリエイター

#折坂悠太

#thank_you_for_the_music について

「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
#thank_you_for_the_music のタグからお探しくださいね。

(ちなみに“thank_you_for_the_music”は大好きなバンド、bonobosの曲からいただいた名前です)

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

分かりにくさ、分かりやすさ

映画のあと、ライブまでの時間を会場近くのプロントで過ごして、ふたたびLINE CUBE SHIBUYAへ。

折坂悠太さんのライブ2日目は、1日目とは違う印象を受けた。1日目よりも冷静なわたしで観られたということが大きかったのだと思う。折坂さんの歌、昨日よりエモいなーとか、お客さんの層がたぶん昨日とは違うなー(ビギナーが多かった感じ?)とか、「感じること」に「考えるこ

もっとみる
【旅日記】東京2024秋|3.折坂悠太・呪文ツアー 〈 LINE CUBE SHIBUYA 10/17 〉

【旅日記】東京2024秋|3.折坂悠太・呪文ツアー 〈 LINE CUBE SHIBUYA 10/17 〉

あなたがくれた、とっておきの呪文

この旅の大きな目的というか、そもそもこのライブを観たくて決めた東京行きだった。LINE CUBE SHIBUYAはわたしの地元からは遠く、行きやすい会場とはいえなかったけれど、タイミングや流れに任せていたらいつの間にか東京に来ることになってしまった。

なんせ東京自体も久しぶりで、LINE CUBEは初めて。渋谷公会堂だった頃は何度か来たと思う。

開場前、列に

もっとみる
「折坂悠太という歌があった」/折坂悠太 FUJI ROCK FESTIVAL'24・ホワイトステージ配信ライブレポート

「折坂悠太という歌があった」/折坂悠太 FUJI ROCK FESTIVAL'24・ホワイトステージ配信ライブレポート

(ライブレポートの練習として。敬称略。)

会場いっぱいにふくらんだ観客と、高まる期待が波のように押し寄せるホワイトステージ。バンドメンバーとともに現れた折坂悠太は、ブラックリネンのような柔らかなセットアップに身を包み、ステージの上、まずは深々と一礼した。

2022年のグリーンステージでも披露された「芍薬」で幕が開ける。いきなりの「芍薬」で一気に盛り上げる!というよりは、沸々としたエネルギーを徐

もっとみる
「ユリイカの呪い」— ユリイカ / 折坂悠太・総特集を読んで —

「ユリイカの呪い」— ユリイカ / 折坂悠太・総特集を読んで —

長い間、わたしの中には、わたしを文芸の道から遠ざけた「ユリイカの呪い」なるものがある。

20年前、ユリイカの中で交わされた会話に大きなショックを受けた。「自死願望ある?」。それは当たり前の感覚として、まるでファッションのように「今日の晩ご飯食べる?」くらいの軽さで交わされていた。

わたしは激しく憤った。こんな会話を平気で交わして、さもカッコイイものかのように紙に載せてばら撒いている雑誌が憎かっ

もっとみる
エッセイ「燃え殻2」

エッセイ「燃え殻2」

まだ明るさの残る帰り道。桜島を右手に、会社に通勤していたあの頃と同じ道を走っていた。

すこぶる疲れていた。
新しく習う仕事を覚えるのに頭をフル回転した一日だった。終わってからも何も考えられず、音楽もかけないままハンドルを握っていた。

はあー。疲れは、思考をネガティブに寄せる。今日とは関係ないはずの不安まで大きくさせた。

気持ちを切り替えたくて、radikoを流すことにした。「お気に入り」に登

もっとみる
【ライブ感想文】「春、の歌を頼りに」折坂悠太ツアー2024あいず《4/17福岡DRUM LOGOS公演》

【ライブ感想文】「春、の歌を頼りに」折坂悠太ツアー2024あいず《4/17福岡DRUM LOGOS公演》

*おことわり
当日の記憶だけを元に書いています。曲目・曲順はその通りでなく、ライブレポ風ではありますが、あくまで個人の感想です。どうぞおおらかに見守っていただけますように。

開場、中へ入る。
フロアに流れるのは、ソウルやジャズが中心のジャンルレスな音楽。開演 30分前で、すでに結構埋まっている。まだ少し見える床の、白と黒の格子模様。白の部分が夕陽色に染まる。

ほの暗いステージの上には、サーキュ

もっとみる

【ことばの栞】2023/12/20
「歌い手とお客さんっていう感覚よりは、何か一つの課題に取り組んでいる同志のような、そんなふうな関係でいられたらうれしいなあと思っています」
(歌手・折坂悠太さん)

エッセイのような詩「ギター」

エッセイのような詩「ギター」

ギターの音が、トゥルトク、ポコポコという水の泡に聴こえて、すっかり魚になった気分だ。透き通った浅い海の底にいる魚か、部屋の隅にある水槽の中の魚か。泡が、水をめぐらす。

ギターはほんものの木でつくられているはずなのに、水の泡は、人工的な音をしている。
海ならばダイバーが近くにいるような、水槽ならば酸素を排出する装置があるような。

私は水の中で、上からの屈折したあかるさを感じている。
上がりたい、

もっとみる
エッセイ「燃え殻」

エッセイ「燃え殻」

仕事からの帰り道、まあまあ長い運転時間に、スマホでradikoを開いた。くたくたの体でも聴けるようなテンションのものがいいなあ。検索しながら目に入ったのは、「燃え殻」さんの番組。なんとなく聴いてみようという気持ちになって、再生ボタンを押した。

ラジオでは、おそらく燃え殻さんが選んでいるのだろう音楽が流れ、彼自身によるエッセイの朗読があった。昔、テレビ局のバックヤードで働いていたこと、その頃は組織

もっとみる
折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

木の濃い茶色が厳かな空気をかもす建物の中に、いくつも並んだきらびやかな白薩摩。
その間から、男はやって来た。

少し猫背ですたすたと歩き、ステージの真ん中に着いたところで顔をあげた。
客を向いた顔を目にした時、私は、あ、緊張するんだ、と思った。
何となく緊張しない人だろうと、勝手な想像を描いていた自分に気づいた。

ギターの前奏に続いて歌がはじまった。
私の身体中、穴という穴から汗が吹き出るのを感

もっとみる