S.I.RE.N.(Stars Illuminate in Relentless Night)
一粒の星灯り。
それは、地球上一帯を照らし出すには心許なくとも、
夜という限られた時でしか存在感を発揮できなくとも、
その場の主役となりうる。
ある日は子どもたちに願いを託される。
小学生の頃に短冊に描いた「おもしろいことをする!」は
その後テレビに釘付けになり、流行していたお笑い芸人のモノマネをして
瞬く間にクラスの人気者になったという事で叶った。
またある時は愛しあう二人の浪漫を請け負う。
中学・高校の頃はこっそり家を出てコートとマフラーが手離せない寒空の下、
160円のカフェオレを煽りながら、満天の星空を背景に
お互いの好意を分かち合った。
そしてある場所では古から語り継がれてきた物語に擬えられる。
大学の頃は世界史の授業から宗教学や歴史学にのめり込み、
貪るように占星術、神話、歴史書をとっかえひっかえし、
知識欲の空腹を満たしてきた。
星は言うなれば小粋な演出家だ。
確かに無ければ無いでそのまま人生を終えてしまうものでもある。
人生に必要なものではないと一言で切られてしまえば其れで終わりである。
しかし代打コールと共に現れ、たった一スイングで球場の雰囲気を変える
仕事人ベテランプロ野球選手や、
後半途中交代で名を呼ばれ、残り時間3分の所でゴールネットへ曲線美を放つ
代表級プロサッカー選手、
一般小市民のピンチに颯爽と現れ、難局をいとも簡単に撥ね退ける
正義のヒーロー、
そんな彼ら以上の仕事をしてしまう存在。
それは存在自体に価値や意味を掛けられる、という一点で結論づいてしまう。
何かを成し遂げる以上の、その場所に居るだけで仕事が済んでしまう
という圧倒的な力が、肉眼で捉えうる小さな煌めきに十分内包されている。
その細やかな輝きは、誰かが其れに目をつけている限り
特別性と独自性を付与され、仕事を与え、求めるものを出してくれる
まさに夢の永久機関である。
そしてその機関の下、望まない配役を強いられ気を滅入らせる人間にとって
これほど小憎らしい事実もない。
旅路の途中、折り返し地点にも至らない地点にて
指示待ち人形の役目を与えられる。本意とすり合わせられない指示は
少しずつ心の器を割り散らかしていく。
そして請け負った他者の期待は、自分というフィルターを通じてすり替えられ
義務へと濾過され、産まれながら溜め続けていた水に腐臭と汚濁を仕込む。
あからさまに望んだ状況とは異なる世界で、与えられた役目をこなしながら
過ぎていく日々にしがみついているといてもたってもいられなくなった。
そしてお星様との唯一の共通点である
いてもいなくても世界は変わらないという事実にだけ目をつけ、
「天上の貴方様も下僕の私も同じ定めのようですね」と独りごちた。
こうした天への唾棄は、現状否定の為にとった精一杯の反駁として
口から勢い良く飛び出していったが、振り返る間もなくそのまま
虚無感として形を変え、後頭部に突き刺さった。
不思議と痛みはないが、出血と息苦しさを覚えた。
来るものを拒まず去るものを追わない、ただそこにあり続ける光に、
いつか来るであろう夢を追い続け、ただそこにあり続ける者は何を求めるか。
温かいスープか、同意を吐き出す入れ子か、日の沈まない明日か、
はたまた夜が明けない日々に干渉されず、鬱屈と過ごす事ができる場所か。
其れとも、もう戻ってこないであろうあの日の星灯りか。
あの頃と同じ星を、あの頃とは違う目で、じっと見つめる。
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