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Dusty Storeroom

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オリジナルの小説を集めたマガジンです。意味は「埃っぽい書庫」。日の当たらない場所でも、文章を読んで楽しめるようにという思いと、あまり明るい作風のものが多くないことから名づけました…
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#小説

Rain Through Umbrella

ぽつり。ぽつり。ざー。ざー。

湿度の高まりとともに気圧が低まり、雨が落ちる。

部活動の練習が中止になって喜ぶ学生や、

傘を持ってきていない学生から漏れるため息、

必死に雨避けを探しながら小走りで移動する社会人。

雨を物ともせず颯爽と自転車で駆け抜ける雨合羽姿の用務員。

止むのを待ちながら与太話に花を咲かせる女子会勢。

様々な顔が見られるこの街で、一人傘を差し歩く。

雨は嫌いじゃない

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Home Town

Home Town

空港から電車へ乗り最寄り駅に降り立った瞬間に感じる、照りつける日差し。

この場所で浴びると、炎天下に晒され汗と血と涙を流した

あの時を巡るような心持ちになる。

電車の中には、精悍な顔つきで参考書をめくる見慣れた制服の高校生がいた。

迫り来る勝負の時に備え、虎視眈々と刀を研ぎ続ける様は

自分の足跡を振り返るような気持ちと、応援の言葉が湧き上がってくる。

最寄り駅からは、バスに揺られる。

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Battlecry

其れはいつも通り、開幕を告げた。

歴史とともに苔生すように錆を纏った鉄の壁が

悲鳴を上げながら姿を隠し、並ぶ人々を戦場へ誘う。

我先にと、血走った目の飢えた獣たちが座席とプラカードを手に取る為に

円滑な足捌きで鉄の壁の先へと雪崩れ込んでいく。

列を為すある者は連れと何気ない言葉を交わし、

またある者は目の前の電子の海に潜り込み、

そしてまたある者は聞き慣れた電気信号を耳へと流し込んで

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HARVEST

シワの多いゴツゴツとした手で

肩の前で小さく弧を描く。

改札を抜けた後で見えるかどうかは分からないが

相手が見えなくなるまではそうするのが、私の流儀だ。

私が守るものから、更に守るものが生命の息吹をかけられて

10数年が経った。

一人で満足に厠にも行けなかったあの頃、

うちに来る度に飼い犬のマイクに怯えてたあの頃、

「おはしもてるようになったんだよー!」と自慢気に

好き嫌いもせず

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The Lunar Rock

どうしても見たかった。

2時間並んでも目に焼き付けたかった。

遠く離れた外国のおとなが

技術の革新と国家間関係への牽制を兼ねて成功させた

一大プロジェクトを、ブラウン管の前で追った。

重力がなく、ふわふわと浮かぶ足元。

水も草も空気も、生物も存在が見受けられない

遠く遠くの星から手にした「証」を

いま見られないと一生見ずに終わると、直感が語りかけるがまま

「見たい」「みたい」と駄

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L'étoile brillante -l'autre côté-

二人一緒にいなきゃ成り立たない。

そんな状況を作ってしまうことは避けたかった。

足場が崩れることで、立つことすらままならなくなるのを嫌がったからだ。

心のなかの、1つの答えを悟られたくなかった。

誰でも弱いところはある。そう言っても

自分で其れを受け止めることと、君に其れを見せるのは別の話だ。

背中合わせで過ごす時間は、常に目を見られていると何か悟られそうだから。

通わせようとする心

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L'étoile brillante

夜を照らす星。あなたの目に写した星。

私の近くで不安をかき消してくれる星。

背中合わせで過ごすことさえある

あなたとの時間は、目を合わせるだけで有耶無耶が解れる事もある。

数多ある選択肢の中、一つの感情と答えという

絶対的な拠り所を求めて、手元の糸と目の中の本意を手繰る。

其の行為は自分でも意識しない内に、

どれだけ時間をかけて心を通わせても、

どれだけ覚悟を決めて唇を重ねても、

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Forget-me-not

散り際は常に誰かの涙を呼ぶ。

この劇場が、長い歴史に幕を下ろす。

そう言った時、多くの人がご多聞に漏れず終幕を惜しんだ。

自分が思っていた以上に、多くの思い入れやドラマが生まれていたんだと言う

場面を見せつけられた時には、コレでよかったのだと安心すら覚えた。

学生時代、寝食も忘れ熱を上げた演劇という様式に対し、

自分が還元できることを考えた結果、

自分が演者として、主催として一番近い

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Into Deep Blue

天から射した光が揺れる。

潮の流れに揺さぶられる草は碧を彩る。

口から漏れた気泡が上昇し、水面に行き着く。

目の前を見たこともない生き物たちが駆け巡る。

普段息の出来無い水の中で、生を感じながら命の多様性と触れ合うのは、

出会いと楽しさのギフトボックスだ。

普段、地上から見る碧とは異なる様相の其れが、心と目を惹く。

嫌に冷たく、鉄を錆びさせる潮風が体を通り抜けることもなく、

全身水

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S.S.F. (Sun Shines Forever)

S.S.F. (Sun Shines Forever)

冷たい風を切って、足早に家路を辿る。

足を進めながら今日一日の出来事を、脳内で巡らせていく。

訪問先での取引の話、企画の進捗、昼食の中身、明日の業務リスト。

こうして社会に組み込まれているという輪郭を指でなぞりながら、

足形の残るほど強い抑圧と、肌を差す冷たさの刺激と、

腸を煮えくり返らせる憤怒とを抱えて、1日24時間という予算を使い果たす。

降りかかってくる猛吹雪に晒されながら、時折

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S.I.RE.N.(Stars Illuminate in Relentless Night)

S.I.RE.N.(Stars Illuminate in Relentless Night)

一粒の星灯り。

それは、地球上一帯を照らし出すには心許なくとも、

夜という限られた時でしか存在感を発揮できなくとも、

その場の主役となりうる。

ある日は子どもたちに願いを託される。

小学生の頃に短冊に描いた「おもしろいことをする!」は

その後テレビに釘付けになり、流行していたお笑い芸人のモノマネをして

瞬く間にクラスの人気者になったという事で叶った。

またある時は愛しあう二人の浪漫

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Skeleton In The Closet

誰にも見えないようにしていた。

誰にも見せないようにしていた。

大して大事にしているわけでもない。

寧ろ適うならさっさと捨ててしまいたかった物だ。

そんなものを自分以外の目につかないところで、

どうしようと言うつもりなのか。

煮え切らず、燃えず、溶けきれず、割り切れず。

処分のしように困る中途半端な心持ちを、

何処まで引きずって持っていくつもりだろうか。

そもそもこいつの扱い方が

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Behind My Eyes

「目は口ほどにものを言う」

その言葉が引っかかってから、話し相手や他人の目の動きを見るようにした。

薄い液晶の向こうに映る少女は、精一杯に目尻を緩め、

楽しさと懸命さを投げかける。

紙面から微笑みかける水着のあの娘は

口角こそ上がれ、目は真剣そのもの。

撮影という強制力が働いているのか、仕事と割りきった

その意地が映しだされたのか。

それは彼女のみぞ知る領域だ。

甘い言葉をかけて

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Morning Glow

人の気持ちにずかずかと入り込んでくる奴程神経を逆撫でる人種もない。

それは「今この人はどう言う心持ちなのか」という言う考慮を度外視した

ものだからと強く思う。

だからこそ距離感やタイミングというものはいささか軽視され過ぎではないか

という考えすら巡る。

それでも世の中には全人に等しい距離感とタイミングで、

人のフィールドに土足で踏み込もうとする存在がある。

日の出。

輝かしくも忌々

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